熊本地震は大きな被害を与えたが、これからさらに被害が拡大すると予想されるのが観光に携わる産業だ。そして支援ニーズの変化とボランティアマッチングのズレなども懸念されている。同じことは2011年の東日本大震災でも起こったが、その時に東北で拡がった新しいボランティアの形が「トリプルボランティア」だ。熊本地震におけるトリプルボランティアの必要性を考える。(野村 尚克)

再開するお店が徐々に増えて賑わいを取り戻しつつある熊本市の中心部(1日午後0時5分、筆者撮影)

再開するお店が徐々に増えて賑わいを取り戻しつつある熊本市の中心部(1日午後0時5分、筆者撮影)

熊本の被災地では災害ボランティアセンターが立ち上がって活動をスタートしている。GWのボランティアは県内在住者限定としているところもあるが、これはボランティアニーズと支援者の調整、宿泊先の確保や道路の混雑緩和といった理由などがある。

2011年に発生した東日本大震災では、県外からたくさんのボランティアが集まった。その姿はGWや夏休み、翌年へと続いた。しかし、そうした支援が活発化するなかにあって注目されなかった2次被災者がいた。それが観光に携わる人たちである。災害は地域へ訪れる人を著しく減少させる。それは観光場所がなくなったことや宿泊できるホテルに限りがあることも理由にあるが、もう一つ大きなものに娯楽や消費を控える「自粛の空気」が生まれるからだ。「被災された人がいるのに私たちだけが遊ぶのはいけない」というもので、この心理は理解できるが被災地の復興を遅らせてしまうことにもなってしまう。

■東日本大震災で生まれた「トリプルボランティア」

東日本大震災の被災地は沿岸部に集中した。それは津波による被害が大きかったからだが、実は内陸部では営業をすぐに再開している観光施設もあった。しかし、風評や自粛によって旅行者は激減し、閉店や休業に追い込まれる施設が現れた。観光は宿泊施設や飲食業、一次産業や交通といった地域の経済を大きく回す。しかし、観光客が減少し、困窮状態にある観光産業の多くの人たちはその辛い状況を発信しなかった。それは被災した人がいるのに、自分たちの仕事の辛い状況を訴えることはできなかったからである。

そうした時に生まれた新しいボランティアの形が「トリプルボランティア」だった。

無題1

トリプルボランティアとは「災害ボランティア」「観光ボランティア」「伝達ボランティア」の3つを行うもの。「災害ボランティア」はガレキ撤去や被災住宅の支援といった多くの人が知っているボランティア活動だが、「観光ボランティア」とはその名の通り観光することを指す。被災地や直接的な被害は受けていないものの風評や自粛によって辛い状況になっている場所へ観光として赴くものだ。しかし、場合によっては宿泊施設を被災者や復興事業者が利用している場合もある。そうした時は離れた場所に宿泊し、そこから観光地へ行く。

もう一つの「伝達ボランティア」とは、被災地で見たことを個人が伝達する支援活動だ。SNS時代に広まったもので、発災時の被災地情報や物資支援といったことだけではなく、その後も長期に渡って発信しようというものである。これが広まった背景には新聞やTVなどの報道はどうしても瞬間的な発信になりがちで、被害の酷い時にだけ報道しやすいという短所がある。しかし、復興に向けて活動している人や、地域の細かい情報などは個人が発信すれば良い。人が人へ伝達することで被災地を支える。

■熊本市内のいま

無題2様々な報道で伝えられているが、熊本の観光地は多くのキャンセルが続いている。これまでであればGWは稼ぎ時でこれから観光シーズンがスタートする大事な時期だ。

熊本市内は30日に水道が全域で復旧、ガスも同日に復旧しており、商店が集まるアーケードも一部の店は再開。人通りも徐々に戻りつつある。しかし、こうした状況を県外の人はあまり知らないのではないだろうか?地震によって看板が倒壊し、通行止めとなった印象しか残っていないのではないかと思う。
こうした状況の中、観光客によって賑わってきた飲食店も再開し始めている。

市内のサンロード新市街にある「遊食亭えくぼ」は馬刺や郷土料理にこだわるアットホームな居酒屋だ。店外で呼び込みをしていたマネージャーの大丸勝多さん(24)は「24日に再開したが客足は鈍い。いまはランチの定食メニューも用意して集客を図っているがこの先は不安だ」と嘆く。私はこちらへ24日の再開時に食事をしたが、その後に唐揚げパックをランチ時間に外で販売している姿を見た。「少しでも売上につなげ、お店の魅力を伝えたかった」と大丸さんは言う。

無題3熊本市災害ボランティアセンターの受付会場近くにある「AZITO」は200円BARをコンセプトとした店だ。いつもならこの時期は観光客と地元客で賑わっているが、店主の木原大器(31)さんは、「GWがスタートしたが客足は昨年の半分以下で地元客のみ。

あれだけ報道が続けば観光客はいつ戻ってくるかわからない」と頭を悩ます。同店は熊本地震が起こっても一日も休まずに営業しているが、「こんな時だからこそ営業を続けて絆を絶やさないようにしたい。地震後はカレーメニューを作ったりして踏ん張っているが、ボランティアに来た人にも元気を与えたい」と特産品の米焼酎にザクロのシロップを使った火の国をイメージしたお酒を特別に作って出してくれた。ボランティアには支援に来ただけではなく、熊本の魅力を知って帰って欲しいとの願いからだ。

■トリプルボランティアは2つだけでも大きな支援となる

トリプルボランティアはダブルではなく、トリプルとしたところに意味がある。それは3つのうちの2つだけでも実行できれば大きな支援になるからだ。いま、ボランティアは全国から一気に集まり、参加できないで帰る人が生まれている。熊本市の災害ボランティアセンターは1日、9時に受付開始の予定だったが、集まりの多さから8時30分には受付を締め切った。

受付開始前の締切ということで参加できなかった人は多かったと思われるが、そのような時こそトリプルボランティアの2つを実行すれば良い。実際、東日本大震災でも遠くからボランティアに来たのに参加できずに帰る人がいた。そのような時は必ず被災地の飲食店や土産物店でお金を使い、被災地のいまをSNSで発信した。そして被災地が復興するために個人の力で支援をしたのだった。

熊本市災害ボランティアセンターに集まったボランティア希望者(1日午前9時、筆者撮影)

熊本市災害ボランティアセンターに集まったボランティア希望者(1日午前9時、筆者撮影)

■多様なボランティアの形で長期的な支援を

今回の災害には長期的な支援が必要となる。その時に求められるのは、多様やボランティアの形だ。災害ボランティアがスタートする時は主にガレキの撤去や自宅の整理などがニーズとなるが、これから仮設住宅への転居がはじまると引越しボランティアへのニーズが生まれる。また、仮設住宅では新しく住む人同士の交流を支えるイベントボランティアや、話しを聞く傾聴ボランティアといったニーズもある。ボランティアは参加する人が得意とする分野によっても参加者数に差が出るが、こうしたニーズの変化に柔軟に対応するためにも様々なボランティアの形を理解しておく必要がある。

ボランティアだけが注文できる特産品の米焼酎使った「復興カクテル」@AZITO(216円)

ボランティアだけが注文できる特産品の米焼酎使った「復興カクテル」@AZITO(216円)

トリプルボランティアはこれからしばらく求められる支援で、今後の災害時のボランティアの形を新たに提示するものだ。体力の問題などからガレキ撤去等の肉体労働が出来ない人も、そして参加することができずに帰ることになった人にもお勧めしたい。いま被災地に必要なのはそうした様々な形のボランティアなのだから。

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