食の安全性が叫ばれるなか、作り手の顔が見える販売サイトは増えている。そこでは、作り手のストーリーを伝え、消費者の共感を獲得していった。ここへきて、その動きにある変化が見られる。キーワードは、共感から参加へ。変わるエシカル消費の最前線を追う。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

ポケットマルシェのトップ画面

ポケットマルシェのトップ画面

ポケットマルシェ(岩手県花巻市)は9月5日、生産者から食材を購入できるスマフォアプリをリリースした。そのアプリの名称は、会社と同名の「ポケットマルシェ」。

同アプリには、全国100以上の農家・漁師が登録している。生産者それぞれが自慢の食材を販売する。アプリ上で、生産者と会話することもできるので、スマフォを通して、マルシェに来たような気分が味わえる。無料でダウンロード可能だ。

農林水産省によると、新規就農者の3割は5年以内に離農する。その最たる要因は、不安定な収入だという。補助金が切れるタイミングとも重なる。そこで、同アプリでは、販路開拓を支援した。

直接販売で煩雑とされていた、出品から配送、顧客管理まで、アプリ上で処理できるようにした。配送では、ヤマト運輸と提携し、注文が入ると自動的に配送伝票をドライバーが生産者へ届ける仕組みになっている。

販売価格は生産者側で決められる。これまで生産者は農協や漁協に販売を委託していた。つまり、生産者に価格決定権がなかった。

ポケットマルシェにも出店している石巻のワカメ漁師の阿部勝太さんは、「モノが良いか悪いかで値段が正当に評価されるのではなく、市場や業者さんの事情で価格が決まっていた」と現状への不満を明かす。阿部さんは収益を上げるために、ほかの浜の漁師と組合をつくり、独自に販路を開拓した。漁協を通さないことで、批判も受けたが、協力費を納めることで、認めてもらった。

ポケットマルシェに出店している生産者は、手数料として売上高の15%を同社に支払うが、価格は自分たちで決められる。各地域によって、農協や漁協の縛りは異なる。本間氏は、「(出店者は)それぞれが交渉して、出店している」と話す。

同社の本間勇輝取締役は、このアプリの最大の特徴について、「ごちそうさまが伝えられること」と言う。これまで、生産者とコミュニケーションを取る機会は限られていた。このアプリを通して、感謝の気持ちが伝わるので、「生産者としての仕事に誇りを感じてもらえるはず」とする。この誇りが、担い手を育成する最大のカギと、本間氏は見る。

食べる通信およびポケットマルシェのチームで。最前列の真ん中が高橋代表、右端が本間氏

食べる通信およびポケットマルシェのチームで。最前列の真ん中が高橋代表、右端が本間氏

■エシカル消費の本質とは

ポケットマルシェを立ち上げた高橋博之氏は、情報誌「食べる通信」の代表だ。食べる通信とは、生産者を特集した雑誌。購入者には、雑誌とともに、生産者が作った食材が届く。生産者のファンをつくることで、価格競争に参加せずに生き残っていけるようにした。2013年に東北食べる通信が生まれ、その後、全国に派生した。今では、31都道府県35地域に広がる。

食べ物付きの雑誌「食べる通信」は2014年度「グッドデザイン金賞」受賞

食べ物付きの雑誌「食べる通信」は2014年度「グッドデザイン金賞」受賞

本間氏は、食べる通信の立ち上げから、髙橋氏の右腕として活躍してきた。この取り組みで、一定層の消費者に変化が起きているという。「ただ消費するだけでなく、積極的に生産活動にも参加するようになった」(本間氏)。生産者にほれ込んだ一部の消費者は、生産地に足を運び、生産者の悩みを解決するといった動きが各地で起きているのだ。

例えば、こうだ。マーケティングスキルを生かして、販路拡大を支援。SNSを駆使して、新規購入者を獲得。スキルがない大学生も、稲刈りの手伝いなど肉体労働で支援する。

ある大学生は、こうした参加によって、お返しとして、たんまりと米をもらった。こうした参加型消費によって、貨幣経済ではあり得なかった価値の交換が起きている。

作り手に惚れた消費者が自発的に動くことで、結果として、後継者不足が課題の一次産業を救うことになる。本間氏はこの動きこそ、「社会問題の解決につながるエシカル消費の本質的な形」と考える。エシカル消費を消費の文脈だけで見てしまうと本質が見えないとする。

消費することだけでなく、先に紹介した、生産活動に参加することも、エシカル消費の一部。そう考えると、お金をかけなくても、誰でも参加することができる、楽しくてハードルが低い活動とも考えられる。

・ポケットマルシェはこちら

・ピープルツリーのサイトはこちら

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