マザーハウスは6月5日、ラオスの伝統織物を使ったクラッチバッグを販売した。その織物をつくる伝統技術はとても繊細で、1時間で織り進める長さはわずか4センチ。繊細な織物をどうデザインしたのか、同社代表兼チーフデザイナーの山口絵理子さんに聞いた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

ラオスクラッチバック(右)は32400円(税込)、ラオスミニショルダーバックは25920円(税込)

ラオスクラッチバック(右)は32400円(税込)、ラオスミニショルダーバックは25920円(税込)

山口さんは初めてその織物を見たとき、鮮やかで繊細な模様に言葉を失った。その織物は、幾何学のデザインが映え、モチーフになっているのは、ラオスで昔から伝わる悪霊を叙霊する伝説の蛇だ。

「この布は何になりたいと思っているのか」、山口さんはその織物と向き合い、耳を傾けた。山口さんは、いつもデザインするとき、その布の「声」を聞くという。実際に、布が話しかけるわけではないが、それほど布を理解した上で製品をつくるのだ。

この織物がクラッチバックになるまでにかかった試行錯誤の期間は、ちょうど1年。悩みながら、サイズ・手触り・重さ・色合いなど、さまざまな角度から案を出した。けれども、いつも納得のいく結果にはならなかった。その織物の鮮やかな幾何学模様は、印象が強すぎるのだ。山口さんは、「どんなデザインにしても、主張が強すぎた」と振り返る。

織物の印象を抑えるために、一部を切ったり、上から別の布を被せたが、どうも違う。どんな方法を試してもしっくりこなくて、山口さんは追い詰められていた。

一方で、織物を作ったラオスの工房「ニコンファクトリー」の織り子たちは、早く製品ができないかと期待に胸を膨らませていた。彼女たちは、この織物を作るのに、3カ月を費やした。この織物は通常、バッグに使わないため、今回は特別に糸同士の密集度を高め強度を増してつくった力作だ。

山口さんがそのバッグの声を聞けるようになったのは、悩み始めてから8カ月後のことだった。主張が強いとしていた織物を、あえて裏地にしたのだ。織物の表と裏をひっくり返したのだが、この織物は1本1本の糸を丁寧に交わしているので、裏もきれいに仕上がっている。

こうして、ラオス産のクラッチバックが生まれたのだ。この商品は、途上国の手仕事の美しさを伝えていくVillageシリーズの第三弾。山口さんは、ラオスの生産背景を伝えるために、特別に絵本も書き下ろした。

山口さんは、「ラオスの織り子が作るこの織物の技術はアジア随一のクオリティ」と断言する

山口さんは、「ラオスの織り子が作るこの織物の技術はアジア随一のクオリティ」と断言する

世間一般が、途上国からの商品に抱くイメージは、日本からの「支援」という意味合いが大きいが、山口さんは、「(彼らのことを)尊敬の目で見ている」と話す。

「私は、彼らのことを直感で才能に溢れた職人だと見ています。『支援したい』『助けたい』ではなく、尊敬の目で見ているのです。だから、意見を聞き入れて、一緒に働いているのです。これまでに作ってきたバッグ何一つとして、一人で作ったものはありません。いつも隣にいるベンガル人が、まるで先生のように教えてくれるのです」(オルタナS編集部による取材で)

山口さんはこうした視点を持ちながら、バングラデシュからバッグを作り続ける。

■ラオスの伝統手織物から生まれたバッグはこちら

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