小児がんなどの病気によって闘病生活を余儀なくされた子どもたちの生活は、朝起きて検温から1日が始まります。11年前、白血病で最愛の息子を失った一人の女性が、小児病棟を訪れ、子どもたちにバルーンアートを届ける活動を始めました。活動に込められた思いとは。(JAMMIN=山本 めぐみ)

闘病中の子どもたちに「子どもらしい日常」を

風船で作ったカボチャに目を描く子ども。腕には点滴がつながれている

「病気であっても、子どもが子どもらしく、普通の子どもと同じように笑う瞬間を提供してあげたい」。そう語るのは、NPO法人「ぷくぷくばるーん」(愛知)理事の大竹由美子(おおたけ・ゆみこ)さん(49)。ぷくぷくばるーんは10年前から愛知県内の小児病棟に出向き、闘病中の子どもたちやその家族と一緒にバルーンアートを一緒に作って遊ぶ活動をしています。

大竹さん自身、白血病で息子さんを11歳で亡くした元患者家族です。「闘病生活を振り返ってみると、息子を始めとする闘病中の子どもたちの普通が、私たちでいう非日常の世界だった」といいます。

お話をお伺いした大竹さん

「小児病棟での生活は、金属やとんがったもの、四角いものに囲まれている。一般的な幼稚園や小学校にあって、普通の子どもたちにとっては当たり前なもの、カラフルなものやまあるい形のもの、柔らかいものがない。病棟に何か子どもらしい感覚になれるものを届けたいと思って、風船を届けている」

「風船はカラフルで、まあるくて、ふわふわしている。作って置いておくだけでも華やかになるし、色もたくさんあって、感触も楽しくて、子どもはとても喜んでくれる」

闘病中の子どもたちは、病院の中で成長する

バルーンアートが完成して喜ぶ子どもたち。子どもらしい日常を届けたい、と大竹さんは話す

活動の中で大切にしていることの一つが、「子どもたちと『一緒に作る』という過程」だと大竹さん。その理由を、次のように語ります。

「闘病中の子どもたちは、手に点滴がついていたり、力が弱いことが多いし、闘病生活の中で受け身にならざるを得ない状況が多い。ちょっとでもお手伝いしてもらって、一緒に何かひとつの作品を作り上げることで『何かをやり遂げる』という体験や、達成感を感じてほしい」

バルーンアートで飾られた点滴スタンド。カラフルな風船が、病棟を明るくする

普通であれば子どもたちは、幼稚園や学校で何かに取り組んだり、できなかったことができるようになったり、刺激を受けながら成長していきます。しかし病院での闘病は治療が生活の中心で、何かをやり遂げたり、達成感を感じたりということがあまりない生活だといいます。

「普通の子どもたちが社会勉強して成長していくところを、病気の子どもたちは病院の中でそれをしていく。だから、子どもが本当に子どもらしく、普通の子どもが笑うように笑える瞬間を、風船を通じて一時でも提供したい」と活動への思いを語ります。

「子どもたちの確かな成長が、病院の中にはあった」

白血病のため闘病生活を送っていた息子さんと大竹さん。入院中、難病と闘う子どもたちの夢をかなえる手伝いをしているボランティア団体「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン」で夢を実現し、家族でグアム旅行に行った際の一枚

大竹さんの息子さんは幼い頃に白血病を発症し、11歳で亡くなるまでの6〜7年間、ずっと闘病生活を送っていました。闘病生活が終わってから、感じることがあったといいます。

「息子が居なくなってから改めて病院での闘病生活を振り返った時に、ここで息子は6歳から12歳になる手間まで過ごしていたので『ここで成長してきたんだな』ということを感じた」

「バルーンアートで遊ぶと、子どもたちはもちろん、ご家族や病院の看護士さんや先生…、みんな心の底から楽しい笑顔になります」(大竹さん)

「息子に限らず、同じ病棟で一緒に闘病していた子どもたちも同じ。あの子たちにとっての日常が、私たちにとっての非日常だったと、入院生活が終わってから感じた。しかし、あの子たちの確かな成長が、病院の中にはあった。だとしたら、彼らが本当に子どもらしく、無邪気に笑えた瞬間がどのぐらいあったのだろう、と。だからこそ、病院の先生や看護師さんをはじめとするお世話になった人たちへの恩返しの気持ちも込めて、子どもたちに『子どもらしい日常』を届けることをしたいと思った」と大竹さん。活動は今年で10周年を迎えました。

心の中で、患者とその家族に寄り添う

団体立ち上げ当初の1枚。まだ慣れないバルーンアートを、ボランティアみんなで練習

「本当にいろんな方たちに関わってもらったし、たくさんの子どもたちや、ボランティアさんとも関わることができた。自分たちの力だけでは、絶対にできなかった」と10年を振り返る大竹さん。息子さんの死は「気がつけば乗り越えていた」と話します。

「亡くなった時は、全然後悔がないといったらおかしいが、『やりきった』という思いがあった。当時お世話になった病院の先生が、団体の理事を務めてくださるなど、今でもつながりがある」

バルーンアートで作った風船の花束を持つボランティアスタッフ

「ただ、元患者家族であり遺族だということを、活動をする上であえて患者さんのご家族にお伝えするということはない。『私たちもつらかった』というのは、押し付けになってしまう。現在闘病中のご家族に『気持ちわかります』と言ったって、気持ちはわからない。闘病中の子どもたちやその家族にとっては、『今』がつらい。私が闘病していた時から時間も経っているし、一緒に闘病しているわけでもない。ただ、元患者家族として、本人やご家族のつらい気持ちやたいへんな思いも理解しているし、気持ちとしては、いつも寄り添っているつもりでいる」

「普通を届ける」ことにこだわる理由

病室を出て、プレイルームでボランティアさんと一緒にバルーンアートを楽しむ子ども。完成までは、ワクワクドキドキ

「息子が闘病していた時、何が私の願いだったかというと、息子を通っていた小学校に戻して、勉強したり友達同士で遊んだり、『普通の小学生』に戻ってもらうことだった」と大竹さん。

大竹さんが、活動を通じて「子どもらしい日常を届ける」ことにこだわる理由は、そこにあるといいます。

「朝起きて、朝ご飯を食べて、登校して、授業を受けて、遊んで、帰ってきて塾へ行って、夜ご飯を食べて、寝て…、そんな何気ない日常が繰り返される日々。病院の子どもたちは、朝起きて、検温して、血圧を測って、薬を飲んで、回診があって、検査があって…、とまるでかけ離れた日常を送っている」

バルーンアートのお寿司。「食べ物の作品は、子どもたちに大人気です」(大竹さん)

「自分の世界はベッドの上だけ。寝るのも、起きて遊ぶのも、すべてベッドの上。周りにいるのは、同じように入院している子どもたちと、先生や看護士さんたちだけ。そんな狭い中で生活しているので、刺激は無いに等しい。そんな生活の中で『ワーッ、楽しい!』とか『うれしい!』とか、心からわくわくしたり、ドキドキしたり、楽しかったり、そんな『子どもらしい気持ち』が病院にはなかった。月に1回2回、少しでもそういうことを感じてもらえることがあったら、たとえ病院にいても、子どもが子どもらしい感覚を持って成長できるんじゃないかなと思う」

息子と共に歩んだ10年

みんなで風船を飛ばして遊んでいるところ。訓練を受けたスタッフが、子どもたち一人ひとりに寄り添いながら活動する

近年はどこの小児病棟も、子ども向けに明るくかわいくなったり、保育士さんやCLS(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)がいる病棟も増えてきたりと、子どもたちを取り巻く環境は以前よりも良くなっていると大竹さん。病院の中で育まれる子どもたち一人ひとりの日常の中で、新しい風を吹かせるような存在でありたい、と語ります。

「息子が闘病中、自分ができなかったことを今やらせてもらっている。そんな思いがある。子どもたちが笑う姿を見ながら、そこに亡くなった息子の笑顔を重ね合わせている。病院へ行くと、今でも息子がいるような気がする」

「息子はもうこの世にはいないが、この10年間、息子と一緒に進んできた。活動を続けているおかげで、息子のことを知ってもらったり覚えていてもらえるのも、ありがたいと感じている。これからも一つひとつの活動を続けながら、いつか後継者が現れて、ずっとこの活動を続けていくことができたら」

闘病中の子どもたちにバルーンを届ける活動を応援できるチャリティーアイテム

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ぷくぷくばるーん」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、小児病棟を訪れ、闘病中の子どもたちにバルーンアートを届けるための資金になります。

「1回の訪問に必要な費用は、約3,000円。今回のチャリティーで、半年分(36回分)の訪問に必要な、約11万円を集めたい」(大竹さん)

「JAMMIN×ぷくぷくばるーん」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はコラボデザインのパーカー(7,720円(チャリティー・税込))。他にもベーシックTシャツや七分袖Tシャツ、キッズ用Tシャツ、バッグなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、いろんな動物や人を乗せた大きな風船。病棟で過ごす子どもたちと外の世界をつなぎ、新しい世界を運んでくるぷくぷくばるーんの活動を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、12月17日〜12月23日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、ぷくぷくばるーんの活動について、大竹さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

小児病棟で成長する子どもたちに、笑顔と「子どもらしい日常」を〜NPO法人ぷくぷくばるーん

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!

【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら


【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加