「国際協力は一生をかけて取り組み続ける価値があるもの」――。世界の子どもたちへの支援などを行う公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン プログラム部マネジャーの馬野裕朗さんはそう答える。馬野さんはもとは俳優を目指していたが、ある記事がきっかけで貧困問題に関心を持った。馬野さんにとって国際協力とは何か、改めて聞いた。(聞き手・Readyfor支局=榎本 未希・オルタナS支局スタッフ)

※馬野さんたちは、クラウドファンディングサービス・Readyforによる国際協力活動応援プログラム「Readyfor VOYAGE」で32日間のクラウドファンディングに挑戦中です!インドの低カーストの女の子たちに奨学金と教育支援を届けるため、200万円の寄付の呼びかけを行なっています。寄付の受け付けは2017年4月28日金曜日23時まで!

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公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン プログラム部マネジャーの馬野さん。国際協力活動についてご自身の想いを話してくれた

■西アフリカの貧困解決、教育がカギ

――俳優から国際協力の道に進もうと思ったきっかけを教えてください。

馬野:話せば長くなるのですが、私が現職に就くまでの経緯についてお話ししたいと思います。

俳優の仕事は大学の時に始めました。それと並行して新卒で一般の企業に勤め始めましたが、大学時代にフランスに留学していた経験を活かそうと考え、1年半で会社を辞めフランス語を教え始めました。

最初はフランス語の専修学校でフランス語を教え、何年か経ってから自分でフランス語の学校を作って運営しました。

というわけでフランス語を教えながら俳優の仕事も並行して行なうようになりました。数年後には学校運営も安定してきました。

しかし30歳になる前に、「自分の一生をどのような人生にしようか」と考え始めました。60歳、70歳、80歳になった時にこの仕事を続けて、「自分はこれで満足するのかな」と思うようになったのです。俳優の仕事もフランス語の教師も価値のあることですが、自分の気持ちとして「自分はこのままの生活を続けて良いのだろうか」、そう考えました。

そんなときに偶然、『The Economist』という雑誌の、ある記事に出会いました。

西アフリカは世界で一番貧困。貧困が原因で、世界で一番人が亡くなっている。

「教育」が西アフリカの状況を解決するためのカギになる。

記事にはそう書いてありました。国際協力の業界で働く方や、世界の情勢にとっては西アフリカの状況は既知の事実かもしれませんが、この記事が自分にとって、とても衝撃的だったのです。

今考えると大胆な考えと思いますが、「自分も何かで貢献できるかもしれない」と思いました。西アフリカはフランス語圏が多く、自分はフランス語を教えていた関係で、「教育」って僕の分野と近いな、と思ったのです。

そして、この問題の解決に「一生をかけて取り組みたい」と率直に思いました。30代前半になり、幼い子どももいたのですが、当時運営していたフランス語の学校は全部辞め、国際協力の勉強をするために英国の大学院に留学しました。

「自分も何かで貢献できるかもしれない」そう思い立って国際協力活動を始めたと馬野さん

――今まで自分が進んできた道とは違う新しい分野・国際協力の業界に進むことに対して不安はありませんでしたか。

馬野:不安はありましたが、この仕事をしたいという思いの方が強かったです。当時は国際協力のことをあまり知らなかったのですが、「何か途上国に貢献できないか」という思いから、大学院の分野も途上国の社会開発の政策と計画づくりを選びました。

日本に帰ったのが、ちょうど2001年ごろ。すぐに仕事探しを始めました。関心があったのはJICA(日本国際協力機構)が実施しているODA(政府開発援助)案件を扱う開発コンサルタントの仕事でした。

ちょうどその頃西アフリカへの支援ニーズは高く、フランス語を使える人材が不足していたので、運よく開発コンサルタント会社に就職できました。そこで私は、10年以上にわたって西アフリカでの教育支援を行なう活動に数多く関わることができました。

その間、2007年から2010年はJICAのプロジェクトを通じて、セネガルで3年間を過ごしました。現地での活動で、かけがえのない経験をいくつも積むことができ、改めて、この問題の解決のための活動は「一生をかけて取り組む価値がある」と思いました。そうして現場で、国際協力の知識、知見を深めていきました。

西アフリカでの活動の様子

――どうしてJICAの仕事を辞め、現職のプラン・インターナショナルで活動しようと思ったのですか。

馬野:ODAの仕事を現地で実施している中で、NGOの存在、その活動を知りました。彼らは、その地域の長期的な将来のことを考えて柔軟性をもってプロジェクトを実施していました。

途上国で暮らす彼らには彼らのリズムがあります。現場の文脈を踏まえながら、そこに住んでいる人と一緒に考えていました。年月が経ち、現場の状況も変わってきたときに、柔軟に対応を変えていくNGOの仕方を垣間見て、「自分のやりたい途上国支援はこれだ」と思ったのです。

ODAもNGOも最終的な目標はその地域の自立支援です。私が大事だと感じたのは、現地の人々が自分たちの力で自分たちを助けることができる環境を作ることでした。

自立支援のためには、現地のリズムに寄り添うこと、場合によっては長い時間が必要になる、そう感じました。彼らのような国際協力の活動をしたいと思ったのが、今の職場で働こうと思った理由です。

――数あるNGOの中でも「子ども」に焦点を当てたプラン・インターナショナルを選んだのはなぜでしょうか。

 馬野プラン・インターナショナルは本当に必要な人たちへ必要な支援を届けるために活動できる団体だからです。

世界の先進国は途上国に対してたくさんの支援をしています。これまでの支援によって改善した点もたくさんありますが、その一方で、その支援からこぼれ落ちてしまうようなグループもいます。この支援から取り残されている人々に支援を届けたいと思いました。

今、世界の目標は「誰一人取り残さずに貧困を根絶すること」にあります。その達成に向かっていく指針として支援が必要な2つのグループがあります。

1つ目は、紛争などの人的災害、また自然災害によって被害を受けた人たち。ささやかながらも今まで築き上げてきた生活をすべて捨てざるを得ない状況にいる人たちです。

2つ目は、慣習的、経済的、社会的、文化的など様々な理由で差別されている人たちです。

この2つのキーワードのうち、1つ目のグループは明快ですが、2つ目のグループは、パッと聞いても分かりづらいのです。

外部から支援があったとしても、その差別されているところへは支援が届きません。地域の中でもこのグループは排除されています。そこにこそ、僕たちのような団体が取り組んでいかなければなりません。その活動ができるのが、プラン・インターナショナルです。

支援地域のスタッフの方との対話を重ねた上でプロジェクト作り上げていきます。

――プラン・インターナショナルでの活動の中で、大切にしていることは何ですか。

馬野:まず押し付けるということはしないこと。信頼関係を築きながら、現地の人と一緒に課題を考えて、問題点を感じてもらう、気が付いてもらうということが大事です。

支援先の方や、現地のスタッフとの対話の上で、プロジェクトを実施するということを意識しています。いくつかエピソードはあるのですが、エチオピアで活動したときのことが印象的でした。

エチオピアは食糧不足が慢性的に起こっている国で、特にエチオピアの山岳地帯は年がら年中緊急支援を必要とするような状態です。首都から山道を通って10時間くらいの地域で、さまざまな生計改善のプロジェクトを行ないました。

その中でも最貧困層の人々は川の水を汲んで山を下り、町で販売することで生計を立てているのですが、栄養不良と過酷な労働のせいで、生活は困難を極めていました。実際、栄養不足のため多くの人が視力障がいを持っていました。

彼らの水の運搬の負担を軽減するために、ロバの支給を行なったのですが、支給できるロバは50頭しかいません。しかし、支援を必要とする対象者はその数倍いました。

全員にロバを支給することはできません。みんな苦しい生活をしているからこそ、限られた人にしかロバを支給できないとわかったらパニックになるのではないかと思いました。

支給対象者を決める会議が開かれたとき、私と現地のスタッフはとても緊張しました。「喧嘩や大混乱になったらどうしよう」と思いながら、ロバは50頭しかいないと会議の場で事情を説明しました。

収拾がつかないのではないかと思ったそのとき、端でその様子を見ていた年配の視覚障がい者の女性が「私よりも、○○さんたちが大変な状況だから、まずあの人たちにロバをあげてほしい」と言ったのです。

その年配の女性は地域の中でも支援が必要な方の一人でした。その方が他の人にロバをあげてほしいということを口にすると、その周りの人も賛成し、平和にその50人が決まりました。

もし、自分が同じ状況だったら、周りにロバを譲らなかったかもしれません。おぞましい状況になっていたかもしれない。最初に手を挙げた彼女が聖母マリアのように見えました。

自分も大変な状況なのに、その状況の中でも周りにロバを譲るという姿に私は感銘を受けました。

外からやってきた自分たちが、ロバを貰える人を一方的に決めてしまっていたら、おそらく大変なことになっていたと思います。

ここで私は、「本当に必要な人たちへ支援を届ける」ために、支援を受けられる対象者を現地の方々と相談しながらプロジェクトを行なうということの重要性を体感しました。

国際協力の仕事を始めて、一緒に働く現地の人たちは本当に尊敬できる人たちばかりでした。自然と敬意をもって接し、一緒になって悩んだり考えたりすることができました。

そのプロセスの中で、信頼関係ができ、物事も進むようになりました。時間に縛られて、自分たちのリズムや考えを押し付けるのでは対話は成り立ちません。敬意をもった対話の積み重ねこそが僕たちの仕事でとても重要だと思っています。

――改めて、馬野さんにとって国際協力とは何ですか?

馬野:私にとって国際協力とは「一生をかけて取り組み続ける価値があるもの」です。国際協力を志したあの日から、一生懸命取り組みたいし、責任を持ってやり続けたいと思っています。

国際協力とは「一生をかけて取り組み続ける価値があるもの」と語ってくれた馬野さん

馬野さんたち、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンが挑戦しているクラウドファンディングは、2017年4月28日(金)23時まで!

是非下記のページよりご覧ください。

https://readyfor.jp/projects/plan

~編集後記~

馬野さんが国際協力に興味を持ったそのきっかけや、プラン・インターナショナルでの活動について詳しく伺わせていただきました。今回紙幅の関係でご紹介できなかった、「インドの女の子たちへの教育支援」のプロジェクトについては、後日、後編で詳しくご紹介させていただきます!

(後編へ続く)

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