こんにちは、城宝薫です。私は現在、立教大学経済学部に通う大学4年生です。そしてテーブルクロスを起業して経営者もしています。テーブルクロスは「利益の創造と社会への貢献を同時に実現する文化を創りたい」との思いで立ち上げ、飲食店予約アプリサービスを展開しています。

これは従来のサービスが固定化した高コストの広告モデルであったのに対し、一人の予約に対してのみ広告費用が発生する「成果報酬型」をはじめて導入したものです。そして、1人が予約をすると1名分の途上国の子どもの学校給食が支援されます。こうした利益と社会貢献の両立を目指す活動はCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)と呼ばれています。

私の起業は日が浅く、こうした事業への想いはあっても、まだまだ手探り状態です。そしてCSVはこの日本ではまだあまり知られていません。そこで、既にCSVに取組んでいる企業の皆さまにインタビューをさせて頂き、企業のお考えや取組みを紹介することでこの活動を日本に広めたいと思っています。連載は私が大学生である2016年3月まで行う予定です。

今回は前回のロート製薬さんに続く二回目として、味の素株式会社さんへのインタビューをご紹介します。日常生活で身近な「味の素」ですが、人と地球の未来のために様々な貢献をされていらっしゃいます。ご対応下さったCSR部 専任部長の栗脇 啓さんのお話しをまとめましたので、お読みいただければ幸いです。(前編はこちら
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◆世界一の長寿国、日本のノウハウを世界へ

城宝さん

栗脇「味の素ではCSRを含めた社会貢献と事業は別物ではなく、密接に繋がっているべきであると考えています。そして、自社が得意な事や、味の素にしかできないことを重視して企業価値と社会価値を向上させていこうとする活動がASVです。特出して、栄養、健康や美味しさを追求していますが、この源泉がアミノ酸なのです」

城宝「味の素の強みとしているアミノ酸は、味の素グループ全体の意識と行動によってさらに良い方向へと活かされているのですね」

栗脇「社名でもある「味の素」は日本の昆布だしから生まれて世界に広まったうま味調味料ですが、化学的には体をつくるタンパク質を構成する20種のアミノ酸の1つであるグルタミン酸です。つまり体の中にもともとあるものであり、日常食べるタンパク質にも含まれています。アミノ酸はおいしさの素にも栄養の素にもなるのです。ご飯と味噌汁という日本食の伝統的な組み合わせは実は各種アミノ酸の絶妙なバランスをつくっています。日本人は科学的知識がなくても栄養バランスを考え実践する知恵をもっているのでしょう。そして、今では和食やうま味は世界の注目を集めていますし、健康寿命の高さも有名です。そこには栄養の力があることは間違いありません。日本人が当たり前と思っている栄養のことは途上国では殆ど学ぶ機会がありません」

城宝「日本が持つ”食”と”栄養”の知見は世界からも一目置かれていますものね。」

味の素株式会社 CSR部 専任部長の栗脇 啓さん

味の素株式会社 CSR部 専任部長の栗脇 啓さん

―Joho’s eye―
「美味しく食べて健康づくり」という志は、日本のみならず海外で事業展開する際にも心がけていることだと言います。私自身、途上国には何度も行ったことがありますが、食べるために働かないといけないこどもたちにとっては学校に行くと食べる喜びがあります。その後、安定して食べられると、次は栄養バランスの課題にぶつかります。現地では、栄養に関する知識が無いに等しいこともあり、小学生であっても身体は小さいです。さらに国が発展すると、栄養、健康と美味しさを追求するというステップがあることを考えると、途上国の国力に活気を付けることも私たちの役割のように思いました。

◆現地でのパートナーシップを進める

kokoplus栗脇「ASVは既存の事業を含めあらゆる事業が目指すべきものですが、地盤がないところからソーシャルコーズを立ち上げる場合はいろいろと苦労があります。現地でパートナーシップを結ぶことができる組織が見つかった場合は積極的な活動に発展していくことも多々あります。その例が、ガーナでの栄養改善プロジェクトです。離乳食の栄養バランスを強化するアミノ酸入りのサプリメント「KOKO Plus」の開発、製造や販売を行い、離乳期のこどもたちの栄養改善を目指しています」

城宝「これまで他の地域で取り組んできた、アミノ酸を用いた栄養改善とはどのように違うのでしょうか?」

栗脇「それまでアミノ酸の栄養改善効果については世界各地で10年以上臨床データを集めていましたがビジネス化には至っていませんでした。ガーナの場合、事業拠点はありませんでしたが、ガーナ大学の先生から栄養食品ビジネスの共同開発を提案され、それに可能性を感じたところから始まりました。最終的には製品コンセプトを決めるのにそこから1年かかりましたが、ビジネスプランに共感していただけるパートナーがガーナ政府のみならず日本政府(JICA)、アメリカ(USAID)、国連機関(WFP)、PLANやCAREのような国際NGOなどに拡大し、国際的なソーシャルビジネスになりつつあります」

―Joho’s eye―
最近では、社会貢献の壁は無くなりつつあるように感じます。味の素さんのガーナでの栄養改善プロジェクトも、最初から大規模だったわけではなく、市場調査や製品開発にはじまり、ひとつずつ形になってきたところで、現地の食品会社を生産パートナーとして取り込み活動を広げてきたと伺いました。私たちがどれだけ支援を行っていたとしても、最終的に現地の人の手でビジネスを行わなければ、技術力も上がらず、本質的な課題の解決になったとは言えないと、私自身思います。味の素が行うプロジェクトは時間がかかりますが、確実にひとつずつ企業がもつリソースを現地に引き継ぎ、国内でのビジネス化を図っていて勉強になりました。

◆CSV文化の流れがきている

栗脇「近年、CSVという考えに共鳴する人が増えているように思います。企業が持つリソース、私たちの場合はアミノ酸やうま味が持つ潜在的可能性をとことん追求して、社会と企業の両方に新しい価値を生み出すことが大事なことだと思います。まずはどういうリソースを持っているのか、それで社会に対してどういう貢献ができるのかを考える必要があると思います」

城宝「これまでは、企業の利益の一部を社会課題の解決のために資金を当てるCSR(Cooperate Social Responsibility:企業の社会的責任)が当たり前の文化でしたが、CSRには大きな問題が潜んでいたように私も思います。企業の業績が悪化したり、景気が悪くなったら最初に削減されてしまい、継続するのが難しいからです。しかし、利益を創造しながら、その事業のコアの部分で社会課題の解決ができる仕組みになっていると、利益の創造と社会への貢献が同時に実現することができて、まさにCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)の文化は今後100年後の日本を創るにあたって重要になってくると思います」

栗脇「License to Operateという言葉があります。初期のCSRはコンプライアンスなど最低限の社会的責任を果たさないと存続できないという考えです。今後はLicense to Grow、つまり成長するために何が必要かを考えると、企業の理念や目標と社会課題の解決が一致したところで積極的に取り組むことが必要だと思います。『21世紀の人類社会の課題』を解決するためには、企業の壁を越えて取り組まねばならないという社風も徐々に出来つつあります。味の素はこれからもASVでそうした取組みを行っていきます」

―Joho’s eye―
テーブルクロスは、飲食店を予約すると予約した人数分の給食を途上国のこどもたちへ届けるサービスです。しかし、今回の味の素さんのお話しからは、活動を続けていくなかで給食支援だけでなく、日本がもつ技術力やノウハウなども伝えて自国だけで継続することができるようにしていくことの重要性を学びました。同時に、私は今後100年の日本社会を創るにあたってCSV文化を広げたいと思っていますが、味の素さんの『社会にとっての重要度』と『事業にとっての重要度』という2軸のマッピングはとても参考になります。最近の企業は、NPOへの寄付だけでなく、社会課題の解決に努めながら利益も生まれる事業に前向きに取り組んでいきたいと思っていることを感じています。そんな企業同士のパートナーシップもこれからはさらに必要になると思いますし、そうした役割も担えるようになりたいと強く思うインタビューでした。

城宝さんと話す栗脇さん [showwhatsnew]