インターネットは20世紀末に生まれた仕組みであるが、ここ20年で世界を情報化し、加えてグローバル化を推し進めた。この次の私たちの社会は、どのようにつくればよいのか、オルタナSはこの問いに挑んでみたい。筆者は松永統行・国際社会経済研究所 情報社会研究部主任研究員と協力して、この企画を進めていく。松永氏は、ポリモルフィック(多形構造)ネットワーキングという構造概念の提唱者だ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

ポリモルフィックを軸に、未来の社会について話し合う、西成氏(右)と松永氏

ポリモルフィックを軸に、未来の社会について話し合う、西成氏(右)と松永氏

第一弾として、筆者は、松永氏と西成活裕・東京大学先端科学技術研究センター教授のもとを訪れた。西成教授は、数理創発システム研究(渋滞学・無駄学)の権威で、ポリモルフィックの考えにも精通している。

東京大学 西成総研

インターネットの仕組みが、ソーシャルネットワーキングを生み出した。私たちは、フェイスブックやラインなど、スマートフォンを通じたデジタルなつながりの世界を生きている。

コンピュータと通信の進化はさらに続いている。コンピュータと人間の恋を描いた映画や、ロボットやコンピュータが人間に代わり世界を支配する映画が近未来の物語として上映されている。2045年にコンピュータが人間の能力を超えるというシンギュラリティーの議論も盛んだ。シリコンバレーにはシンギュラリティー大学も設立されている。「SFだけの話だろう」と疑う一方で、オセロ、チェスから将棋へ、今や囲碁まで、コンピュータがプロ棋士に勝つ現実もある。

■情報空間が生み出す仕組みと近未来社会

池田:インターネットの次の仕組みが作る近未来社会とは、また、多形構造社会についてご説明ください。

松永:IoTという言葉をご存知ですか。インターネット オブ シングスの頭文字でモノのインターネットと注釈され、スマートフォンやPCのような端末だけでなく、さらに多くのモノがインターネットにつながる社会の仕組みを表現している言葉です。

昨年、私の所属する国際社会経済研究所が西成先生を主査にお迎えし、IoT研究会という研究会を開催しました。1年間の議論を経て、今年(2016年)の3月18日にシンポジウムを開催したのですが、その折に提唱したのが、ポリモルフィック(多形構造)という構造概念です。

知能化するプラットフォーム IoTの未来へ

池田:構造概念とは聞きなれない言葉ですが、どのようなことを意味するのですか。

松永:モノゴトの現象には、よく見ると何らかの構造が潜在していることが多く、その構造の理解や制御のための方法論を構造概念と呼びます。インターネットは20世紀が生んだ社会インフラですが、インターネットの上での振る舞い(例えば、知識を獲得したり、コミュニケーションをしたり、消費や取引をしたりすること)は、インターネットの構造の上で作り出されています。インターネットは世界をつないだとても便利な道具です。一方で、巨大化したインターネットは、セキュリティやプライバシーの問題等の本質的に避けられない構造的な問題を抱えています。池田さんたちの世代が、次の新しい社会や社会インフラを作っていくときには、構造概念からデザインすることが必要になるはずです。

池田:仕組みを構造から考え、デザインするのですか。

松永:そうです。そういう時代になってきています。民泊と呼ばれ宿泊施設をネットから予約できるAirbnbや、オンライン配車サービスUberは、SNS上のアルゴリズムが作りだしている新しい仕組みです。部屋を持たないAirbnbとクルマを持たないUberとも言われ、個人が所有しているクルマや部屋をシェアするという新しい概念の潮流がすでに生まれています。

SNS上のアルゴリズムが社会インフラになる新しい時代が到来したというのも大きな特徴です。西成先生は、数理創発システムのご研究がご専門ですので、このような社会現象の分析の第一人者でもあります。IoTという言葉もそうですが、さらに多くのモノがネットワークにつながり、人工知能技術や機械学習技術を活用する知能化したプラットフォームが生まれようとしています。今回のIoT研究会のシンポジウムでは、ネットワーキングにより社会の全てに神経が通うときの、社会が考えるべき革命的なインパクトについて言及されております。
IoTの意義と未来

プラットフォームの知能化と進展

池田:SNS上のアルゴリズムが仕組みの根幹になっているのですか。

松永:難しそうに聞こえますが、しかし、すでに身近になっています。例えば、ウーバーとは、ウーバーテクノロジーズ社が提供する配車ウェブサービスと配車アプリケーションの総称で、仕組みの根幹にはアルゴリズムがあります。運営主体は、○○タクシー社ではなく、情報空間を扱うテクノロジーズ社なのです。

インターネットの登場により、コンピュータが作りだす情報空間はグローバルに広がり、ますます、私たちの現実の生活である実世界と切り離せなくなっています。エアビーアンドビー社にも訪問したことがあるのですが、サービスを提供する仕組み一体をプラットフォームと呼んでいます。社会を支えるインフラが、実世界の側からではなく、情報空間の側から構築される時代になりました。これらは、SNS上に生まれた多様なアルゴリズムを活用した新しい仕組みと言えます。

池田:新しいインフラが生まれた原点は、インターネットやSNSの登場にあるのですね。

松永:そもそも、インターネット(ウェブサイト)の仕組みも、スイスのジュネーブの郊外にある欧州原子核研究機構(CERN)にいたティム・バーナーズ=リーが考案し、これを、米国イリノイ大学の国立スーパーコンピュータ応用研究所(NCSA)にいたマーク・アンドリーセンがテキストだけでなく画像も使えるようにして広まった仕組みです。脳の神経細胞のシナプスのようなデータ格納の仕組みともいわれ、グローバルで公平な感覚で思考する科学者の発案と連携で瞬く間に世界に普及しました。

このような仕組みを創り出したのは、西成先生がご専門にされているようなモノゴトを抽象化や一般化をして捉える数理や物理の頭脳なのです。このような領域に、次世代を担う子どもたちが、特に日本では理系文系の線引きなく、より自由に触れられるようになるとよいのではないかと思います。新しい社会を生み出す思考が求められている魅力的なフロンティア領域です。

池田:普段当たり前に使っていますが、ウェブをクリックしながら、いろいろな場所にある情報を辿り、情報をグローバルに共有する仕組みは、先端科学者の数理の頭脳とオープンで公平的な思想によって生まれたのですね。

松永:インターネットが商用化し一般社会で使われ始めたのが約20年前です。インターネットの登場は、情報革命と呼ばれ、情報社会を作りだしました。産業革命がモノの生産と供給を支えた革命であるのに対し、情報革命は、情報の生産と処理を支えた革命です。その結果、先進国では、モノが充足し、情報が溢れる社会ができました。溢れる情報を共有することで価値を生む社会というのは、インターネットの仕組みが作り出したとも言えます。SNSの登場も自由で平等な情報共有の概念から発祥しています。

池田:確かに情報の共有が社会のあり方を変えていますね。

松永:インターネットにはその次に、クラウドコンピューティングという技術進化があります。PCばかりではなく、スマートフォン等のモバイル機器も含め、クラウドサービスが始まったのが約10年前です。仮想化技術と呼ばれる技術により、ネットワーク上にある記憶媒体や計算能力をあたかも自分のコンピュータのように使えるようになりました。

少し前であれば、池田さんの世代をデジタルネイティブという呼び方もあって、映像を早送りしたり、スキップしたりすることが当たり前に存在するようになった世代を指す言葉がありました。スキップやザッピングができない映像に触れることに違和感を覚える世代です。2015年はクラウドネイティブ時代の幕開けと呼ばれ、クラウドサービスがコンピュータに触れた時から当たり前に存在する世代の時代の到来を告げています。大きな記憶装置や高い計算能力を保有する機器が手元になくても、自在にコンピュータを使うことが当たり前に存在する時代の幕開けです。

池田:知らないうちに見えないところでどんどん進むのですね。

松永:そうなんです。理由のひとつには、スマートフォンのような情報端末の進化があります。2000年の頃のロッカーとかタンスのサイズのコンピュータ2台分から3台分の能力が、今、スマートフォンに搭載され手のひらに載っているとも言われます。ガラケーからスマートフォンに買い替え、さらに新しいスマートフォンに買い替えていくだけで、この技術進化を気がつかないうちに享受できたからです。アプリケーションも無数にあるものから選択し利用することができるようになりました。利用者からのみの視点では、このような進化は知らないうちに見えないところで進みます。

池田:グローバルに情報を共有することのできるインターネットというプラットフォームを持つ社会に、この先、どのようなことが起こるのでしょう。

松永:フェイスブックやラインのような情報共有においても、情報は国境も超え、社会も大きく変わりました。さらに、情報共有化が進むということに加え、質の異なった進化が起きています。プラットフォームの知能化という進化です。知能化したプラットフォームが社会に浸透することによる変革です。

図1

池田:インターネットの登場により生まれた情報革命。その次に起こるプラットフォームの知能化とはどのようなことなのでしょう。

松永:産業革命と情報革命には、その結果、社会に作られた仕組みを見ると大きな特徴があります。基本的には供給型であるという点です。私たちのここまでの社会は、電力も水も産業も一様な形で提供され、「作られたプラットフォーム」の上で振る舞ってきました。次の技術進化は、従来とは異なっており、「プラットフォームが生み出される」ようになります。池田さんたちの世代は、生み出されるプラットフォームの上で振る舞う仕組みを扱うようになるはずです。

■自分たちの暮らしの仕組みを自分たちで考える時代に

池田:利用者である私たちが仕組みを考え、生み出す時代になってくるんですね

松永:暮らしに必要なモノが自律的に調達できるようになっています。ムーミンシリーズの著者であるトーべ・ヤンソンが電気も水もない小さな島での暮らしを好んだといいますが、今や、給電できる電気自動車を使えば、数日間かもしれませんが、電気のある小さな島暮らしも可能です。

長期的に確保したければソーラーパネルを持ち込んでもよいかもしれません。飲み水も、都心では宅配した水を使われている方もいます。必ずしも、敷設された電線や水道管からの供給システムを使う必要がないところまで成熟した社会になりました。産業も従来のマスプロダクションで存続できる業態は減りますので、働くことについても、多様で自律的な選択肢が求められているのではないかと思います。

私たちの社会は、電力も水も産業も供給型の「作られたプラットフォーム」の上で提供されてきましたが、情報技術だけではなく、暮らしそのものにも、「生み出されたプラットフォームの上で振る舞う仕組み」を構築することが求められてくるのではないかと思います。

池田:暮らし方や働き方が、知能化したプラットフォームにより高度に多様化する必然性があるのですね。

松永:今後の情報空間側の進化は人を中心に展開しますので、さらに実社会と切り離せないものになっていきます。例えば、人工知能がいろいろな問いに答える能力を向上すれば、学校が教科書を使って教えてきたことの多くを置きかえることが可能になり、学び方の選択肢が増えるのではないかと思います。

学校の役割や提供すべきことも、変わるかもしれません。職業についても同じです。プラットフォームの知能化とは、インターネットによる情報の共有化や検索とは次元の異なった革新をもたらすはずです。電気のない小さな島暮らしが、クリエイティブな才能の集まる、電気も知的刺激や教育もある、豊かな島暮らしになる可能性も広がりますし、逆に都心の遊休地に新しい形で小さな自然を持ち込む可能性を生むかもしれません。このような進展を支えるために必要な概念として、ポリモルフィック(多形構造)という構造概念を提唱しました。

■ポリモルフィック(多形構造)とは

池田:ポリモルフィック(多形構造)とはどのようなことでしょう。

松永:ポリというのは、「多くの」という意味で、ポリエチレンとかポリエステルのポリと同じです。モルフィックとは、構造のことで、多形構造と注釈しています。反対がモノポリモルフィック、単形構造となります。今までの社会インフラが持つ供給型の仕組みは、基本的には電力でも水でもインターネットでも、なるべく一様な仕組みで、単形構造である方が効率的でした。産業も大量生産大量消費が高度経済成長を支えましたが、これも基本的にはモノモルフィックです。ポリモルフィックというのは、その場所やその時やその状況に合わせて適応し、形を変える柔軟な構造を意味します。

池田:状況に合わせて形が変わるのですか。

松永:脳の仕組みが多形構造的ですし、生命の中ではむしろポリモルフィックに適応することの方が一般的です。脳の中では出来事により記憶のネットワークが再編されると考えられていますし、生命では、さなぎが蝶に代わるときには、遺伝子により体の形態そのものをガラリと変える変態が起こります。21世紀は生命科学の時代と言われています。生命科学の進歩が、20世紀を変革した情報技術や通信コミュニケーション技術をさらに変革していきます。コンピュータは、より生命的な振る舞いに近づきます。

池田:コンピュータが生命的な振る舞いをするようになるのですか。

松永:ロボットがそうですし、自動運転車やドローンのようなものを見てもわかるのではないかと思います。先端技術は、自律化という新しい目標を持つフェーズに入っています。自己組織化されたシステムが、自ら認知空間を持ち、多かれ少なかれ判断をして振る舞いますし学習もします。実は、インターネットの次のこのような質の異なった革新の世界観を表す言葉が見つからなくて困っていました。

ニューロモルフィックというのも違っていて、東北大学の矢野雅文先生に相談したところ、ポリモルフィックという言葉をいただき、インターネット(ワーク)の次の変化をポリモルフィックネットワーキングとしました。矢野先生の日本を変えるという著書があるのですが、測定や予測に限界がある実世界で、システムが適応するための科学のあり方や視座が描かれています。

日本を変える

池田:確かに生命は、測定や予測に限界のある、つまり測定や予測ができないこともある実世界で生きていますね。

松永:今までのコンピュータは、測定や予測が可能な条件の中で、答えを出してきました。答えの出ないものは排除してきた傾向もあります。実世界はそのような条件ばかりではないので、人や生物のように、それでも適応できるシステムが必要になります。社会の仕組みも人のシステムですので同じです。価値観によって振る舞いが変わりますし、経験によっても変わります。

仕組みも社会と一緒に構造を変えながら成長することが必要です。SNSの情報空間の世界では、同じ関心や価値観の人々が参集します。物理の世界でも、粒状になる現象が研究されてきました。1グラムのグラムは粒という語源からで、粒状の構造をグラニュラー構造と呼びます。グラニュラーコンピューティングという先端研究もあります。ポリモルフィックな仕組みのもう一つの大きな特徴は、局所最適化にあります。自己組織化した自律的なコミュニティに適応しますので、画一的には振る舞いません。社会が多様化する中で各コミュニティの粒立った価値観に適応し成長していきます。

■グラニュラー(粒状)に集合する現象の視覚化

西成:グラニュラー(粒状)というのは、たいへん面白い研究対象で、まだ解明されていない領域でもあります。水時計は数理的に表現できるのですが、砂時計はまだできていません。

この透明なケースの中には、大きなビー玉と小さなビー玉が入っています。このビー玉にレーザー光を当てて写真を取ると、ビー玉とビー玉の接点には圧力がかかっているので光が回折し、圧力やひずみを表現した写真ができます。これを見るとはまさにネットワークです。このケースを振ると、このネットワークの構造がガラっと変わります。ポリモルフィックにネットワークが変わる多形構造を物理現象として視覚的に認識できる事例で、研究対象となっています。これを振り続けると重いはずの大きなビー玉が上に浮いてきます。

無題

松永:社会的なネットワークも、物理現象と表裏の関係にあることが多いので、このように視覚化できると面白いですね。大きなビー玉が大企業にあたり、小さなビー玉が中小企業と身立てれば、環境に適応しながら、ネットワークの構造を変えていくときのシミュレーションもできるかもしれません。

企業セクターと政府セクターのネットワークでもよく、数理的に表現できれば多様な事例に適用できるのではないかと思います。経済的な交換システムも知能化したプラットフォームが担う時代になると思います。例えば、ウ―バーやエアビーアンドビーは、市場において新しい交換システムを創出しましたが、価値の交換は、お布施のような利他的な互恵システムや税金のような再配分システムもあり、これらの異なった構造を持つシステムが状況に応じてより柔軟に適応する新しい多形構造化の仕組みの研究も可能なはずです。互いに恵み合う互恵システムとは、市場が生まれる前から存在する根源的な価値交換システムですので、このような仕組みを再考し、社会に新しい構造として取り込むことは有効なのではないかと考えています。

図2

■ギフト・エコノミー ~利他的な互恵性を規範とした多形構造社会の創出

池田:インドのタミルナドゥ州にある、「オーロビル」という村があります。世界最大のエコビレッジと称されており、ここでは多くの仕事に金銭的な報酬がありません。互恵性を規範とした多国籍の人たちが集まる利他的なコミュニティが存在します。

報酬は金銭ではなく、自己開発〜ギフトエコノミーの町で生きる〜

西成:見返りを求めずに相手のためにした行動について、第三者が褒めてくれたり、良い評判が流れれば、その人は満足します。利他的な振る舞いの中にも、「誰かに見られている」という利己的な欲求や満足が存在しています。これが、利他の行為をする潜在的な理由の一つで、ある意味では「利他と利己は同じ」と考えることができます。

池田:米国の心理学者・アブラハイム・マズローの理論「マズローの欲求段階説」があります。この第5段階の最上位に位置する「自己実現」の上に「コミュニティの発展」があるとされ、これがエシカルな欲求につながっていると言われていますがいかがでしょうか。

松永:自己実現等、人間は個としての欲求や充足もありますが、社会的な動物ですので、群れとしての欲求や充足感、幸福感もあるはずです。とりわけ、共感は群れのセーフティベースとも呼べるのではないかと思います。群としての振る舞いや適応能力を洞察することが、知能化するプラットフォームのデザインには不可欠になると考えています。

西成:渋滞もそうですが、群の行為を考察していくと、エシカルなコミュニティの源泉には、「互恵性」があり、キーワードです。一見、市場原理で成り立っているようにみえるウーバーやエアービーアンドビーのサービスにおいても、シェアコミュニティが成り立つためには、互恵性がないと存在できません。

池田:互いに恵み合う性質である互恵性が、金銭的な報酬を求めないボランティアだけではなく、金銭的な市場交換をしているシェアコミュニティにも必要なのですか。

西成:進化ゲーム理論にフリーライダーというテーマがあります。フリーライダーとはただ乗りをする人で、コミュニティのサービスを消費するだけの人が一定の割合で増えていくと、シェアコミュニティは崩壊するという理論です。

池田:シェアコミュニティーを維持するためには、どのようにすればよいのでしょうか。

西成:互恵性を保つことが必要です。互恵性がコミュニティに浸透すると、相手に何かをすれば、第三者が評価し、その本人に返ってくる。このような信頼関係が生まれることで、お互い知らない人どうしでも助け合うようになります。コミュニティの互恵性を保つためには、そのコミュニティをローカライズして、外界から守ることが必要です。ポリモルフィックは、局所最適化の構造概念ですので、このローカライズという点でも合致します。

池田:信頼関係を築くためには、ローカライズが必要なのですか。

西成:電車の路線がそうなのですが、単に路線を拡大したり複数路線を統合すればよいということではありません。遠くで起こった事故のために、ダイヤが乱れる現象が起こります。ローカライズしておけば、リスクが分散でき、システムの信頼性が担保できます。

池田:なるほど。そもそも互恵性は自然と生まれてくるものなのしょうか。

西成:西洋では宗教が互恵性を生み出していて、日本では徳がその役割を持っています。新渡戸稲造の「武士道」に代表されるように、日本人には古来から、徳があり、相手と言葉を交わさないでも共感し合える、「阿吽の呼吸」を持っています。近代化にともない西洋文化が入ってきて、武士道の精神は薄まってしまいました。

池田:現代社会では、互恵性は生まれないのしょうか。

西成:そんなことは全くありません。SNSの存在があるからです。SNSで個人どうしが見られるようになったことで、今の時代のほうが、評価を受けやすいので、利他的な行動が起きやすいかもしれません。

■人々の行動が自然にエシカルになるコミュニティづくりのヒント

池田:人々の行動を自然にエシカルな行動にするコミュニティは、法則化できるのでしょうか。

西成:そのヒントは自然界にあります。最小作用の原理という物理学を学ぶものなら初めに学ぶ基礎原理があります。自然は無駄をしないという原理で、モノを投げると放物線を描くのは、それがもっとも無駄のない経路であり、形だからです。

自然界には無駄な動きがなく、生命もコストを最小化して生き続けています。例えば、イワシの群れは、海の中を自由に泳いでいても、大型な魚に遭遇すると、即座に群れでかたまり、その魚よりも大きな魚の形をつくり、命を守ります。この動きは誰かに命令されているわけではありません。イワシの「生きたい」という生存本能に従い、最小限のコストでその欲求を果たす行為を取っているのです。

松永:人間を超えるかもしれないと言われる知能化技術の進展のなかで、従来のような単一の構造で供給型のプラットフォームのみを想定するのではなく、ポリモルフィックで柔軟な構造を持つプラットフォームのデザインが求められています。現象の潜在下にある構造にも目を向け、環境に合わせた自律的な振る舞いを法則化できれば、人間にとっても最小のコストでエシカルなコミュニティを支える仕組みを手に入れることができるのではないかと思います。

西成:生物は生き残るために、あらゆることを実験します。長く生きているものには、真実があります。自然の振る舞いに大いに学ぶべきです。

読者のみなさんも、周りで長く生き残っている自然界の動きを注意深く見てほしい。きっと、そのなかに、私たち人間にとって、暮らシェアすい法則のヒントが隠れているはずだ。

西成活裕:
東京大学先端科学技術研究センター教授。ムダどり学会会長などを併任。専門は数理物理学。著書「渋滞学」(新潮選書)は講談社科学出版賞などを受賞。文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出され、また多くのテレビなどのメディアでも活躍。

松永統行:
日本電気㈱ 中央研究所ビジネスイノベーションセンター、システムプラットフォーム研究所、クラウドシステム研究所を経て、2015年8月より、㈱国際社会経済研究所 情報社会研究部 主任研究員 現職。

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