伊藤忠青山アートスクエアでこのほど、書を現代アートの側面から見た展覧会を開いている。新進気鋭の8人の書家の作品と世界的な書家・井上有一氏の作品を展示している。書は現代アート足り得るのか、この命題に挑んだ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同展覧会の名称は、「書の未来展」。会場となる伊藤忠青山アートスクエアは、伊藤忠商事が社会貢献活動の一環として運営しているギャラリースペース。アート展を通して、「次世代育成」や「地域貢献」を行っている。
今回作品を出展する書道家は書家の山本尚志氏が選んだ。山本氏は25年間、「書は現代アート足り得るのか」という命題を持ち、活動してきた。
国内における現代アートと書の歴史は60年前に遡る。1957年に世界的書家である井上氏がサンパウロビエンナーレで「愚徹」を発表し、現代芸術の文脈で書を表現物として開花させた。
しかし、井上氏に続く書家は現れなかった。山本氏は、「今日に至るまで、現代アートの世界から書家が注目されたことは記憶にない」と言う。
現代アートと書と伝統書では、作品をつくる工程が大きく異なる。現代アートはバリエーションとして作品を数多くつくるが、伝統書は最も出来が良い一つの作品を「清書」として選ぶ。清書した中で、最も出来が良い一つの作品を選ぶ。作品のそもそものつくり方でもそうだ。書は古典の模倣や、師の教えに習って書く。そのため、現代アートの作品で見られるような一個人の感性は制約される。
山本氏は、世界的なアートコレクターであり、かつ現代アートの出版を手掛ける大和プレスの協力の元、書を現代アートに出来る書家を全国から7人選んだ。さらに自身を含めて8人の作品を展示した。「井上有一も書いたことがないような作品が並んだ。これは現代アート書道の誕生だ」と強調する。そのように自信を込めて言い切れるのは、山本氏がかつて井上氏のカタログレゾネの仕事に従事しており、すべての作品を見てきたからだろう。
■「行の支配」から脱却
会期初日の17日には、山本氏とハシグチリンタロウ氏が会場内で、ライブパフォーマンスを行った。山本氏は「とうふ」を、ハシグチ氏は「鳴サイクロン」を書いた。
とうふのコンセプトについて、山本氏は「豆腐は可変性だと伝えている。歪な形をした絵がだんだん豆腐に見えてくる」と話す。豆腐というと、四角形の形をイメージしがちだが、箸ですくったり、手で持ったりすると形が崩れる。こうしたことから、「可変性」とした。
山本氏の書は、行の支配を受けないという。まず、四角い図を描き、その図の中に言葉を書いていく。「好きなところに書くことができる」と言う。
ハシグチ氏は筆を使わずに手に墨をつけて一気に書くスタイル。耳にはイヤホンをつけ、大音量でロックミュージックを聞き、テンションを上げる。
作品は、「鳴」という字の周りに、「engine cyclone(エンジンサイクロン)」と書いていく。力強さを感じる作品で、「しがらみや弱弱しさを吹き飛ばしたい」と思いを話す。
■モールス符号を書に
宮村弦氏は、モールス符号を書にした。宮村氏は、「モールス符号を知らない人には、ただの記号に見える。でもそれは、日本語も英語も同じこと。お互いが約束事を知らないと言語でコミュニケ―ションを取ることはできない」と言う。
作品のつくり方も独特だ。紙にマスキングテープを貼り、その上から墨を塗っていき、直線をつくる。塗料の量と、塗る筆の圧力で自然と決まる。宮村氏は、「東洋のアートは西洋と違い、自然が人よりも上に位置している。自然な出来上がりを重視した」と話す。
書の未来展は、1月25日まで。会期中は無休。山本氏は、「作品には一つひとつコンセプトがある。作品を見ながら、なぜこのように書いたのか考えなら見てもらえれば」と話す。8人の書家の新たな挑戦を是非ご高覧頂きたい。
【書の未来展】
主催:Yumiko Chiba Associates
共催:伊藤忠商事株式会社
特別協力:新宿髙島屋美術画廊
会期:2017年1月17日(火)~1月25日(水)
開催時間:11:00~19:00 会期中無休
会場:伊藤忠青山アートスクエア(東京都港区北青山2丁目3-1シーアイプラザB1F)
入場料:無料
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