また、「どうして駄目なのか」ということを、僕が論理的に説明できないというのも事実なのである。こんなことを考えていたら、自分が今、関わっているプロジェクトも同じような悩みを抱えているのではないだろうか、ということに気付いた。

道端に捨てられているゴミ

道端に捨てられているゴミ

プロジェクトの柱の1つは「CHV(Community Health Volunteer)によるメッセージ伝達」である。しかし、僕が見たところ、それほど上手くいっているようには見えない。伝えるというだけであれば、小さな村なら特に、もっと浸透していていいはずである。しかし、メッセージはまだまだ伝わっていない。なぜなのだろう。僕が仮定した理由は2つ。「メッセージが受け入れ難い(受け手の問題)」もしくは「CHVが活発に動いていない(送り手の問題)」である。

まずメッセージについてだが、CHVが伝えているメッセージは「産前健診4回・産後健診2回・出産間隔は3年」というものだ。健康診断はともかく、出産間隔3年間というのは結果的に子どもの数を抑制することにもつながりかねず、これがネックになっていると考えられる。プロジェクトデータによるとシリア平均5.4人に対し、この地域では7.3人。話を聞いていると、10人子どもが居るというのは決して珍しい話でもない。西洋医学的見地からすれば、出産間隔は3年が望ましいとされるが、「毎年産んでるよ」という話を聞く。

本人たちが「それほど危険とは思えない」と考えていたり、家庭やコミュニティにとって、子沢山を優先する事由があるのであれば、メッセージは効果的に伝達しないだろう。慣れ親しんだ習慣を辞めるのは難しい。それを変えるのであれば、相当に合理的で納得できる理由が必要だ。

そして、CHVが活発に動いていないのでは、ということについでだが、僕が何度も「ゴミを捨てたらダメだよ」ということに対して疲れてきたのと同様に、CHVも「変わらない習慣」に対してうんざりする部分があるのではないだろうか、という推測ができる。同じメッセージを根気強く伝え続けるというのは非常にしんどい。そんな時に「頑張れ」とエールだけもらっても、いつか疲れ果ててしまうだろう。

そこで、伝達そのものを目的にせずに、その行為を楽しむための工夫みたいなものは考えられないだろうか。例えば、イベント作り。保健センターを中心にしたお祭りを企画して、そこで展示会や健康診断を行なったり、メッセージ性のある劇をしたり、そういう過程を楽しめそうな提案をしてみても良いかもしれない。

自分が感じたことというのも、活動のヒントになる。ただ、日本とは文化も違うのだし、そもそも同じ文化圏でも考え方なんて人それぞれだ。それをそのまま持ち込んでも効果は薄いだろう。こうした気付きを活かすためには、色々と考えるべき点はある。しかしながら、一緒に活動する人も、僕らのプロジェクトで影響を受ける人も、「プロジェクト関係者」や「開発の対象」である前に、一人ひとりの人間である。知っているようで忘れがちなそのことを、ゴミのポイ捨てから改めて気付かせてもらった。この初心を忘れないで、これから始まっていくであろう具体的な活動に向かっていきたい。

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