結婚や出産など女性特有のライフイベントで、キャリアの描き方に悩んでいる女子大学生向けのサービスがある。それは、共働き家庭に1日訪問する「家族留学」。子育てと仕事の両立を支援するサービスとして注目されている。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

女子大学生が安心して母親になれる社会をつくりたいと語る新居さん

女子大学生が安心して母親になれる社会をつくりたいと語る新居さん

このサービスを行っているのは、女子大学生からなる任意団体mamma(マンマ)。大学生にとっては子を持つ母親の一日を体験でき、さらに、女性のキャリアについて相談もできると評判だ。代表は、新居(におり)日南恵さん(慶応義塾大学法学部3年)。新居さんは、子どもの自己肯定観が低いことへの課題意識から同団体を立ち上げた。

内閣府の「平成26年版子ども・若者白書」では、「自分自身に満足している」という質問に「はい」と答えた日本の若者は45.8%で、米国(86%)、英国(83.1%)、韓国(71.5%)など諸外国に劣った。

新居さんはこの問題を解決するために、「母親が自信を持っていれば、子どもにも伝わるはず」と考えた。突然母親になってしまい、悩みを相談できる相手が周囲にいないと、子どもへの虐待につながることも少なくない。虐待件数は年々増えていき、平成24年度の児童相談所の対応件数は66,701件だった。これは、平成11年度の5.7倍の数字である。

こうした背景を踏まえ、「女子大学生が安心して母親になれる社会をつくりたい」と大学の友人らと2014年にmammaを立ち上げた。同団体と契約している家庭は170ほど。主に共働き家庭である。団体を立ち上げ一年間で、家族留学した女子大学生は150人を超える。

女子大学生は土日の1日を使って、家庭に留学する。留学先ですることは、普段、その家庭の母親がしていること。子どもの世話や料理、買い物など家庭によって異なる。このサービスの特徴は、単に母親体験にとどまらない。子どもが寝静まってからは、キャリアについて考える時間となる。母親は先輩として、結婚や出産などのライフイベントとキャリアを両立したいという女子大学生の悩みを聞く。

家族留学で、一足先に未来の自分の姿を体験する

家族留学で、一足先に未来の自分の姿を体験する

事実、仕事と家庭の両立を満足のいく形でできている女性は少ない。内閣府の「男女共同参画白書」では、出産を機に離職する女性は6~7割。そして、男性の育児休業取得率は3%弱。この数字から、母親にかかる子育ての負担の大きさが分かる。

さらに、「2015年版世界男女格差報告」では、政策決定への女性の参画率は145カ国中101位と最低ランクに位置している。日本人女性の大学進学率は世界第3位とトップクラスなのに、この男女の社会進出の差は世界でも問題視されている。

「女性の人生は仕事だけではなく、出産や結婚で変わる。専業主婦にあきらめてなってしまう人もいれば、母になるイメージを描けないまま、就職してしまう人もいる。事前にキャリアのことを考えておいて、仕事か子育てのどっちかに振り切るしかない二者択一の状況を変えたい」(新居さん)

新居さんは、「母親一人に子育ての負担を抱え込ませないで、社会全体で支えていけるようになれたら」と目標を語る。今年2月には、子育てしやすい社会がテーマのビジネスコンテスト「Over Million Challenge」でグランプリを獲得した。

新居さんは来年3月、大学を卒業後、大学院に進学して、家族研究をしながらmammaの活動を続けていくという。

新居(におり)日南恵:
慶應義塾大学法学部政治学科 在学。東京出身。1994年生まれ。
2014年に”いまの女子大生の手で安心して母になれる社会をつくる”をコンセプトに掲げ、任意団体「manma」を設立。2015年1月より学生が子育て中の家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデル出会う体験プログラム「家族留学」を開始。mamma公式HPはこちら

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