人口約6000人、徳島県の山間部に位置する神山町。豊かな日本の原風景を残しながら、全域に光ファイバー網が整備され、サテライトオフィスの誘致やアーティストの招聘で注目を集めている。この地で、眠っている宝に光を当て、じいちゃんたちが守ってきたものを次の世代へ受け継いでいく活動を行う団体がある。神山町の地域おこし協力隊が立ち上げた、NPO法人里山みらいだ。地域創生をどう考えているのか、話を聞いた。(武蔵大学松本ゼミ支局=牧野 伶美・武蔵大学社会学部メディア社会学科2年)
「梅干しを作っていらっしゃる農家さんとの出会いがありまして・・」。こう語ってくれたのは、里山みらいの理事長を務める有正あかねさん。無添加で一つひとつ丁寧に作り上げられた梅干しや、それを作っているおじいちゃんの姿に感銘を受けた。「正しい価値で世の中に広めていって、残していきたい」と、活動を始めた思いを話す。
里山みらいが町外に向けて行っている活動のなかで、多くの人が注目し期待しているのが、「東京すだち遍路」というイベントだ。東京都内の飲食店に徳島県の名産である神山のすだちを使った創作料理を作ってもらい、すだちの良さを発信していく。
これまでに、2014年9月と2015年9の2回、40店舗の協力を得て開催してきた。「神山の農業を支えているすだち農家の方々と一緒に活動できたのは大きな意味があった」と話すのは、東京すだち遍路を企画した永野裕介さん。
「僕らの力ってそんなに大きくはないので、どこまで効果が得られているのかどうかはまだわからないんですけど、とりあえずプラスの方向に走っているのは確かだと思うので、これを続けることによって、きっと、良いすだち農業の形が生まれてくるのではないかと思っています」(永野さん)
神山町の全世帯に「神山のいまとむかしを伝える新聞」として、里山みらい新聞を配布している。
これまで、2015年9月に第1号、12月に第2号、2016年4月に第3号が発行されている。役場からの回覧板などと一緒に回してもらい、全世帯に届けられる。里山みらいの活動を町内の住民に知ってもらうためには、インターネットだけでは弱い。紙媒体で、しかも役場関係のものと一緒に回ってきたら目を通してもらいやすくなる。「届けたい人にどういう手段で届けるか」が大切という。
住民からの反響は上々。里山みらいの使命として、神山町にある本来の宝に光を当てることを意識して、身近な人を取り上げて記事にしている。
「お隣の○○に住んでる○○ちゃんが出てる!」と親近感を持ち、そこから里山みらいの活動にも関心を持ってくれるそうだ。里山みらい新聞は町内だけでなく県外の協力店舗に置いてもらったり、神山すだち住民に配布している。
神山すだち住民とは、2000円以上ふるさと納税をした人を指し、もれなく「すだち住民証」が交付され、神山町協賛施設の割引など様々な特典を得られる。
15000円以上納税すると、神山のすだちや、梅干し、採れたての野菜やお米などの特産品「おすそわけ便」を年に3回が送られてくる。
「いまは都会に住んでいるけど、いつかはふるさとに帰りたい」「都会の暮らしはやめたくないけれど、いつ行っても迎えてくれる人たちがいるふるさとが欲しい」という人の「ふるさと」になるために、2015年、役場から委託されて「神山すだち住民課」を開設し、1年間で90件、6~7割が県外からの納税だ。
5年後10年後には、地元の農家が主体的に活動できるようになることを目指している。里山みらいが実験的に活動し、うまくいったらみんなで動いていく。このようなきっかけづくりをしていき、ノウハウを地元の農家に伝えていこうとしている。
神山町はお遍路で訪れた人への接待文化が残る、あたたかい町。お金よりも人と人との関係性、自然の中で生きていくための知恵を中心に回っている。湧き水があり、作物も育てられる、ライフラインが整った環境で、そういったものを生かしながら生活していく暮らしこそ、里山を持続可能にしていくのではないだろうか。
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