社会変革(ソーシャル・イノベーション)を会社の使命とする「社会的企業」が1970年代、米国で続々と誕生した。「ベン&ジェリーズ」(B&J)は、パタゴニアやアヴェダなどとともに、その草分けの一つとされる。アイスクリームでどのように社会を変えるのか――。バーモント州の本社を取材した。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

バーモント州のベン&ジェリーズ本社

バーモント州のベン&ジェリーズ本社

B&Jは1978年、米国バーモント州で生まれた。1994年にはイギリスに海外初出店し、それ以降、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダなど続々と進出。2012年には、日本・表参道店をオープン。現在は、スーパーマーケットでの取り扱い店舗も含めると35カ国に広がっている。米国のプレミアム・アイスクリーム市場では常にトップランナーに位置している。

同社を立ち上げたのは2人の人物、ベン・コーエンとジェリー・グリーンフィールド。2人は中学校の同級生だ。

起業した1978年、ベンは数々のアルバイトをクビになり、ジェリーは医学部の受験に2度失敗していた。人生を変えるべく起業しようと話し合い、なけなしの5ドルで、アイスクリーム作りの通信講座を受けた。アイスクリームにこだわったのは、単純にアイスクリームが好きだからという理由から。

こうして、B&Jはバーモント州バーリントンにあった、さびれたガソリンスタンドを改装して始まった。

2人はアイスクリーム作りの経験はなかったが、大きなサイズのチョコレートやフルーツ、ナッツなどが入った製品はこれまでになく、地元で一躍有名になった。しかし、実は、具を大きなサイズにしたのは、差別化を図るためではなかった。ベンは嗅覚が弱く、口に入れたときの食感だけを頼りにつくっていたので、大きな具になったのだ。

ベン&ジェリーズの製品、社員たちは製品の理解を深めるため1日3箱までなら持って帰れる

ベン&ジェリーズの製品、社員たちは製品の理解を深めるため1日3箱までなら持って帰れる

直感を頼りにしたのは、アイスクリーム作りだけではない。経営もそうだ。しかし、直感だけでビジネスがうまくいくはずもなく、1店舗目を開店してからわずか2カ月後に、一時的に店を閉めた。そのとき、店頭には、「お店が儲かっているのか赤字なのか確認するため一時閉店します」という看板が貼られた。

■世界35カ国でフェアトレード化

ベンとジェリーは言い合うこともあったが、「アイスクリームを通して、社会を良くしていく」という思いは一緒だった。会社の使命を社会変革と定めており、1985年には、社会的使命を果たすための財団「BEN&JERRY’Sファウンデーション」を立ち上げ、年間売上の7.5%を非営利団体に寄付している。

同年には、事業が急速に拡大していき、取締役のなかから、「今の時期に売却を」という意見が出た。しかし、ベンもジェリーも、利益を得るために起業してきたわけではないので、その意見に反対した。この対立がきっかけとなり、企業理念が生まれた。

その理念は、仕入先、従業員、農家、フランチャイズオーナーなど同社にかかわるすべての人が「共存共栄」できる社会を目指してつくられたものだ。

原材料をフェアトレード価格で買い取る「製品における使命」、安定した収益を出す「経済的使命」、社会問題を啓発する「社会的使命」だ。この3つの理念は相互平等に位置づけられている。年に4回開催される取締役会では、この理念をもとに同社の経営方針を話し合う。2000年に、ユニリーバグループの一員となったが、現在もこの3つの理念をもとに同社の経営は行われている。

アイスクリームの原料となる、ココア、コーヒー、バニラ、砂糖、バナナなどは2014年、現在進出している世界35カ国すべてでフェアトレード認証されたものへの切り替えを完了した。

米国では、大量生産型の農家が目立つが、同社は地域の酪農家と契約を結んでいる。バーモント州で契約している家族農場は、同社のCaring Dairy(ケアリング・デアリー)と呼ばれる持続的酪農経営プログラムに参加している。

ケアリング・デアリーで飼育された牛

ケアリング・デアリーで飼育された牛

同プログラムには、土壌の管理や牛の飼育方法、農場の経営体制などを含む11のチェック項目がある。同プログラムに参加している農家には、原価に加えてプレミアム価格を追加で支払っている。こうして、持続可能な農場経営を支援しているのだ。
GMO(遺伝子組み換え作物)の表示義務化を政府へ訴えるため、署名活動も行っている。

2012年からは同じ志を持つ若手社会起業家の支援も行う。2014年は、ドイツ、スウェーデンなどのヨーロッパ諸国に加え、シンガポール、日本を含む11カ国でビジネスコンテストを開いた。優勝者には、賞金に加えて、製品とのタイアップ権利と本社へのツアーが与えられた。日本で「集まれ!よよよい仲間たち!」と呼ばれる同ビジネスコンテストは今年も開催される。

日本代表は、NPO法人Homedoorの川口加奈さん。本社社員の前でプレゼンした

日本代表は、NPO法人Homedoorの川口加奈さん。本社社員の前でプレゼンした

■ネーミングで製品に愛着

こうしたソーシャルな動きで特徴的なのは、マーケティング主導の戦略ではなく、自分たちの正義観を信じて、動いているところだ。ジェリーの「If it’s not fun,why do it?(楽しくなければやる意味がない)」という言葉が、同社の文化を表している。

消費者とのコミュニケーションも独特だ。消費者のことを、単純に消費者としてとらえるのではなく、社会を変えていくパートナーとして見る。1986年には、競合他社がタレントを起用し、マスメディアに広告を流すなか、ベンは店舗がない地域に車で周り、自らアイスクリームを配った。

工場には販売しなくなった製品のお墓がある。観光スポットとして有名

工場には販売しなくなった製品のお墓がある。観光スポットとして有名

より多くの人に社会的課題に対する取り組みを知ってもらうために、ユニークさも忘れない。そのユニークさを表している一つが、商品のネーミングだ。単純に、バニラ味を「バニラ」、チョコレート味を「チョコレート」とするのではなく、一つひとつにこだわった名前をつける。

たとえば、ジョン・レノンを連想させる「イマジン ワールド ピース」。同社は2008年、ジョン・レノン財団らと組み、米国で平和を訴えるキャンペーンを行った。この商品は同キャンペーンの一環としてつくられた。

キャンペーンに合わせて商品名を変えたこともある。イギリスでは、2012年に同性婚の合法化を求めるキャンペーンを行い、そのタイミングで、アップルパイ・フレーバーの商品名を変えた。「Oh!My!Apple Pie!」から「Apple-y ever after」とした。「Apple-y ever after」とは、「末永くお幸せに」という意味を表す「Happily ever after」をもじったもの。パッケージには、タキシード姿でブーケを持った男性2人が、ウェディングケーキの上に立っているイラストが描かれた。

これらのネーミングは、外部のコピーライターに依頼しているのではなく、マーケティングチームやフレーバーチームらで話し合って決めている。

社会的課題に取り組む際に気をつけていることは、「課題へのスタンスを明確にすること」と、同社のヨースティン・ソルハイムCEOは話す。

ヨースティン・ソルハイムCEO

ヨースティン・ソルハイムCEO

消費者がその問題をどう見ているのかではなく、まずB&Jがどう見るのかを考える。社会的課題に対するスタンスを明確にすることによって、消費者間で賛成反対の議論が生じる。同じ立場を取る消費者の共感を得て、その結果としてロイヤリティの高いファンの獲得につながっているのだ。

ヨースティンCEOは、ソーシャルな力でファンをつくるには、「小さなステップを積み上げていくこと」とした。同社では、創業の翌年から毎年、地元に感謝するため、製品を無料で配布するフリーコーンデーを実施している。この行いを例にし、「はじめから大きなことを完璧に変えようとするのではなく、小さなことから行っていく。そうすることで、ロイヤリティの高いファンができ、経営を成功に導いてくれる」と話した。

◆この記事は、6月29日(月)発売の雑誌「オルタナ41号」にも掲載されています。オルタナ41号の第一特集は、「なでしこ」な会社の作り方。トップインタビューは、カルビーの松本晃会長兼CEO。松本会長は、「多様性なき企業に明日は無い」と断言します。お買い求めは、全国の書店またはamazonなどで。

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