日本・イスラエル・パレスチナ学生会議(JIPSC)は、イスラエルとパレスチナの両地域から大学生を日本に呼び、「紛争」を軸にさまざまなテーマでディスカッションの機会をつくっている。対話によって、相互理解を深め、エンパワーメントすることを狙う。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
JIPSCは8月7日から24日にかけて、日本・イスラエル・パレスチナ合同学生会議を開いた。この会議に参加したのは、日本とイスラエルとパレスチナの学生たち。17日間で、広島の原爆ドームや平和記念資料館を周りながら、対話を繰り返した。
対話のテーマは、参加者が事前にフェイスブックグループ上で話し合った。その結果、「暴力」・「入植地」・「分離壁」・「難民問題」の4つと、最後に対話の総括として、今後について話し合った。
昨年、ガザ侵攻もあり、両地域の紛争は長期化し、解決の兆しが一向に見えない。紛争によって、分断され、お互いの学生は会うことができない。参加したパレスチナの学生からは、「兵士以外のイスラエル人と話したことは初めて」という声が聞かれた。
会うことができないため、お互いへの知識が偏ったものになっている。たとえば、イスラエルが建設した両地域を分ける分離壁について、イスラエル側では、パレスチナのテロを防ぐために建設したと主張。一方、パレスチナ側は、(分離壁が)パレスチナ側の土地まで入り込んでいる。交通の便が悪くなっていると2次被害を訴えた。
■参加者は「裏切り者」
この会議は、今年で13回目となるが、紛争問題について、短期間の対話で解決策を見出すことは簡単ではない。対話中、「正論ではあるが、息子を亡くした母親も納得させることができるのか」という意見が出て、言い返せる者は誰もいなかった。
会議の目的は、平和への糸口を探ることであるが、この会議を開催すること自体が、意義があるとJIPSC代表の吉田晶子さん(明治大学文学部2年)は言う。その理由は、「個人として、相手を分かり合おうとするから」。
JIPSCの広報・中村茉貴さん(国際基督教大学3年)は、「両地域の人たちが紛争について話すことはタブー視されている。その問題について、思っていることを隠さず言い合えることは重要」と話す。
しかし、意義を感じると同時に、無力感を感じることもあると、吉田さんは告白する。
その理由は、挑んでいる課題が複雑過ぎるためだ。さらに、会議に来る学生のようにリベラルな考え方を持った若者は少数派。特にイスラエルではホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)への意識が強い。自分たちを脅かす存在には敏感に反応する。
パレスチナは、イスラエルの兵士から日常的に被害を受けている。そのため、イスラエルと仲良くする人は、「裏切り者」として見られることがあるという。参加者の中には、周りには黙ってこの会議に参加した学生もいる。
無力感を感じる要因はあるが、「対話では、現状の課題を通して、今後どう生きていきたいのかを話し合う。参加者たちは友人になれる。仲良くなることで、いつか何かが変わるかもしれない」と前を向く。
吉田さんの言葉通り、参加したイスラエル人のイランさんは、「はじめのうちは、パレスチナの学生と距離を感じていた。しかし、三食をともにし、家族のようなコミュニティで過ごしたことで、すべて変わった。これまでは、国籍によって人を見ていたが、お互いを、人として見ることができるようになった」と感想を話した。
■「対話こそが平和への道」
JIPSCは2003年、国際基督教大学の大学生サークルとして生まれた。団体の信念として、「対話こそが平和への道」と掲げる。毎年夏に行う、イスラエルとパレスチナの学生を呼んだ会議のほかに、勉強会やシンポジウムを行っている。
吉田さんで13期目だ。OBOGは100人以上おり、企画の運営や営業などに協力してくれている。日本への滞在の後半では、東京観光の時間がある。この時間は、対話を経て、さらに仲良くなってもらうためにつくった。
バスに乗りながら、品川から出発し、六本木を経由して渋谷に戻るものだが、車中では音楽を流し、クラブのような空間に。この企画は、OBOGが担当した。
昨年から対話の質を上げていくため、「平和学」について学んでいる。さらに、多様な人を巻き込むため、毎週土曜日に両地域の紛争問題について学ぶ勉強会を開き、一般公開もした。
吉田さんは、「空間を同じくして、話し合うことには価値がある」と信じる。
[showwhatsnew]