AIGグループはLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの総称)フレンドリーな企業になるため、今年に入り相次いで取り組みを始めた。これまでは、主にLGBT啓発イベントへの協賛という形で支援していたが、今年に入り、保険商品の対応、福利厚生の見直し、社内研修など、会社としてできる取り組みを加速する。その背景について取材した。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

昨年10月に虹色ダイバーシティ村木理事を講師に迎え開催したLGBTセミナーには多数の役職員が参加した

昨年10月に虹色ダイバーシティ村木理事を講師に迎え開催したLGBTセミナーには多数の役職員が参加した

AIGグループ傘下の損害保険会社であるAIU損害保険と富士火災海上では、傷害保険と海外旅行保険の死亡保険金受取人について、3月後半から同社が認めたパートナーシップ証明書(現在のところは渋谷区発行のもののみ)の写しなどを提出すれば、「配偶者または親族」と同等の扱いとし、これまでよりも手続きを簡素化した。

AIGグループ傘下の生命保険会社であるAIG富士生命は5月16日、同社所定の条件を満たした場合、生命保険の死亡保険金受取人に同性パートナーの指定を可能とする運用を開始した。

生損保合わせての対応をグループとして発表している例は異例のことだ。AIGジャパン・ホールディングスの高橋 久・リージョナルPAオフィス ヘッドオブグループは、損保分野についても早期に対応ができたポイントとして、「グループの方針に合わせ、生保だけではなく、損保でも何かできることはないか洗い出しを行い、その中で優先順位を付けた」と話す。

また、5月1日から、社員の福利厚生における結婚および配偶者の定義に「同性婚」を追加した。これにより、例えば結婚祝い金や結婚式休暇の適用範囲が同性婚の従業員にも拡大し、代用社宅規程、単身赴任補助規程、転勤費用規程においても同性婚パートナーが対象となる。

全管理職が受講するハラスメント研修の中にもLGBTに関する項目を1月より追加している。

AIGジャパンの蓮見 勇太・ダイバーシティヘッドは、「人事やダイバーシティ担当だけがLGBTへの理解促進に努めている状態では、会社全体にその理念を浸透させるには、時間がかかる。九州の代理店から提案があり経営陣、営業部門や広報・CSR部門が動いたタイミングを逃さず、一気に取組みを進めた」と話す。

これらの取組みを継続するために、従業員ネットワークだけでなく、AIGジャパンのダイバーシティカウンシルという組織にLGBTのワーキンググループを発足させた。LGBTフレンドリ-な企業を目指す。

■何気ない会話にも差別が

LGBT向けにメディア運用や、企業向けに研修事業を行うレティビー(東京・品川)の外山雄太共同代表は、「LGBTとのコミュニケーションについて無意識に差別していることがある」と言う。何気ない会話のシーンにも、無意識に差別していることがある。

(飲み会の場で)「彼女・彼氏いますか?」――「男は女を、女は男を好きになるという前提で聞いているので偏見を与える。パートナーはいる?と聞くように」。

(美人なLGBT当事者に向かって)「そんなに美人なのに、レズビアンでもったいない」――「女は男と付き合って当たり前という偏見がある」。

(カミングアウトした人に対して)「ゲイでも偏見ないから大丈夫」――「無意識のうちに偏見を持っており、それに注意していかないと意図せずに差別的な発言をしてしまう。そして、そのことに気付けない」

LGBTへの無意識の差別的発言が、当事者と職場の距離を遠ざけている。特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ(大阪)が2015年に行った調査では、同性愛者・両性愛者の約40%、トランスジェンダーの約70%が就職・転職に困難を感じていることが分かった。ダイバーシティの推進へ、人口の7.6%とされるLGBTへの対応は欠かせない。

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