神戸市長田区で「誰も取り残さない」をテーマに、10言語での放送を行ってきたFMラジオがある。阪神淡路大震災を教訓に、災害情報を外国人に伝えるための報道機関として機能してきた。多文化共生のまちづくりへ、「多様性が街の力だ」と発信する。(武蔵大学松本ゼミ支局=細川 楓・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)

FMわぃわぃ代表理事 金千秋さん

FMわぃわぃ代表理事 金千秋さん

ケミカル産業が盛んな神戸市長田区。ここでは外国から来た多くの人々が働いていた。阪神淡路大震災をきっかけに、韓国語の放送FMヨボセヨと、ベトナム語での放送のFMユーメンが誕生した。

大震災にも関わらず自由に情報が得られない人々にとって安否確認のツールとして非常に役に立つものであった。そこから1年、FMヨボセヨとFMユーメンは合併し、現在では10言語での放送が行われている。それが、「FMわぃわぃ」である。

FMわぃわぃ代表理事の金千秋さんは、「ここの地域は多様な人々がそれぞれ力を発揮する。それが街の一番の力」と言う。これは多様な人がいることで、多様な知恵が層となり、街が強くなるということだ。

自然災害は避けられないかもしれないが、1人ひとりの力を上げることで被害は少なくなるかもしれない。

このような考えを根底に、FMわぃわぃでは住民1人ひとりの経験・考え・知恵を聴き取り、データ化し、提言していく。

1つの集大成として結論をまとめるマスメディア的な役割ではなく、1人ひとり言っていることが違っても良い。本当に1人ひとりのことを発信していくことがコミュニティメディアの役割だと語ってくれた。

そして1人ひとりが、「多様性が街の力、多様性は自分の力だ」ということを自覚してもらうためにスタジオで話してもらうと言う。

10か国語で放送を行い、多文化共生を進める。このエシカルな放送局は今年2016年からインターネット放送に移行した。これには深い訳がある。

災害が起きる度にコミュニティFMの需要は高くなった。そしてコミュニティFMは基幹放送と位置付けられ、ひと時も止めてはならず、そのために機械やスタッフを完備し、金銭的にも制度的にも厳格化された。

そして何より、多文化共生を謳う放送局であるにも関わらず、運営には日本人しか参加できないという規定がある。

この制度に対抗したのがFMわぃわぃである。この保守的な制度に反対の意思表示をするため、基幹放送局の免許を総務省に返した。「総務省からは、『5年の免許をもらってからいらんって何で言うんや、その前に言え』と言われたのですが、もらったから、返すって言えるわけですよね」(金さん)

FMわぃわぃが免許を返したことは各メディアがニュースとして伝えて、話題になった。「社会に対して問うつもりもありました」と金さん。多くの住民が存続を望む中で現行の制度では閉局せざるを得ない放送局もある。そんな無念を晴らすためにFMわぃわぃが大きな一歩を踏み出したのだ。

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