カラッと肌寒い風が大地を吹き抜け、地平線に並ぶ風車をクルクルと回す。
マリボ駅前の小さな町で行き交う人々は、時を忘れたようにのんびりと暮らし、まるで別世界に来たようだ。
北欧・デンマーク最南端に位置する、人口約6万3千人の片田舎。
島の面積は沖縄本島とほぼ等しく、肥沃な土壌に恵まれ、島民の多くは農業に従事する。
そして、ロラン島で近年新たに主産業となり、世界の脚光を浴びているのがエネルギー産業である。
「自然エネルギー100%、かつ、エネルギー自給率600%の島」と聞いて、興味を持たない人はいないだろう。
2011年の福島第一原発事故を経験し、様々なエネルギー問題を抱えるぼくら日本人からすれば、夢物語に聞こえるかもしれない。
デンマーク国内でも特に風況がいいロラン島は、平坦な土地に、安定した風が絶えず吹きこみ、それを利用した風力発電が広く普及している。
かつての原発予定地を風車発電パークに変更し、世界初となった洋上風力発電パークを設立。
そこで世界初の風力と波力のハイブリッド発電を実施するなど、ロラン島の活動はグリーンでイノベーティブなデンマークを象徴すると言える。
気になる風車の数は、陸上・洋上をあわせて、およそ500基(隣のファルスタ島との総数)。
しかも、その半数以上が個人または市民の所有物、いわゆる「マイ風車」だ。
もちろん風車はとても高価なため、一見リスクの高い買い物のように思える。
しかし、メンテナンスなど様々な費用を考慮しても、投資額はおおよそ10年前後で回収可能。
それからは風が吹けばお金が貯まる素晴らしいビジネスだという。
また、高価な風車を共同購入して電力をシェアするのも一般的で、そのコミュニティを楽しむ習慣も島民には根付いている。
島内で生産される再生可能エネルギーは、風力発電だけではない。
バイオマス発電、バイオガス発電、ゴミ発電、資源のリユース、熱電併給(CHP)と多岐に渡って資源を最大限利用する。
ほかにも、次世代の風力技術者の育成、先進的な藻の研究、燃料電池を利用した水素コミュニティの実証実験などを行ってきたことでも有名だ。
こうした様々な取り組みにより、現在のエネルギー自給率は600%を超え、コペンハーゲンなど需要の高い国内地域や外国に電力を輸出する。
さらに、ロラン島は東日本大震災の最大の被災地の一つである東松島市と連携・協力協定を締結している。
2015年3月後半には東松島市の中学2年生12人がロラン市を訪問し、ホームステイやプレゼンテーションなど国境を越えた取り組みが行われた。
世界一幸福な国、デンマーク。
そして、未来を見据えてエネルギー問題に取り組む、ロラン島。
この島の歩みは決して順風満帆ではなかったが、明確なビジョンをもとに一歩ずつ理想の未来へと向かい、あらゆる分野で行き詰まりを見せる日本や世界の諸問題に対して、一つの未来の形を示している。
本連載では、この希望の島から未来への道筋を紐解く。
未来へと続く、ロラン島からの風に乗せて。
*この連載「希望の息吹は、小さな北欧の島から」は、EPOCH MAKERSから転載しています。この続きはこちら
著・別府 大河:
EPOCH MAKERS代表。デンマーク留学中、ウェブメディア「EPOCH MAKERS」を立ち上げ、英語を駆使して取材し、日本語で発信。帰国した現在も運営を続けながら、四角大輔アシスタントプロデューサーとしても活動中。