オルタナは11月13日、『未来に選ばれる会社――CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版)の出版記念として、法政大学大学院政策創造研究科の坂本光司教授を招き、トークショーを開いた。『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)の著者でもある坂本教授は、40年間で企業7000社以上を研究してきた。経営者が決断するときに必要なモノサシは「2つある」と言う。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

坂本教授とオルタナ編集長・森摂で、業績志向だけではない経営のあり方について話し合った

坂本教授とオルタナ編集長・森摂で、業績志向だけではない経営のあり方について話し合った

坂本教授はトークショーの冒頭、社員を大切にする会社が長く続く理由として、2つあると説明した。一つは、「所属する組織に不平・不満を持っている社員がその組織の業績を高めることはできない」とし、もう一つは、「不平・不満を持っている上司の昇格を助けようとは考えない」とした。「7000社研究してきたが、長く続くいい会社は社員を大切にしている。これはまぎれもない事実」(坂本教授)。

坂本教授は企業研究を40年以上続けているが、「社員を大切にする会社が長く続くのでは」という仮説を持ったきっかけを振り返った。坂本教授は経営学を学んだが、学んだ当時は、「会社の目的は拡大すること」という教えを受けていた。しかし、企業を訪問していくと、業績を求めていないが高く、業績を求めているが低い企業があることに気付いた。そして、そこから、「社員が幸せな企業は長く続く」という結論にいたった。

坂本教授は業績志向の経営学に異論を唱えた。「かつての私も教えられたが、企業の拡大を最大の目的とする経営学を教えられたエリートな学生が社長になると、その企業は業績志向に陥ってしまう。社員を大切にすることでいい会社になるという経営学についてもっと世の中に伝えていきたい」。

坂本教授はゼミを持っており、ゼミ生の約7割が経営者だ。ゼミの授業の一環として、坂本教授が評価する会社を訪問する。その数は年に90社ほど。「本を読むだけでなく、実際に現場を見ることで価値観が変わる。ゼミの卒業生の9割が、障がい者雇用に取り組むようになった」。

障がい者は800万人ほどいるが、そのうち民間企業で働けているのはわずか40万人ほど。坂本教授は、『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの最新作を執筆中だが、最新作では6つの会社を紹介するという。その中の1社は北海道にあるクリーニング業者。社員数は1300人だが、その半分が障がい者である。

その会社は当時20代だった夫婦が立ち上げた。坂本教授は、その会社を起業した理由について、「どこも雇ってくれないので、自分で会社をつくった」と語る。社長である夫は片目と両腕がない重度の障がい者である。夫が28歳のときに起業したが、最初の3年間は社長としての給料はゼロだったという。そのため、新聞や雑誌などへの原稿執筆で稼いでいた。腕がないためペンは持てないので、原稿を書くときは口でくわえて書いた。

その夫は今では社員1000人以上を抱える会社の経営者だが、まだ起業していないときには、父親から「一緒に死んでくれ」とまで言われたことがある。坂本教授は、「業績志向ではなく、社員の幸せを第一に考えている経営者は、少ないが確実にいる。会社は社員を幸せにするためのもの。そのような会社を応援していきたい」と力を込めた。

トークショーの最後に、いい会社になるために経営者の決断に必要なモノサシは2つあると明かした。「1つは、正しいのか、正しくないのか、そしてもう一つは、自然か不自然か」。

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