NPO法人iPledge(アイプレッジ、東京・渋谷)代表の羽仁カンタさんは、大学生や20代の若手社会人向けにボランティア活動を通した人材教育を行う。同団体では、ボランティアスタッフに、目標を定めさせ、「どう生きたいのか」と問いかける。羽仁さんは、若者に「誇りを持ってほしい」と言う。若者に込める思いを聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)
――羽仁さんは、1994年から「ごみゼロナビゲーション」(以下ごみゼロ)という環境対策活動を企画し、フジロックフェスティバルなどの野外イベントをクリーンにし続けてきました。この活動に参加するコアスタッフには、「目標を持て」と口酸っぱく伝えているそうですね。
羽仁:その人が今年一年どうしたいのか、目標を立てるように言っている。目標がない状態でずるずると過ごしてしまったら、活動がただの思い出づくりだけで終わってしまうからね。
だから、色々なところで、「で、キミの目標は?」と聞いているよ。全体会議でも、飲み会でも、誕生日パーティーでも、常に聞いているね。
「禁煙する」、「時間に遅れない」、「今日1日は怒らない」など、小さなことでも、決意をしてほしい。アイプレッジは、「世界は決意でできている」と掲げているが、自分で区切りをつけて意を決するわけで、決意ができれば、達成できないかもしれないけど、走りだすことができる。
ぼくは、人はどんなタイミングでも目標を立てるべきだと考えているよ。恋人がいる人は、今日一日を2人でどうやって幸せに過ごすのかいつも考えるべきだよ!なんて、たとえばの話だけどね(笑)。
自分で決意して、自分で目標を立てる。そして、自分の身の丈にあった目標をクリアしていくこと。これを繰り返して、自立心や自尊心を育てて、自分に誇りを持てるようになってほしいと思っているよ。
――こうしたやり取りをコアスタッフの若者たちはどんな風に感じているのでしょうか。
羽仁:去年、ごみゼロナビゲーションのボランティアにかかわった大学生には、その人が卒業するとき、「羽仁さんのことをすべて正しいとは思っていない。半分くらい」と言われたよ(笑)。確かに、ショックだったけど、そう言えるのは、その人が自立した現れだから、それで良いんだと思う。
ある調査*1では、3人に1人の若者が「将来に希望が持てない」という結果がでている。ぼくもごみゼロの活動を通して、毎年数千人の若者に会うが、自信を持てていない人は多いね。このことについて何と改善したいと日々思って、活動しているよ。
――1994年にごみゼロを始めていますが、そのときの主催団体は、A SEED JAPAN(アシードジャパン)でした。2014年からは、iPledge(アイプレッジ)を立ち上げ、アイプレッジの活動として、ごみゼロを行っています。どのような経緯で、主催団体が移ったのでしょうか。
羽仁:もともとごみゼロナビゲーションは、A SEED JAPAN(アシードジャパン)の取り組みの一つとして生まれた。アシードジャパンでは、環境に関心のある若者と国際会議や政府、国内外の企業に提言活動をしてきた。
提言活動も大事な活動だけど、それは少人数しかかかわれない。なぜなら、英語は必須で、勉強も必要だから。小難しいことが好きでないとできないもの。
ごみゼロの活動は、その提言活動とは異なり、多いときで年間2000人くらいの若者たちが、参加する。94年は年に1回だったが、98年には年に3回、2005年には年に10回行い、若者と接している時間が年を追うごとに多くなっていった。
若者たちと一緒にいて、彼らにとっての大事な時間は何かと考えるようになった。当然、環境問題は人類が生きていくために、重要な問題。でも、それ以前に若者たちが自分に自信を持つことや可能性を信じることが大事ではないかと気付いたんだ。
自分に自信を持てない若者たちが、未来の自分、なりたい自分になっていくために、必要な試練やチャレンジを通して成長していくことや、様々な価値観と情熱を持った仲間と出会う場を提供していくことが必要だ!と思い2014年にアイプレッジを立ち上げた。
――アイプレッジでは、ごみゼロ以外にも、多様な生き方について考える「LiFE BUFFET(ライフビュッフェ)」や地方でさまざまな体験をする「i,turn.(アイターン)」なども行っていますね。アイプレッジの活動で大切にしていることは何でしょうか。
羽仁:大切にしていることは、自分と他人と信頼関係をつくること。ただ、信頼関係をつくる前に、「自分」がないと、人とコミュニケーションが取れない。
「自分」がなくて、コミュニケーションを取ったところで、相手に本気や誠意、考え方が伝わらない。人とのつながりをつくるためには、「さぁつながろう」という単純な動きではなく、その人が、まず一人の個として、自分自身の魅力的な部分に気付いてもらうように働きかけている。
――どのようにして、自分の魅力的な部分に気付かせているのでしょうか。
羽仁:魅力的な部分というより、ありのままの自分の良さに気付かせる、という方が近いかもしれない。
例えば、自分に都合が悪くなるとすぐに連絡を返さなくなり、関係をシャッタアウトしてしまう人もいる。でも、ありのままの自分を見せて、相手の批判を受け入れないと、人との信頼関係はつくれない。
今の若者は、化粧や服で、表面的に着飾るのは得意になっているが、どんどんありのままの姿をさらけだすことに恐怖感を抱くようになっている。
ありのままの自分に自信を持つことが、一番自然体で楽にいられる。もちろん、ダサい自分があってもいい。それも含めて自分なんだから。それと向き合って生きていくしかない。
そうしないと、人とは真剣にかかわれないし、何かを成し遂げることもできない。
それができた人は、人を裏切らなくなるし、大学を卒業して立派な社会人として活躍しているね。
――多くの人と連携しながら活動していくことで、自然とありのままの姿になっていくのですね。
羽仁:ここでは、いろいろな活動ができるから、ありとあらゆる挑戦ができる。でも、ここには、学校で学んだような正解はない。みんなでチャンレンジしていくなかで、答えをつくりあげていく。
活動はゼロから作らなければいけない。ボランティアをゼロから集めて、誰でもわかるようなマニュアルをつくり、会場ではお揃いのTシャツを着ながら、汗水を流して走り回る。対人関係における、ありとあらゆることが求められる。
イベントを進めるためには、飲食出店から運営スタッフまで、さまざまな人とコミュニケーションをとって進めなくてはいけない。いちいち自分は、どう見せたいのかなんて考えていたら、前に進めない。ほっといたらイベントなんて、時間がきて終わってしまうんだから。
この環境で若者たちは、いろいろなスキルが試せて、チャレンジできる。そして、意外な自分に気付ける。
野外音楽イベントでは、うちの団体はメンバーみんなで、1週間も同じ宿に泊り込んで、同じ飯を食う。
風呂の中では、「カンタさん、なんすかその腹!」なんて言われたりもするよ(笑)。同じ釜の飯を食うことで、仮面をはいでいく。ときには言い合いになってもいい。本気で感情的になることは自分を出している証拠。言いたいことがあるのに、言えないのは不健全。衝突して、傷ついたとしても、何らかの結論が出る。そうやって、揺さぶって本質を出させることが、ぼくのやり方なんだ。
※1 平成26年6月に内閣府によって行われた「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」。
日本、韓国、アメリカ、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、計7カ国の13歳から29歳の若者を対象に行われた質問への回答をもとに、日本の若者の意識や特徴を分析したもの。
◆羽仁カンタ:
NPO法人iPledge・ごみゼロナビゲーション統括責任者
誰もが対等な、参加型市民社会の創造を目指して活動中。国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」を1991年設立代表を務め2014年まで理事。全国の野外音楽フェスティバルでのごみを削減する「ごみゼロナビゲーション」活動を94年からスタート。 フジロックフェスティバル、ap bank fes、アースディ東京、エコプロダクツなど年間30本のイベントに2000人のボランティアが参加している。2014年からオリンピックの環境対策を行うプロジェクトを開始している。2015年にはお花見時の都立公園や逗子海岸での活動もスタートしている。