全盲のNPO職員石田由香里さんは、フィリピンの視覚障がい児支援を行っている。同国では、視覚障がいがある子どもで、小学校に通っているのはわずか5%未満。石田さんは、教育環境を改善し、「障がい者の可能性を広げたい」と力を込める。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
石田さんが所属するのは、子ども支援を行う認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(東京・世田谷)。同団体はフィリピンで1907年に設立された国立盲学校と連携し、同校の寮の屋根修繕とスクールバスの購入を計画している。
同校には、幼稚園から十一年生(高校二年)まで143人が通う。そのうち、自宅から通っている生徒は3割。兄弟やガイドヘルパーらの手を借りて、通学している。それ以外の7割は寮で生活している。
兄弟がいる生徒なら話は別だが、ガイドヘルパーを雇うにもお金がかかる。そのため、生徒が寮に住めない場合、経済的に余裕がない家庭では、中退につながってしまう。
寮は、70人ほどが入っていたが、このたび、スペースを積めて96人が入れるようにした。しかし、この寮は築46年で、平な屋根。太陽の熱を直接通してしまい、朝から寮の気温は30度後半を超える。石田さんは、この屋根を三重構造で、三角の形にし、換気扇を設置し、教育環境の改善を図る。
フィリピンでは、健常者の小学校入学率は96%だが、視覚障がいがある子どもで小学校に通っている割合は5%未満。入学しても、高校へ進学するのは2%未満だ。同国には、盲学校は2つしかない。障がいがある子どもは将来、安定した収入を得ることができないため、「教育を受けても仕方がないと思われている」と石田さん。
この意識を変えるため、同校では、生徒をスクールバスに乗せて、イベントやセミナーに連れていく取り組みを行ってきた。視覚障がいがある子どもが教育を受けることで、可能性が広がることを発信してきた。
しかし、そのバスは20年前に購入したため、ドアや床は錆びついている。生徒を安全に移動させるため、このバスを買い替えることを検討している。
同校は国立なので、授業料・寮の入居費用は無料。国からの予算で運営しているが、その費用のほとんどは食費でなくなり、屋根などの校舎の修繕やバスの購入に充てる余裕がない。そこで、石田さんがこの計画を考えた。
■親からの「大学進学しないで」
石田さんは1989年大阪生まれ。1歳3カ月のときに、眼球にガンが見つかり、転移を防ぐため、摘出した。2歳から中学3年までは、実家から和歌山の盲学校に通った。高校は、東京に単身上京し、筑波大学付属視覚特別支援学校に入学した。
今回の企画では、石田さんは「障がい者の可能性を広げたい」と意気込むが、そのような思いを持つ背景には、彼女自身のこれまでの生き方が深く関係している。石田さんは、これまで、家族からの反対に遭いながらも、進学してきた。
初めての壁は、高校進学時。親からは実家から通える、和歌山の盲学校を勧められたが、石田さんは東京の支援学校を選んだ。その理由は、「外の世界を知りたかったから」。石田さんは、小学3年生まで2人だけでクラスを過ごした。4年生からは1人になり、先生と1対1の授業が続いた。
親が勧めた盲学校でも、学年に1人しか生徒がいなかった。石田さんは、「授業が遅れているのか、進んでいるのかも分からなかった」と言う。筑波大学付属視覚特別支援学校は一学年16人定員。石田さんの思いを聞いた先生も親を説得してくれた。
次の壁は大学進学時に訪れた。受験生になったとき、親に進路の話をすると、「あんたは目が見えないから、将来ろくな仕事には就けない。大学に行って何になる」と突き放された。このときに、石田さんは、「17年育ててきて、うちの親は、私の可能性を信じていなかったと知った」と告白する。
しかし、そこで諦めないのが彼女。現役では不合格になったが、京都の盲学校で浪人生活を送り、猛勉強の末、見事ICUに合格した。浪人時代は、朝4時に起きて、深夜まで勉強を続けた。
浪人時代も親からの応援は受けていなかったが、教科書を点訳してくれるボランティアなど支えてくれる人を思うと休んでいられなかったという。
大学では、奨学金で授業料を払い、食費や生活費は障害者年金でまかなった。彼女はこのような経験を経ているので、フィリピンで目にした、障がいがある子への見方には、黙っていられなかった。
石田さんは去年、障がい者として初めて外務省のインターン生になった。フィリピンに駐在して、障がい者教育の調査も行った。
今回の企画では、来年2月までに800万円をクラウドファンディングで集めている。その理由は2つあるという。一つは、フィリピンの視覚障がい者の状況を発信する機会がほしかったから、そして、もう一つは、視覚障がいがあっても、途上国でプロジェクトを成し遂げたということを広めたいから。
石田さんは、「私よりも能力がある先輩で、視覚障がいだからという理由で諦めた人を何人も知っている。このプロジェクトを成功させて、障がい者への見方を変えたい」と力を込めた。
・石田さんがクラウドファンディングで挑戦中のプロジェクトはこちら
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