国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)とStudents&Scholars Against Corporate Misbehaviour(SACOM)、Labour Action China(LAC)は今年1月、「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングの下請け工場の労働環境を調査した。その結果、低賃金での長時間残業や危険な化学物質による健康リスクなどが明らかになった。その調査から半年後、ファーストリテイリングは工場の労働環境を改善する「CSRアクション」を公表したが、SACOMが行った最新調査によると「現場では実際にその措置が実施されてはいない可能性が高い」ということが分かった。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
HRNとSACOM、LACは2015年1月と2月、ユニクロの商品を製造する中国の下請け工場「Pacific」と「Luenthai」、カンボジアの3つの下請け工場への潜入調査を行った。主に明らかになったの、以下の点。
1)長時間残業と低賃金
PacificとLuenthaiの基本給は、それぞれ月額1550人民元、1310人民元としているが、これは地域の最低賃金。両地域の2013年の労働者の平均賃金は、月額5808人民元、2505人民元。この工場で働いて暮らすためには、時間外労働をしなくてはいけなく、Pacificの残業時間は月平均134時間、Luenthaiは月平均112時間と確認された。
2)危険な労働環境
工場内は高温な環境で、上半身裸のまま作業する労働者が多くいる。なかには、あまりの高温に失神する者もいた。生地を染めるために、さまざまな種類の化学物質、染料、顔料などが使われていて、現場では刺激臭で満たされている。工場側は、労働者にマスク、グローブ、専用スーツなどの防護キットを提供しているが、防護キットの着用の有無は労働者の任意。染色作業場の室温は40度なので、マスクなどを着けている労働者は少ない。
こうした状況から、HRMとSACOMは2月、ファーストリテイリングへ下請け工場の労働環境の改善を要請する共同声明を出した。その声明では、6つの改善施策を求めた。
1)ファーストリテイリングが行った工場調査などを公表し、透明性を確保
2)サプライヤーに対する低い発注額の見直し
3)2015年6月までに、サプライヤー5社において、非営利の労働者の権利擁護団体の参加を確保したうえで、民主的な工場単位の労働組合の結成の促進および、労働者へのトレーニングの実施
4)サプライヤーへのモニタリング体制の改善
5)サプライヤーリストの公開
6)市民団体との対話
ファーストリテイリングはこの要請に対して7月、改善施策をまとめた「CSRアクション」を公表した。だが、HRMの伊藤和子事務局長は、「どれも納得のいくものではない」と批判する。
「情報公開が限定的で透明性がない。労働者へのトレーニングについて、傍聴を要請したが拒否された。サプライヤーリストの公開も拒絶された。できない理由の説明責任も果たしていない。これは非常に問題である」さらに、CSRアクションが公表されてからSACOMが実施した聞き取り調査では、CSRアクションに記載されていたことが実施されていない可能性が高いことが分かった。実際に実施されていない可能性がある項目は以下。
1)違法時間外労働
中国の下請け工場の基本賃金と出来高賃金は非常に低いまま。この工場で働き、生活していくためには、Pacificでは約80時間、Luenthaiでは約100時間の時間外労働が必要。
2)労働者の健康と労働環境
Luenthaiで働く裁断部門の労働者は、「監査のときだけ防塵マスクが配布される」と証言。工場で使われている化学物質の特定・公表もされていなく、その化学物質に応じた健康対策が取れていない。
3)労働組合の選挙は名ばかり
労働者の意思に基づき、公正な選挙によって組合代表が選ばれるようになってはいない。
HRNとSACOM、LACは、ファーストリテイリングが労働を監査する国際機関Fair Labor Association(FLA)と提携すると決めたことについては、評価しているが、「監査やCSRにかかわる取り組みの透明性と説明責任をFLAへの委託だけで済ませてはいけない」とする。
伊藤事務局長は、「サステナブルでエシカルな企業になるためにトップの決断を待つ」と前置きし、「H&M、ナイキ、アディダスなどはサプライヤーリストを公開している。いますぐに公開しないとしても、いつまでに公開するのか説明してほしい。低賃金の原因となっている発注価格についても見直し、業界横断で政府に働きかけ、最低賃金の引き上げを目指してほしい」と言う。
HRNでは、近くファーストリテイリングへ再度要請書を提出するという。
【第一回世界子どもの日 映像スピーチコンテストのお知らせ】
認定NPO法人・ヒューマンライツ・ナウは、「世界子どもの日」にちなんで、映像スピーチコンテストを開催します。子どもたち(中高生)に、「子どもの人権・権利」、「世界や日本の子どもたちの置かれた状況と人権の大切さ」、「身近なところで感じた人権の大切さ」などについて語った映像をヒューマンライツ・ナウに送っていただき、審査員により審査を行います。優勝者の学生を、11月21日にヒューマンライツ・ナウが主催する世界子どもの日記念「チャリティーウォーク&ラン2015」へご招待し、閉会式でスピーチを披露していただきます。
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