昨年10月、原宿の神宮前1丁目にある東郷神社で、まちぐるみでエシカルを推進していく「エシカルタウン原宿」宣言と、「一般社団法人エシカルタウン原宿」設立の記者発表が行われた。「エシカルタウン原宿」は、リサイクル素材の利用や環境負荷の少ない体制、国内ブランドの活性化を、原宿から発信していくという壮大なプロジェクト。その立役者である豪華なゲストが、今回の活動への思いを熱く語った。(松尾 沙織)
まずは、日本を代表する ニットのアパレルメーカー ジム 及び 原宿を代表する 老舗アパレル小売業 ハイパーハイパー の 両社の代表取締役会長 八木原 保氏。
八木原氏は、1995年、当時としてはまだ珍しい環境に配慮された商品を扱うセレクトショップ「GIVE LIFE(地球に与えられた命を大切に守っていくの意)」を裏原宿にオープン。
「オーガニックという言葉があまり世の中に知られていない時代、環境問題に非常に関心があったことから、オーガニックコットンやオーガニックリネン、ウールを積極的に開発し商品化して世の中に出してきました。私は働く場も暮らす場も原宿に置き、ファッションを通して、どうやって環境や地域に貢献できるかをずっと考えてきました。GIVE LIFEショップを拠点に、さらにここ渋谷区から環境に優しいとして発信したいと思っています」
21年間ブランドを守り続けてきた八木原氏は、今回この宣言とともにショップをリニューアルオープン。俳優の伊勢谷 友介氏率いるREBIRTH PROJECTが内装プロデュースに入り、新規一転、再スタートを切った。
次に登場したのはREBIRTH PROJECT共同代表の龜石 太夏匡氏。
「人類が地球に生き残るにはどうしたら良いかという理念のもと、2009年に伊勢谷友介とともにREBIRTH PROJECTを立ち上げました。そしてさまざまな企業様と一緒に、エシカル素材や再生素材、廃材、環境に負荷をかけない素材を使用したものづくりを一貫して行ってきました。今回株式会社ジムさん、株式会社ハイパーハイパーさんとお互いの理念で共感し、新たに志を立てて、”GIVE LIFE REBIRTH PROJECT”をスタートします」
時間とともに進化していく店づくりをしていきたいと話す龜石氏。今までGIVE LIFEショップで使われていた什器や内装素材を一旦壊し、そこで出た廃材からお店をデザインしている。内装にも思いやテーマが込められている。
「限られたものをどう継続して未来につなげていくか。そのヒントの一つが、エシカルだと我々は考えています。そういったものをちゃんと商品やサービスに乗せて、ビジネスで表現していくことが重要。そういった思いも込めて、一般社団法人エシカルタウン原宿を立ち上げました。これが私たちの持っている概念を可視化するものとなり、そして活動の原動力としていきたい。結果希望の持てる未来へとつなげていきたいと思っています」
ハイパーハイパー代表取締役社長 早川 千秋氏は、まちの横のつながりをつくり、まち全体で協力していきたいと語る。
「オリンピックに向けて原宿は世界から注目されていますが、エコやリサイクルなど、環境面についてはまだまだやるべきことがあると思っています。REBIRTH PROJECTさんとお互いのシナジー効果を発揮して、地球の未来を考えることを原宿からたくさんやっていきたいですね。近隣にもオーガニックフードを扱う飲食店や、エシカルに取り組んでいるアパレルショップもありますので、こういった方々にもエシカルタウン原宿の仲間になっていただいて、我々が横櫛を指す存在になれればと思っています」
原宿はストリートファッション発祥の地。「ストリートエシカル」という、新しいストリートカルチャーを牽引していくお店にしたいと早川氏は話す。衣食住問わずエシカルな活動をしている企業や店舗に声をかけ、盛り上げていく予定。
また、日本人にはもちろんインバウンド対応として観光客に近隣のショップを紹介しおもてなしをする、”レセプション機能”をお店に設ける予定もある。早速そのレセプション機能の一環として、REBIRTH PROJECTがツイードラン東京2016に参加した。
この他にも記者発表では、渋谷区の長谷部区長や経済産業省の間宮氏、原宿表参道欅会理事長の松井氏が「エシカルタウン原宿」への期待を語った。
「私はグリーンバードというゴミ拾いの団体をやっていたのですが、地域のコミュニティをつくっていく活動の中で、環境のジャンルを扱うことも多く、エシカルについても感じるものがありましたね。REBIRTH PROJECTも以前から注目していて、かっこいいなと思っていました。そのREBIRTH PROJECTが原宿に来るということは、区長としても住人としても、嬉しいことだと思っています。
エシカルという価値観をこのまちから、このまちらしく発信していってほしいですね。商品を手に取る、買うといったことが、このプロジェクトを応援することになると思います。商品を着て自慢してもらって広まっていく。そういったポジティブなサイクルができてくれば良いなと思っていますし、原宿には、そういった可能性が大いにあります。区としては邪魔をせず、あたたかく見守っていきたいと思っています」
「エシカルは日本に少しずつ定着してきていますが、まだまだ浸透しているとは言い難い。とても大事な概念なんですけれども、なかなか長続きしないのが現状です。エシカルを持続可能なものにするためには、エシカルの概念に沿っていること、それを買ったお客様が満足していること、ビジネスとして成り立っていること。この三つが必要だと考えています。
今回のコンセプトは、持続可能なエシカルを実現するモデルになるのではと期待しています。また、原宿は外国人観光客が多いまちですが、外から来るお客様が喜ぶのはもちろん、ここにおられる方もハッピーであることが、インバウンドの成功にもつながっていくはずです。
エシカルタウン原宿に来る人もハッピー、そこで活動する人もハッピー、そこに関わっている人も、エシカルという概念を通してハッピー。この三拍子揃ったエシカルタウン。この活動が、原宿から日本、世界に広まっていくことを期待しています」
「エシカルについて問題になるのが、何に対して、どういう立場で倫理的なのか、道徳的なのかということ。私は人間として、人間がどこから生まれてきたのかということに、もっとエシカルでありたいと思っています。
地球、自然の中から生まれてきた人間が、文明を発展させ大都市をつくりました。しかし私たちの心の奥底には、自然から生まれてきたという気持ちがある。これをもっと認識してそこに忠実に生きることが、これから大事なのだと思います。
これからも原宿を自然と調和していくことを伝えていく街にしていきたいと思っていますし、今回の活動は、産業と結びつける非常に大切なものだと思っています」
「私の3歳と0歳の娘たちが、物心ついて何か買いたいと思ったときに、GIVE LIFEってお店があるよって教えてあげられるのは、父親として豊かだし、ありがたいことだなと思います。
今渋谷区観光協会では、ダイバーシティを掲げて活動していますが、オーガニックにこだわったショップはなかなか見つけにくかった。こういったお店が大きく育ってくれると、非常に大切な観光資源になるのではないかなと思っています。これがトレンドではなく、カルチャーになっていくことを願っています」
最後に、今回の主催者である株式会社大正紡 取締役営業本部長の近藤 健一氏が、これまで海外で見てきた状況をまじえ、原宿、そして日本からできることを熱く語った。
「コットンの緑色や茶色は農薬がいらず、自然のままで強い。人間が薬品で漂白して白くいじめたために、非常にひ弱になってしまったと全国コットンサミットで聞いてから、私は自然のままのものをやろうと思いました。自然のまま使うのも、エシカルなのではないかと思います」
紡績工場や染色工場を施工する技師だった近藤氏は、仕事でウガンダに行った際、水がなく何万人も死んでしまっている現状を知り、井戸をプレゼントするプロジェクトを立ち上げるなど、途上国の問題にも15年間関わり続けてきた。その一環で、オーガニックコットンの畑をつくり、現地の雇用創出や地域環境を守る活動もしている。
「途上国は、親が貧しいばかりに子どもたちを少年兵として売ってしまうんですね。そういった現状を見て、親にオーガニックコットンを教え、それを売って生計を立てられるようにしました。その結果、学校に行けるようになった子どもたちが増えていきました。
今まで35ヶ国で技術指導をしてきましたが、クリエイティブに創造できる子どもがいる国は、強くなっていくように思います。子どもをいじめて教育しない国では、1,000円のために人を殺したり、ものを取ったりする。貧しいから兄弟を養うためにそういうことをしてしまうんです。
そういった意味でも、オーガニックは児童労働させないからすごい。子どもたちを救うことが、結果国を救うことにつながります。
発展途上国は技術がないけれど、我々日本人は教育を受けて、技術を持っています。教育を受けられない子どもたちのためにも、日本から地球環境を良くしていかないと。簡単にやれない国もありますが、それができるのが日本なんです。やれない国のために私たちがやらないといけません。
サッチャーさんもケネディ大統領も、”ザ・サードウェイ(第三の道)”って言っていました。民主党でも共和党でもない、本当の平和の道がある。それがエシカルなんだと思います」
トレーザビリティ(明確な流通)、サステナビリティ(持続可能性)、エンバイロメント(豊かな環境)に加え、メイドインジャパンの技術とドラマチックなストーリーに満ちた日本。この5つを世界に発信する第一歩として、原宿のまちは新たなスタートを切る。
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