書き手であるホームレスと読み手が一緒に文学を楽しむ場、それが「路上文学賞」だ。『俺俺』(新潮社)で知られる小説家の星野智幸さん、写真家の高松英昭さんが中心となり2010年に始まった。10月1日から募集を開始する「第4回 路上文学賞」に向けて、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で支援を募っている。(オルタナ副編集長=吉田 広子)
「家」や「家庭」というものを思い浮かべるとき、ぐらぐらと 急に足許が おぼつかない不安定な気持ちになります。
もし 「帰ることができる“家が、ない“」ということも、ホームレスに含めるのであれば、幼い時から 私はホームレスでした。――「エンドレス シュガーレス ホーム」(著者:鳥居)から
「第3回 路上文学賞」大賞を受賞した鳥居さんは、二人暮らしの祖母の介護に追われ、小学校にも通えない生活を送ってきた。鳥居さんは「私にとって芸術だけが唯一の居場所であり、友だちでした」という。受賞を機に新聞などでの連載も始まった。
路上文学賞は、文学を通じて書き手と読み手が寄り合う場所をつくりたいという思いで設立された。発起人の星野さんは、「ホームレス状態にある人は、常に他人の目を恐れながら生活し、ホームレスらしくふるまってしまう傾向にある」という。
そこで、「自分の生活や考えていること、空想することなどを、自分の言葉で語ってもらい、自分たちに実感のある言葉で書くことができれば、言葉自体はつたなくとも、まごうかたなき文学作品になる。多くの人に、そのような言葉を書けたときの充実や歓びを知ってほしい」(星野さん)と、路上文学賞を開始した。
応募資格である「路上生活者」は、住む場所がない、一度でも路上生活の経験がある、ネットカフェなどを寝場所にしている、生活保護寮や自立支援寮に住んでいる――など広くホームレス状態にある人を対象にしている。
作品は、小説、エッセイ、SF、詩など文学であれば形式は問わない。副賞として大賞(1人)には5万円、佳作(5人)には5千円が与えられる。
■画一的なホームレス像を打破する
路上文学賞は、書き手の自己表現の場になるだけではなく、読み手も書き手に近付いていくことに意味がある。
第2回の文学部門大賞受賞作品「ホームレスギャンブラー」(著書:川端欽二)は、語り手が勝負をかけた競艇のレース模様を描く回顧録的な作品だ。読み進めるうちに、画一的だった「ホームレス」が強烈な個性とともに一人の人間として浮かび上ってくる。
実行委員の一人である清本周平さんは、「生活支援とは違って、正直、だれのためにどんな支援につながっているのか、分からないところもある。ただ、こんなにユニークで主張のある作品一つひとつをもっと多くの人に読んでみてほしい」と思いを語る。
クラウドファンディングサイト「READYFOR」では、すでに目標金額の40万円を達成したが、10月1日まで支援を募っている。集まった寄付は、作品の募集活動や贈賞式、小冊子の作成費などに充てられる。受賞作品は公式サイトに掲載されるほか、小冊子にまとめられ、2000部が配付される予定だ。
路上文学賞の実行委員会は現在、ホームレス支援団体らの協力を得て、東京、大阪、仙台、福岡など各地で、夜回りや炊き出し時に声をかけるなど書き手の募集活動を行っている。編集者として書き手を支援する「路上編集者」も募集している。
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