トヨタ財団によるNPO運営ワークショップ「カイケツ」第1回シリーズが今年8月、座学編の最終回を終えた。トヨタ自動車のトヨタ生産方式(TPS)を非営利組織のマネージメント改善に生かしてもらう試みだ。5回のワークショップを通じて、NPOはどう変わったのか、現場から報告する。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
この講座の名称は、トヨタNPOカレッジ「カイケツ」。主催しているのは、トヨタ財団。企画協力に、あいちコミュニティ財団(愛知県名古屋市)、PubliCo(パブリコ、東京・品川)、オルタナ(東京・目黒)がかかわっている。
同財団がこれまでに行った助成件数は7900、総額は179億円に及ぶ。この講座を企画した背景について、大野満・事務局長は「複雑化する社会的課題に対応していくためには、助成するだけでなく、もっと踏み込んだ支援が必要だと考えた」と話す。
この講座では、NPO幹部は6人1グループに分かれ、それぞれのグループに講師が付く。講師は、トヨタ自動車業務品質改善部に所属する現役社員ら。
受講者は、5月から8月まで、「テーマの選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」の5項目を教わった。
同日の講座は、座学を教わる最終日。受講生たちは、これまでの学びをもとに、5項目をA3用紙一枚にまとめた。
各項目について、講師からのアドバイスを入れて説明する。
■テーマの選定
改善したい課題を1文にまとめるステップ。
「改善点を絞ることが大切。テーマを読めば、改善の狙いが理解できるように表現するべき。どこで(製品名、工程名)・何を(管理特性)・どのように(水準、方向)の3項目を具体的にするべき」(杉浦和夫・改善QA研究所/元トヨタ自動車)
例:「錆び止め工程におけるフロアーへのオイル滴下の防止」
■現状把握
問題が起きている事実を定量的に把握するステップ。原因をデータ化し、問題点を絞る。
「主観ではなく、多くの客観的な事実を集めて定量的に整理する。顧客について、どのような価値を、どう提供しているのかの3項目に分けて発表することがおすすめ」(古谷健夫・トヨタ自動車業務品質改善部主査)
■目標設定
「その目標を達成すると、選定したテーマを解消できるものに」(河合武雄・河合WORK研究所/元トヨタ自動車)
■要因解析
原因についての真因を探るステップ。原因に対して、5回のなぜを繰り返す。このときに、「なぜ」と「だから」の往復になっていないといけない。
「仕事のやり方の悪さと不具合現象の関係を調べるステップ。現状把握と混ぜて考えてしまいがちだが、現状把握では要因は書かない。事実だけをまとめる。」(杉浦和夫・改善QA研究所/元トヨタ自動車)
■対策立案
要因解析で出た真因を解決するための対策。真因ごとに、「対策内容」「担当者」「期限」に分けて記入する。
「真因への対策をいきなり考えるのではなく、方向性を明確にしてから、アイデアを出していくこと」(中野昭男・のぞみ経営研究所/元トヨタ自動車)
この講座の講師は全員、NPOにトヨタ生産方式を教えるのは初めて。株主への分配などを除けば、NPOは民間企業と同様に、事業活動を行う組織。だが、スタッフの数やステークホルダーとのかかわり方など、民間企業とは異なる点がいくつかある。
講師を務めた藤原慎太郎・トヨタ自動車業務品質改善部は、「トヨタ生産方式はモノづくりにおける実績やノウハウはあるが、NPOの課題は、ボランティアマネジメントやイベントの集客など人にまつわるものが多かった」とするが、「グループのメンバーどうしが、アイデアを話し合うスタイルにして、解決策を引き出せた」と話す。
NPOとの出会いで、人への接し方について学んだという。「雇用とは違い、ボランティアは強制力がない。そのため、ボランティアをマネジメントするためには、その人の心に訴えなければいけない。人への対応の姿勢については多く学んだ」と藤原氏。
講座を受講した任意団体Cloud Japan(NPO法人申請中)の田中惇敏代表理事は、「さまざまな視点から、分析してもらい、刺激を受けた」と話す。「A3一枚にまとめるために、スタッフと話し合うためにゆっくり時間を取った。知らなかった部分を知れて、多くの気付きを得た」。
受講者は本日の講座で、座学を卒業し、それぞれが考えた対策の実行ステップに入る。大野・トヨタ財団事務局長は、「問題解決手法の効果を納得したら、仲間に広めてほしい。そして、ほかの課題にも適応してほしい」と話した。
各NPOの成果発表会は12月16日に名古屋市で行われる。一般の観覧も受け付けており、100席ほど用意する予定だ。
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