街づくりにシェアのうねりが起きている。一般社団法人シェアリングエコノミー協会は11月24日、都内で記者会見を開き、秋田県湯沢市、千葉県千葉市、静岡県浜松市、佐賀県多久市、長崎県島原市の市長が登壇し、「シェアリングシティ宣言」をした。それぞれの市は、民間のシェア系サービスを運営する事業者と連携し、地域の課題を解決していく。シェアリングエコノミーはGDPでは測りづらい経済が、個人間で遊休資産やノウハウを共有できるので、精神的な生きがいにつながり、町の活性化と親和性が高い。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
「例えば、子育てに関する個人の情報を共有できれば、新しく母親になった人の困りごとを事前に防げる」――。横尾俊彦・佐賀県多久市長は、シェアリングエコノミーの価値をこう考える。「GDPでは測りづらいが、まちづくりにおいて非常に重要な効果を発揮していくと考えている」と続けた。
多久市では、地方創生加速化交付金を受け、「ローカルシェアリング事業」を展開している。インターネットを通して、個人が企業などから仕事の発注を受ける、「クラウドワーカー」の育成を行う。第1期生として、20人を公募し、今年7月から11月の4カ月間で24回の研修を行った。
1期生は30代の主婦やリタイアした70代までと幅広い。研修会では、エクセルやワードの基本的な使い方から始まり、クラウドソーシングの仕組みについて教える。同市は、クラウドソーシング国内最大手のクラウドワークスと連携。
同サービスは、記事執筆やロゴ製作など、パソコンを使った業務の一部を企業が主に主婦などに外部委託するもの。打ち合わせから納品までをネット上で完結させるため、時間や場所にとらわれずに働くことができる。
多久市役所商工観光課の石上涼子係長は、「ご年配の人でも、ネットを通じて、働くことで社会とのつながりを感じている。いきいきとした表情に変わった人が目につくようになった」と話す。同市では、1期生の研修を終えたばかりなので、市として目に見える変化は起きていないが、「(変わっていく)予感がする」とのこと。
シェアリングエコノミーに舵を切ったのは、消費を促進する資本主義のあり方で成長することに限界を感じていることがある。多久市の人口は1万9829人(2015年)で、高齢化率は30.3%(2015年1月時点)と全国平均の25.1%を上回る。
同市は、炭鉱の町として栄えたが、1972年にすべての炭鉱が閉山。そこから雇用を求め、人口流出が加速した。人口減・少子高齢化に歯止めがかからない同市では、すでにある「場所」や「モノ」「ノウハウ」などを共有する「シェア」に解決策を見出した。
主な対象は、「働きたくても働けない人」。育児や介護で自宅を離れられない人やリタイアした人だ。クラウドソーシングで働くことで、「住民満足度」を高めていく。
住民満足度を高めていくことで、経済的な成長にもつながるとみる。「個人が家にいながらにして、稼ぐことができれば、一人ひとりの納税額が上がる。それに、自分で稼いだお金だから、自由に使うことができ、結果的に消費の促進になると思う」(横尾市長)。
同市では、着地型観光に特化したウェブサービスTABICA(タビカ)とも連携する。着地型観光とは、地元の人が地域の魅力を案内するもので、地域活性化につながると注目されている。旅行代理店は関与しておらず、企画は地元の人が行う。
■「お金儲け」より「課題解決が優先」
シェアリングエコノミー協会は今年1月に立ち上がった。ガイアックスやスペースマーケットなど6社で立ち上げたが、現時点での会員企業は127社に及ぶ。政府と連携しながら、シェアリングエコノミーの推進に取り組んできた。内閣官房IT総合戦略室とともに、検討会議を重ね、普及するためのガイドラインなどを策定した。
シェアリングエコノミーは不特定多数の個人間での取引のため、事故やトラブルを防ぐ対応策が課題とされている。今後は、事業者には自主的ルールを整備させ、安全性を担保する。
同協会代表理事の上田祐司氏(ガイアックス代表執行役社長)は、シェアを「お金儲けで流行らせてはいない」と強調する。「人口減少していく社会では、過剰生産・消費のあり方では、格差が広がるだけ。これまでの資本主義を見直すべき時に来ている」。
2014年度の国内シェアリングエコノミー市場は232億7600万円(前年度比134.7%)。今後、同協会では、シェアリングシティを2017年までに30都市まで増やしていくことを目指す。明日25日には、シェアリングエコノミー領域のキーパーソンが登壇する「シェア経済サミット」をSTAR RISE TOWER(東京・港)で開く。
[showwhatsnew]