ダッカのスラムで子どもたちの教育機会が奪われているという。この現状を、開発メディアganas記者の関桃子氏に寄稿してもらった。





バングラデシュの首都ダッカで子供たちが教育を受けられるよう支援するNGO「エクマットラ」の渡辺大樹更生・訓練担当は2011年11月6日、都内で開かれた「アリ地獄のような街」映画上映会&講演会(主催:アジアNGOリーダー塾有志)で、同団体が03年からダッカのスラムで活動する教育支援について報告した。

■親が子供の教育機会を奪う

バングラデシュの首都ダッカで暮らす子どもたち

「ダッカのスラムでは親と生活をする子供たちの方が教育機会を得ることが難しい」。講演のなかで渡辺担当は何度もこう強調した。

ダッカでは現在、多くのNGOがストリートチルドレンに支援の手を差し伸べている。両親と死別した孤児や農村から1人で出稼ぎに来たストリートチルドレンは実際、労働の合間をぬって青空教室で教育を受けるようになった。

ただ、ストリートチルドレンへの支援が成果を上げる一方で、親と同居する子供たちのほうが教育の機会が奪われるという現実はあまり知られていない。

渡辺担当は「親にとって子供は大切な収入源。将来の見えない教育よりも、目先の収入を重視するあまり、教育をロスと考える親がまだまだ多い」と語る。

こうした“親に教育機会を奪われた子供たち”に教育の機会を与えようと、エクマットラは現在、親や地域コミュニティのリーダーに教育の必要性を訴えかけるなど、スラムで教育啓発活動を展開している。教育への理解があってこそ、子供たちは、親から教育を受ける「許可」を得られるからだ。

■児童労働に無関心の富裕層

教育支援の難しさは、子供たちに教育の機会を提供して終わりとはならない点にある。「直接的なアプローチだけでは、児童労働の問題は解決しない。児童労働の現実を知りながらも目を背ける多くの富裕層、中間層がいることが、この問題を助長している」(渡辺担当)からだ。

この講演では、ダッカの児童労働の実態をバングラデシュの中間層や富裕層に知ってもらう目的でエクマットラが制作した映画「アリ地獄のような街」も上映された。

この映画は、都市での収入を求めて農村から来る子供たちが、麻薬の運び屋やセックスワーカーとして利用され、ときには殺人事件に加担させられ、最後は命まで奪われる悲惨な現実を「アリ地獄」に見立て描いたものだ。

「ダッカの富裕層や中間層の中には、子供たちを危険な労働から救い出す経済力を持つ者も多くいる。児童労働の問題は、子供たちを利用・搾取する人間だけでなく、それを放任する社会にも大きな責任がある。社会全体がストリートチルドレンや児童労働に対する意識を変えない限り、問題は解決しない」(渡辺担当)

09年に完成したアリ地獄のような街はこれまで、バングラデシュ国内で40回以上、日本では60回にもわたって上映され、2万人以上の観客を動員した。


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