「震災で被災して、家も流されたけど、おのくんのおかげで縁がなかった若い人とも知り合いになれた。この子がここに来て、人生が180度変わった」――。手作り人形「おのくん」の生みの親である武田文子さんは電話越しにそう話してくれた。そして、「生きていれば、どんな災難でも乗り越えられる」と続けた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

おのくんの作り手たち、左から2番目が武田さん

武田さんは宮城県東松島市小野駅前の仮設住宅で暮らしており、同地区の自治会長を務める。現在、仮設住宅には50人ほどが住んでいる。高台移転が進んでおり、この仮設住宅の閉鎖も近いという。

駅を降りるとすぐそばに仮設住宅がある。「お」のマークが目印

一般的に仮設住宅から出ることは復興が進んでいることを裏付けるが、この小野駅前の仮設住宅がなくなることを惜しむ声が相次いでいる。

その理由は、ここが「おのくん」が生まれた場所だからだ。

おのくんとは、1足の靴下からなるソックスモンキー。靴下の中に綿を入れ、丸い胴体から手足が伸びた人形だ。靴下は全国から寄付されてきて、一個ずつ色も大きさも異なる。

愛嬌があるこの人形は、大きさに関わらず一個1000円で販売しており、これまでに8万個を売り上げたヒット商品だ。仮設住宅に行けば手に入れられるが、注文だと最低半年待ち。

購入者はおのくんの「里親」と名乗り、SNSで撮影した自慢のおのくんを投稿する。多くの里親グループができている。

この人形をつくっているのが、武田さんを始めとするこの仮設住宅で暮らすお母さんたち。20人ほどおり、仮設住宅で集まりながら、おのくんを作っている。売り上げは経費などをのぞいた金額が作り手に入る。

おのくんはすべて手作りなので、温かみがある

■おのくんを絵本に

おのくんを作ったきっかけは、ソックスモンキーが送られてきたからだ。ある日、仮設住宅にソックスモンキーが送られてきて、それを見た武田さんらが自分たちでも作ってみようと思ったという。「当時はやることがなくて暇を持て余していた。何かをつくって気を紛らわせたかった」と武田さんは振り返る。

毎日、仮設住宅でおのくんが増えていくと、この地を訪れた人から、販売してほしいという声が出てきた。こうして、おのくんの販売が始まった。

仮設住宅に行けばその場でおのくんを購入できるので、多くの人が足を運んだ。武田さんは、「2万人には会った」と言う。「里帰り」として、何度も訪ねてくる人も少なくない。1年に1回、里親たちが集まる「おのくんの誕生祭」も今年で4回目を迎える。

おのくん誕生祭では全国から里親が駆けつける

武田さんは東日本大震災の津波被害を受け、家族は無事だったが家は流された。震災から6年が過ぎ、「残ったのは身一つだけだったけど、生きていればどんな災難でも乗り越えていけるものだと思っている」と前を向く。

おのくんを作ったことで人生が180度変わったという武田さんは、おのくんとの思い出を絵本にした。現在、クラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」で制作資金100万円を集めている。

武田さんは、「おのくんを通して、震災のことをいろいろな人たちに伝え続けていきたい」と話す。

・クラウドファンディングのプロジェクトはこちら

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