JR「大崎」駅から徒歩10分ほどに、Miraie(ミライエ)というシェアを楽しむ家がある。雰囲気のある木造建築で、地下1階と地上2階建て、屋上にはテラスとお風呂もある。その家には、4歳の子どもを持つ夫婦と、シェアメイトの20代社会人が2人、そして、日替わりで世界各国から旅人が泊まりに訪れる。その家の主は、「子育てには、核家族になるよりシェアハウスが合っている」と話す。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
「子どもには、色々な人と話して、自分で夢中になれることを見つけてほしい」。こう話すのは、ミライエオーナーの佐別当隆志さん(38)。佐別当さんがミライエを建てたのは、2013年9月末。台湾人の奥さんリーさんと、子育てをしながら住めるシェアハウスを探したが見つからず、自分たちでつくることにしたのだ。
ミライエの地下には、シャワールームとベッドルームが3部屋。そのうち2部屋は年間契約で貸し出し、20代の社会人が使用している。残り1部屋はAirBnBを使い、短期宿泊利用者に貸し出している。その部屋には、3泊から1カ月の期間で泊まることができる。
宿泊費は1泊7000円から。基本的には素泊まりとなるが、リーさんは、ホスピタリティに溢れる性格の持ち主で、喜んでゲスト分の食事を作り、家族、宿泊者全員で食卓を囲むことがよくある。
この制度で、2013年9月からこれまでに80人ほどが泊まりにきた。利用者は外国人が多く、職業では、アーティストにデザイナー、建築家などクリエイターが多いという。
ミライエの歴史は、1Fの共有スペースに凝縮されている。1Fには、広いキッチンと大型テレビ、ソファが置かれているが、四方を取り囲む壁棚には、絵や雑貨、食料が隙間なく飾られている。それらは日本で見るものは少なく、どれも、外国のものばかり。つまり、宿泊したゲストがお礼に置いていったのだ。
佐別当さんは、ミライエでの暮らしを、「毎週、刺激をもらえている」と話す。そう言う理由は、毎週異なる宿泊ゲストらと出会えることに加えて、自身が主宰する定期イベントで知見を得るからだ。
■「同じ釜の飯」が人を集める
筆者が訪れた5月31日、ミライエは子ども向けの音楽ワークショップを開いた。同ワークショップには、近所の親子連れ20組弱が集まった。ファシリテーターに、NHK教育テレビにレギュラー出演していた「あいのてさん」を迎え、子どもたちはペットボトルや風船、ストローなど身の回りのモノで音を出して遊んだ。
ワークショップの中盤では、子どもたちが自由に画用紙に絵を描き、それをまとめて1冊の絵本にして物語をつくった。あいのてさんを呼んだ音楽ワークショップは今回で3回目。リーさんは、音楽が好きで、このワークショップを月に1回の頻度で企画している。「楽器がなくても、音楽を楽しめることに気付いてほしい」と話す。
ワークショップが終わったあとには、懇親会。出された料理は、すべてリーさんの手作りだ。同じ年の子どもを持つ親たちは、リーさんを中心に、子育てなどの話題で盛り上がっていた。
ミライエに人が集まる要因の一つに、この食がある。まさに、同じ釜の飯を食った者どうし、自然と仲間意識が芽生えているように見えた。
シェアハウスを紹介するサイト「ひつじ不動産」を運営するひつじインキュベーションスクエア(東京・渋谷)・北川大祐代表は、「料理をする人が、かすがい的存在になる。だから、シェアハウスを設計するときには、キッチンを中心部に置き、おしゃれにする」と話していた。(オルタナS編集部による取材で)
■「共助」つくり、虐待も災害も改善
ワークショップに、りんたろうくん(3)を連れて参加した對馬真弓さんは、「普段、なかなか近所の人と出会う機会はないので、このような集まりは貴重」と言う。近年、震災時など有事の際に、近所で助け合う「共助」の重要性が叫ばれている。阪神淡路大震災のとき、「共助」によって人命救助された人の割合は半数以上の65%に及ぶ。
東京23区内にある住居の46%が集合住宅であるが、同じ建物に住むマンション居住者でさえも、交流を持たない人が多くいる。地域行事がなくなり、核家族が増えていくと、地縁が薄れ、独居老人が増え、最悪の場合、孤独死につながることもある。
近所でのつながりは、子育てにも影響する。厚生労働省によると2013年度の虐待件数は7万3765件で、過去最多を記録した。親が子どもを虐待する原因として、「母親の孤立」がある。ミライエのようなコミュニティスペースで縁が生まれることで、周囲に子育てに関して相談する人ができ、改善にもなるはずだ。
ミライエができて2年が経とうとしている。多くのイベントを行い、地域にも名が知れだし、町内会とのつながりもできた。今後は、地域に根付いたイベントも行う考えだ。
佐別当さんと奥さんのリーさんは、恵比寿のシェアハウスに住んでいて、そこで出会った。2人は核家族として暮らすよりも、常にさまざまな人と交わえるシェアハウスの環境が、子育てに適していると体感していた。
SNSが発達したシェア時代の暮らしを実践するこの家から、どんな未来が生まれるのか楽しみだ。
■Miraieの公式サイトはこちらから
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