環境NGO350.org Japanは2月、「エシカル金融」に関するシンポジウムを行った。気候変動に影響を及ぼす石炭・石油などの化石燃料産業への「ダイベストメント(投資撤退)」の意義について話し合った。当日の模様を報告する。(松尾 沙織)
近年世界でも、社会や未来に良いとされるものや、サービスに個人資産を投じる「エシカル消費」が広まりつつある。これは金融機関の資産運用方針としても考慮されつつあり、その一例となる「ダイベストメント(投資撤退)」運動も活発化してきている。
現時点で、世界にある5兆ドル以上を資産として保有する688もの組織が、ダイベストメントをすることを表明。2017年1月にはドイツの銀行グループが石炭採掘・石炭火力発電からのダイベストメントを発表するなど各国で様々な取り組みが始まっている。
日本では環境団体 350.org Japan が、気候変動に影響を及ぼしている石炭・石油などの化石燃料産業へ投融資している銀行に、ダイベストメントをするよう求めている。
また一方で、これらの銀行から個人の預金を引きあげることでダイベストメントをし、その資金を持続可能な社会の実現と発展に貢献している銀行へと移すことも消費者に勧めている。
今回のイベントでは、エシカル消費やダイベストメントについて学び、どうアクションしていくかを考える会として、350.org 事務局長のメイ・ブーヴィ氏、オーガニックコットン・ブランド Avanti(アバンティ)代表取締役の渡邊智惠子氏、一般社団法人エシカル協会代表の末吉里花氏、鎌倉投信ファンド・マネージャーの新井和宏氏、文化人類学者・環境活動家であり、ナマケモノクラブ発起人である辻信一氏をゲストに迎え、トークセッションを行った。
「近年日本では、エシカル消費が広まってきています。日本の消費者庁でも、倫理的消費研究会が立ち上がりました。これは、エシカルコンシューマリズムが根付いている欧米から始まったものです。さらに、消費者から金融機関に対して、エシカルな資産運用をするよう働きかける運動が、世界的に盛り上がりを見せてきています」
「その一例が、ダイベストメント。ものを買うときにお金がどこへ流れていくかに意識を向けていくということです。本フォーラムでは、ゲストの皆さん、この運動の中心人物となる350.org 事務局長のメイ・ブーヴィとともに、これまでの活動経緯やこれからの展望、エシカルな金融の重要性について語ってもらい、皆さんと一緒に気候変動について考えていきたいと思います」
■心ある生産、心ある消費を
エシカルは英語で直訳すると 「倫理的な」 という意味を持つ。法的な縛りはなくても、多くの人が良心から発生した、社会的な規範のことを 「エシカル」と呼ぶ。
一般的な定義としては、人・社会・地球環境・地域に思いやりのある、配慮されたお金の使い方や生き方のことを指す。フェアトレード、オーガニックコットン、地産地消、障がい者の方がつくったもの、伝統工芸、そして被災した土地のものを買う応援消費や、動物に配慮したものを選ぶ 動物福祉などもそれに当たる。
なかには、認証マークやラベルを参照して探し、選ぶことができるものもある。エシカル消費と言っても、必ずしもお金を使わなければできないことだけではなく、新たな形につくりかえて使い続けることや、人から人へ渡していくことも含む。
一般社団法人エシカル協会では、消費者には、誰がどこでどうやってつくっているかがわかりづらい現状がある。末吉氏は、何か大きなことをしなくても、自分の暮らしの中で環境破壊、労働搾取、児童労働と言った、世界の問題を解決する一旦を担えると説明。エシカル消費を積極的に勧めている。
■権利から責任へ
「皆さんに共通するのは、消費者であるということ。エシカル消費によって、誰もが身近なところから社会問題に関わることができます。私は、四方良しに 未来をつけて、『五方良し』と言っています。未来に思いを馳せながら行動を選んでいく。私たち日本人が、昔から大切にしてきた四方良し、思いやり、お互いさま、足るを知る、もったいない、これらはまさしくエシカルな考え方に繋がっていると思います」と強調した。
メイ・ブーヴィ氏は、350.orgの団体発足の歴史や、世界で起きている気候変動の現状を説明。団体の母体がある米国では、一部の人たちがお金の使い方を変えていき、いずれそれが雪だるま式に大きな影響を持っていくようになったと話す。
温暖化が進み、現在地球の平均気温は1900年に比べると1度上昇してしまっている。人口の大半が海岸近くに集中しているため、温暖化により海面上昇し、人の家が追われてしまう。気候変動は、人権問題にまで発展している。
石炭を燃やすことで、子どもを中心に健康被害が起きていると話す。多くの企業が政府に干渉し汚職が起きたり、紛争にも繋がってしまったりしている。こういったことがあっても、今もなお石油・石炭が使われる理由は、石油・石炭が安い、雇用を創出している、石炭はクリーンだ、他に代替案がないという嘘を、国民が鵜呑みにしていることだと説明。
■日本は世界最大クラスの石炭投資国に
石炭はエネルギーの形態として最も環境を汚染し、健康被害も大きい。インドネシアにある二つの発電所は、日本人の税金で建てられている。彼らに選択肢は与えられなかった。その横には学校があり、農業をしている人々もいる。そこでは、産業である海老の養殖もできない。現地の人々は、どうやっても止めたいと泣きながら話すという。
「トランプ政権も石炭に資金調達し、気候変動に注意を払っていません。日本にはまだチャンスがあります。銀行口座に預金がなくても、自分のお金をどこに置くのかは選択できます。皆さんの資金をどこに投資するのか、ぜひ選択してください」と訴えた。
一部の科学者によれば、未来の子どもたちのために、石炭・石油の5分の4は埋蔵したままにしておかなければならないと言われている。個人としてできることは、まずイベントに足を運び、世界各地でいかに気候変動が深刻になっているか、そこに対して具体的に行動出来るかを考えること。さらには、エネルギー源を変えていくことが解決に繋がると話す。
次に、渡邊氏と新井氏を交えて5人のトークセッションが行われた。
辻氏:「新井さん、エシカル金融についてどうでしょう?」
新井氏:「皆さん何らかの形で金融に関わっていますが、何に使われているか関心をもっている人はほとんどおらず、金利、利益にこだわる人が多いのではないでしょうか。先程出てきた企業に加担していることになってしまうので、何よりも大切なのは、自分のお金に関心を持つこと。皆さんが働いて得たお金は、あなた自身の命とも言えます。そう考えたらもっと関心を持てるはず」
一般的な投資信託では、投資先を開示することはタブーとされているが、個人向けの投資信託である鎌倉投信では、投資先の企業情報や投資をやめた理由などすべてを開示している。耕作放棄地、障がい者雇用、ニート・フリーターの雇用、環境問題の解決などの団体が投資先に入る。
世界最大の機関投資家であり、日本の公的年金を運用する、年金積立金管理運用独立法人「GPIF」も、エシカル投資を研究し、国連責任投資原則(PRI)に署名するなど、具体的な動きも出てきている。ESG投資や社会的責任投資などの関心が高まってきてはいるが、まだまだ開示が遅れている。消費者が透明性を求めることが効果的だと新井氏は話した。
辻氏:「開示を遅らせている状況を私たちが許し、そういう仕組みに参加してしまっているということですね。現代版のボイコットであるダイベストメントに、僕は大きな希望を見ますね。そして、やれることの一つとして、渡邊さんのように企業を立ち上げることもできると思います。若い人たちに、どうやって勇気を持つかコメントください」
■綺麗な地球を子どもたちに
渡邊氏:「1990年にオーガニックコットンと出会い、周りの人が知らないなか日本に持ってきて、何も知らないところから今の会社を始めました。同じものをやるのであれば、カッコ良いこととか、誰かに後ろ指さされないことをやろう。それが信念になりました。未来の子どもたちのためにやるしかないって思えたこともありますね」
通常のコットンは、環境破壊があまりにも大きい。それとともに、農薬を使う農家さんの年間およそ2万人が死亡し、300万人の人が健康被害に苦しんでいる。まず何が起きているのだろうって知ることが大切だと末吉氏は付け加えた。
辻氏:「先進国でも民主主義が崩壊しつつあります。今日話していることが密接に関わっている。一部の権力者が仕切る世の中から、私たちの手元に戻していく必要があります。責任を自覚しながら、できることをやっていく他ないですよね。最後に皆さんから一言いただけますか」
新井氏:「意志あるお金は世界を変える。投資でも寄付でも、自分のお金は何に使えば役に立つか?を皆さん考えてみてください。そこに意志がなければ、残念ながら社会は違う方向へ行ってしまうのが、今の世の中。皆さんの力が集まらないと社会は変わらないのです。もしどこにお金を使って良いかわからなかったら、鎌倉投信に投資ください」
渡邊氏:「首都圏に人が3,000万人もいる。そして自分が使っている電力が、はるか遠く福島から運ばれている。これは本当におかしなこと。自分たちでコントロールできないところ、見えないところで私たちの衣食住がつくられている。
私たちの本社は、2018年3月に長野県小諸に移転しますが、そこに藁を使った土塀のストローベールハウスをつくりました。全て土に還るものでつくっています。太陽光や温水器などを使って、自分たちで電力をつくり、畑で農作物をつくり、自分たちで消費する暮らしにしていきます。
お金も自分たちで稼いで、自分たちで愛あるお金に変えていく。そういう人が増えていったら良いなと思います」
末吉氏:「私たちは、なかなかエシカルな視点を教わるところがありませんよね。そこで、私たち団体は、義務教育の中にエシカルな考え方を入れることを目標に動いています。
2020年で大幅に中学高校の授業が変わり、公共という授業ができます。自分の使ったお金がどういう風に使われるのかを小さい頃に学んでいけば、時間はかかるけれど、きっと大きな影響へとなっていくのではないかと思っています。
2012年に消費者教育推進法に施行され、第1条には、消費者教育を受ける権利があるという風に定められています。それを知ることができる場を、もっと連携を組みながら、たくさんつくって広げていけたらと思っていますので、皆さんにもお力を貸していただけたらと思います。
また、『はじめてのエシカル』(山川出版社)という本を出しているので、読んでみていただけると嬉しいです」
辻氏は、近代産業の父である渋沢栄一さんの言葉にある様に、虚業ではなく未来の子ども達につながることを仕事にする「実業家」になるべきだと主張した。
メイ氏:「エネルギーのシステムは中央集権的ですが、分散化されたローカルな自然エネルギーに大きく移行していくことになっていくと思います。人々がローカルレベルでコントロールできるようなものにしていくことが大切です。
そもそも、私が気候変動の問題に情熱を傾ける理由になったのは、不平等・健康被害・貧困・民主主義の強化に密接に関連しているから。そういった意味でも、ローカル化というソリューションが必要になってくると思います。ぜひ皆さんも、『My Bank My Future キャンペーン』に参加し、地元にある銀行にお金を投資してください」
メイ氏は、地元密着型プロジェクトに参加している銀行に預けることが、そういった、ローカリゼーションにも繋がっていくと力を込めた。
まずは、それぞれが個々にできることについてアクションすること。そして最後に、同じ意志の者同士が協力し、ローカルに活動していくことで、大きなインパクトを生み出していくことができるのだと締めくくった。
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