こんにちは、城宝薫です。私は現在、立教大学経済学部に通う大学4年生です。そしてテーブルクロスを起業して経営者もしています。テーブルクロスは「利益の創造と社会への貢献を同時に実現する文化を創りたい」との思いで立ち上げ、飲食店予約アプリサービスを展開しています。

これは従来のサービスが固定化した高コストの広告モデルであったのに対し、一人の予約に対してのみ広告費用が発生する「成果報酬型」を導入したものです。そして、1人が予約をすると1名分の途上国の子どもの学校給食が支援されます。こうした利益と社会貢献の両立を目指す活動はCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)と呼ばれています。

私の起業は日が浅く、こうした事業への想いはあっても、まだまだ手探り状態です。そしてCSVはこの日本ではまだあまり知られていません。そこで、既にCSVに取組んでいる企業の皆さまにインタビューをさせて頂き、企業のお考えや取組みを紹介することでこの活動を日本に広めたいと思っています。連載は私が大学生である2016年3月まで行う予定です。

今回は前回のヤフーさんに続く四回目として、キリンさんへのインタビューをご紹介します。日本で初めてCSV本部を設立したキリンさんのCSV本部CSV推進部主幹の大北博一さんのお話しをまとめましたので、ぜひお読みください。(前編はコチラ
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キリン

◆「バリューチェーン」でのCSVの取り組み

城宝「これまでのインタビューのなかで、キリンさんが考えるCSVとは、事業と一体化した取り組みをする企業を指すとお話ししてくださりました。「製品・サービス」「バリューチェーン」「地域社会」の3本の矢を掲げるなかで、「バリューチェーン分野」でのCSVの取組みをお聞かせください」

大北「私たちはCO2排出の課題を解決するために、缶・カートンなどの軽量化の取り組みを継続的に行っています。容器の軽量化や包装資材の無駄を無くすことにより、コストの削減と共に、CO2の削減など環境問題の解決策となるものです」

城宝「でもCO2の削減をするために缶やカートンを軽量化するのには、とても高い技術や手間が必要なのではないですか?」

大北「具体的には、瓶の表面にセラミックコーティングを行うことで、強度を維持しながらガラスを薄くし、軽量化したリターナル瓶をすべての瓶に使用しました。また、上蓋の口径を小さくした「204径缶」や業界最軽量の缶を開発した結果、従来のアルミ缶よりも約30%の軽量化を実現し、1994年から2014年までにCO2排出量261万トンも削減しています。他にも持ち運びやすさと取扱いやすさを向上させた、四隅を切り落とした段ボール「コーナーカットカートン」の採用により、10年間でCO2排出量7万8000トン削減なども実現しています」

キリン株式会社CSV本部CSV推進部主幹 大北博一さん

キリン株式会社CSV本部CSV推進部主幹 大北博一さん

城宝「その削減量はとても大きいですね。CO2排出の課題に対し、バリューチェーンで取り組み、その結果、課題の解決に貢献し、さらにコストも削減する。バリューチェーンによるCSVもまたキリンさんのようなメーカーだからこそ実現できたことですね」

ーJoho’s eyeー
「製品・サービス」に引き続き、「バリューチェーン」でのCSVプロジェクトについて伺いましたが、共通していることは「課題の発見が先」ということです。目の前の社会課題に対して自分たちに何ができるかを考えたときに、それぞれの活動が生まれていることを知りました。また、キリンさんでは発生抑制の「Reduce」だけではなく、再使用の「Reuse」や再生利用の「Recycle」にも積極的に取り組まれています。こうした複合的な取組みも素晴らしいと思いました。

キリン株式会社「容器の3Rの取り組み」より

キリン株式会社「容器の3Rの取り組み」より

◆「地域社会」でのCSVの取り組み

大北「最後に「地域社会」に関するCSVの取り組みの事例を紹介します。キリングループは東日本大震災復興支援に継続的に取り組むために、「復興応援キリン絆プロジェクト」を立ち上げました。これは、キリンビールの仙台工場でもビールタンクの倒壊や製品の流失など甚大な被害を受けており、我々自身も被災者であり、東北の人々と復興に向けて共に活動していきたいとの思いから立ち上げたものです。「地域食文化・食産業の復興支援」「子どもの笑顔づくり支援」「心と体の元気サポート」の3つのスローガンを掲げ、様々なプロジェクトが動き始めました」

城宝「私自身知らなかったことがあるのですが、キリンビールさんも大きな被害を受けられていたんですね。震災復興の支援として具体的にどのような取り組みをされたのですか?」

大北「まず「製品・サービス」での取り組みを紹介します。2013年11月キリン氷結ブランドから、福島産の和梨の果実を使用した「キリン 氷結 和梨」(期間限定)を発売し、おかげさまで好評により2014・15年と継続販売となりました。2015年3月には「キリン 氷結 福島産桃」も発売し、商品を通じて福島の農業のみなさんを応援し、福島と全国のお客様を氷結ブランドによってつなげたのです。福島の安全でおいしい商品をお届けしようという取り組みは、多くの共感を頂くことができました」

CSV訪問03城宝「商品開発の段階で福島県産の梨や桃を使われたんですね。色々な心配がされていた時期でもあるので、大変なことも多かったのではないですか?」

大北「実は、「キリン 氷結 和梨」は最初の時点では賛否両論があったんです。もしうまく製品化ができなければキリングループだけでなく、福島の農家のみなさんにも迷惑をかけてしまうリスクも存在していました。しかし、度重なる検査や専門家のみなさまのご意見もうかがいながら決断をしました。また、復興支援の様々な取り組みでも、我々だけでは何もできませんので、最終的には”現地の方々と一緒にやろう”という「想い」がプロジェクトを動かしているように思います」

城宝「やはり、そのような議論はあるんですね。でも、最終的にはキリンさんではCSVのさまざまな取り組みを進められている」

大北「そうですね。やはり、社長をはじめ経営陣や、実際にとり進めるメンバーの想いが明確で強くなければプロジェクトの拡大はなかったのではないかと今でも思います」

ーJoho’s eyeー
東日本大震災が起きた後、様々な企業や団体が復興支援活動を始めましたが、風評被害もあり活動を進めるなかで困難なこともあったと思います。キリンさんでも賛否両論あったリアルな話を聞きましたが、その背景でも実行することに至った最終的な理由は「想い」だったことを聞いて勉強になりました。やはり、プロジェクトを立ち上げるときには誰の笑顔を見たいかという明確な目的が必要なんだと感じました。

◆「復興応援キリン絆プロジェクト」の第2ステージとは

城宝「復興応援キリン絆プロジェクトは立ち上がって数年経っていると思いますが、現在でも活動しているのですか?」

大北「はい、現在も第2ステージとして活動は継続しています。「地域食文化・食産業の復興支援」では農業・水産業の復興支援を中核におき、2011年~2012年の第1ステージでは、農業機械や養殖施設の復旧などのハード面の支援を中心に行ってきました。第2ステージでは「生産から食卓までの支援」というテーマで「農作物・水産物の地域ブランド再生・育成支援」「6次産業化の推進・販路開拓支援」「将来にわたる担い手・リーダー育成支援」の3つの目標を掲げています」

城宝「復興応援キリン絆プロジェクトで「地域食文化・食産業の復興支援」「子どもの笑顔づくり支援」「心と体の元気サポート」の3つのスローガンを掲げていましたが、そのうちの「地域食文化・食産業の復興支援」の分野においては第2ステージとして活動を継続されているんですね。具体的にはどのような取り組みをされているのですか?」

大北「実際は、多岐に渡る視野でプロジェクトが発足しています。例えば、毎年、岩手県遠野市のホップを使用して秋に発売している「一番搾りとれたてホップ生ビール」というビールがありますが、遠野産ホップの生産に関わる、生産者の高齢化、栽培技術の伝承、ホップに加えたほかの農作物の栽培の検討など地域の課題がたくさんあります。私たちはこれらの課題解決に向けて、遠野のみなさんとともに「遠野パドロンプロジェクト」を立ち上げました。「パドロン」とはスペインが原産のしし唐のような野菜で、産地ではビールに最適なおつまみとしてとても有名です。日本でいうと、ビールには「枝豆」というような存在になります。これを遠野の地場野菜としてブランド化しようと地域の方々と取り組み、キリンのビアレストランの「キリンシティー」で提供したりもしてきました」

城宝「一番搾りとれたてホップ生ビールは私もよく見かけますが、使用されているホップの産地では生産者の高齢化や栽培技術の伝承などの地域の課題を解決するためにプロジェクトが立ち上がっているんですね。そういうエピソードを聞くと、益々一番搾りとれたてホップ生ビールが身近に感じます。その他にも取り組まれていることはありますか?」CSV訪問04

大北「他にも地元のみなさんと一緒に、民話で有名な遠野の町を、「ホップの里からビールの里」にしていこうとさまざまな取り組みを進めています。具体的には、2015年のホップと農作物収穫の最盛期である8月22日・23日に、遠野市民が遠野の恵みをお祝いするお祭り「遠野ホップ収穫祭2015」の開催です。イベントで提供されるのは、ビールのおつまみとなる地元の畜産品、遠野のじゃがいもや「パドロン」などの地場食材です。「パドロン」の生産を行うことにより、農家の収入も安定するため若者たちの興味を惹くことができポップ農家の後継者問題の解決にも繋がり、ビールの里となることでさらに地域の活性化にも貢献できるのではと考えています。また、このような取り組みから、遠野産ホップを使用した「一番搾り とれたてホップ生ビール」の原料確保にもつながり、継続的にお客様に届けることができると考えています」

城宝「解決したい社会課題に対する熱い想いがあると、事業での取り組みと連動して活動が拡大していくんですね」

大北「キリン復興応援絆プロジェクトではもう一つポイントがあります。「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」があるのですが、これは農業の担い手やリーダーを育成するプロジェクトで「農業経営者リーダーズネットワーク」と「農業復興プロデューサーカリキュラム」の2つがあります。ここでは、どんな売り方をすることができるかを一緒に考える人材を発掘するといった東北農業の現場から、新しい時代の新しい仕組みや地域の意義を生み出すことを目指すものです。実は、パドロンのアイディアが出てきたのも、農業経営者リーダーズネットワークに参加していたメンバーからだったんですよ」

城宝「震災の復興支援から始まり、いまでは東北の農業の課題にまで進化しているのはとても驚きました。しかも、そうした活動によって新たなアイディアも生まれている。横の繋がりをもって多くの人のアイディアを組み合わせて社会課題の解決を行う仕組みの重要さを学びました。この先のさらなる進化を応援しています」

ーJoho’s eyeー
今回のキリンさんへのインタビューを通して、とても大きな学びがありました。それは、CSVプロジェクトはどのような社会課題を解決したいかという想いから始まることによって、大きな発展に繋がるということ。そして、横のつながりが大事だということです。キリンさんは会社のなかでプロジェクトの立ち上げを行う考え方のひとつとしてCSV経営を掲げていますが、実行するかの有無にまつわる最終判断は、やはり解決したい課題に対する想いでした。誰とどのような社会を創るためにプロジェクトを立ち上げるのか。熱い気持ちがなければ、キリンさんが取り組む多くのプロジェクトも成功していなかったのではないかと感じました。今後、私自身、テーブルクロスを通じて利益の創造と社会への貢献を同時に実現する文化づくりをするなかでも、自分が目の当たりにした社会課題に対して責任と想いを大事に取り組んでいきたいと改めて思いました。この度は、貴重なお時間をいただきありがとうございました!

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