ユーリィ・ガガーリンの宇宙飛行から今年で50年を記念し、地球人大演説会と銘打ったEARTHLING2011というトークセッションが7月30日・31日と2日間にわたって慶応義塾大学 日吉キャンパスの藤原洋記念ホールにて開催された。「エコロジーとエコノミーの共存」をテーマに2001年に発足したNPO(非営利団体)Think the Earthプロジェクトも今年で10年目に突入し、それを記念するイベントでもある。
「アースリング(EARTHLING)」は「宇宙人から見た地球人」を意味する言葉で、SF作家のロバート・A・ハインラインが1949年に「レッド・プラネット」という小説で使用したことば。Think the EarthプロジェクトでもEARTHLINGを冠するイベントは今回が初となる。
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この回では、岡田武史氏や佐藤卓氏などのトークセッションの内容を取り上げる。
中でも菱川氏と佐藤氏から若者に向けた映像メッセージをいただくことが出来たので、併せてご覧頂きたい。
岡田武史 元日本代表監督、現日本サッカー協会理事
先ず、サッカーワールドカップ 元日本代表監督、現日本サッカー協会理事の岡田武史氏のトーク。岡田氏は35年間、学生のころから環境活動に従事され、富良野の自然塾で講師もされているという経験の生きた、非常に分かりやすいかたちで地球環境への認識について語られていた。
環境問題の本質は循環していることを知ることだと語り、またアメリカン・ネイティブの石碑に「地球は子孫から借りているもの」ということばが刻まれていることを例に挙げてトークを繰り広げられた。
また、後半では若者に対する熱い想いも語られていた。目標に向かってチャレンジすることの大切さを実感できる機会と、生きる力を与えたいという想いから、野外教育と環境教育の団体を立ち上げた経緯を説明。「夢が無いのでどうしたら良いですか」という質問を受けることがあり、ともかく何でも良いから目標を持ってチャレンジすることが大事で、「くそーっ」と思う機会があれば村上和雄先生の本にあるように遺伝子のスイッチを入れることができると語る。野外で一夜を過ごし、何もできない自分を実感、限界を知ることが必要と語られた。
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菱川勢一 映像作家/アートディレクター
続いてのセッションは映像作家であり、アートディレクターであり、写真家の菱川勢一氏。
普段から手で描くことや、観察をよくするなど、人の手を介したものづくりを大切にしている。
北海道のトマムに1週間こもり、そのうちなんと撮影できたのは2テイクのみだったという田中貴金属工業のCM映像や、NTTドコモの間伐材を使った携帯電話のプロモーション映像撮影で、3ヶ月もの長期プロジェクトでおこなわれた「森の木琴」の感動的なプロモーション映像(カンヌ国際広告賞を三冠受賞)の上映と共に、最後にバックスクリーンに映しだされていた「何もかざらない、ありのままのカタチは訴えるものが強い」というメッセージが印象に残っている。
菱川氏からは若者に向けてメッセージを頂くことができた。
動画メッセージはこちら
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久保田晃弘 衛星芸術
続いて、衛星芸術(ARTSAT)に取り組まれている多摩美術大学教授の久保田晃弘氏。氏はメディアとしての衛星に着目し、超小型衛星の芸術・デザイン活用を掲げ、多摩美術大学・東京大学の教授・学生・卒業生を主体としたARTSATプロジェクトを立上げられ、実際に宇宙に打ち上げることを目的に活動されている。多摩美術大学ではメディアアートやインタラクティブアートに取り組んでいるので、その延長線上にあるという見方もできる。
人工衛星は専門家による特別なモノだったが、日常生活の中の身近なコトに変えていくことをコンセプトとしている。たとえば、衛星音楽として、人工衛星から発せられる電波やデータを変調して音源化する取り組みや、iphoneのAR技術と組み合わせるなど取り組まれている。
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山中俊治 義足のデザイン
続いて、腕時計から鉄道車両に至るまで、幅広い工業製品をデザインしてきた、プロダクションデザイナーの山中俊治氏のセッション。
suicaのベースとなる、改札機の微妙な斜角度(13.5度)をデザインされた方で、今回は最新のテクノロジーを使って美しい義足をデザインされている取り組みを伝えられていた。山中氏はスポーツ義足に対し、当初は美しいものだからやれることが無いと考えていたが、練習会場に通ううちに、着用している方が自分の義足を装飾している、愛しているのだという事実に気づき、また自分でもお役立てができるように感じてきたという。
「彼らのために役立とうと思うとすぐんでしまう」「最初の一歩は好奇心で構わない」「近づいて話しているうちに、自分がやれることが見つかってくる」と山中氏。
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佐藤卓 ほしいもの学校
そしてグラフィックデザイナーの佐藤卓氏。氏は「ロッテ キシリトールガム」や「明治おいしい牛乳」、「エスビー食品 SPICE&HERB」などの商品デザインや、国立科学博物館のシンボルマークなど手掛けられている。また、モノとしてのデザインだけでなく、NHK教育テレビ番組のアートディレクションなども担当されている。
今回は氏が取り組まれている、ほしいものプロジェクトについて語られた。
物事を見る方法としては、全体から見る方法と、部分から見ていく方法の2つがあるが、部分から見ていく方法としてのお話として、氏のモノゴトの捉え方を垣間見る事ができるセッションとなった。
ほしいもの生産者の依頼から始まった今回のプロジェクトでは、まず本と「ほしいも」をセットとして販売することを最初の目標として設定し、「ほしいも学校」というネーミングて活動がスタート。世界ではじめての賞味期限のある本となっている。内容は、ほしいもの歴史から原料などの基礎講座、作るための道具、脱酸素剤、土がどうなっているのかの組成や、ほしいもが出来るまでの温度変化のグラフなど、さまざまな観点から「ほしいも」を解体。ほしいもの料理方法についても取り上げている。
過去のデザインの経験が今回のプロジェクトにどのように生かされるかという出席者からの質問には、下記のようなお答えになっていた。
キシリトールガムのデザインというと私の名前が出るが、パッケージデザインを担当しただけで、粒のカタチや、包装紙などのデザインはしていない。さまざまのデザインの上に、自分のデザインが皮膜のように乗っていると気付いた。更に奥へと入っていくと、知らないことがいっぱいあるんだと。さまざまなデザインの経験が、このような地域の活動にもつながっている。(佐藤氏)
佐藤氏からも若者に向けてメッセージを頂くことができた。
動画メッセージはこちら
記事/インタビュー映像撮影:オルタナS 特派員 滝井圭一
撮影:オルタナS 特派員 大下ショヘル