市民がまちの課題について考え合う「塩尻未来会議」。長野県中部に位置する塩尻市に暮らす住民や、塩尻にゆかりのある人などが、同市の未来について対話する。このたび、子育てしたくなる街をテーマに実施された。(松尾 沙織)

塩尻市のこれからを考える塩尻未来会議

平成28年度、第4回目となる今回のテーマは、「子どもが生き生きしているまちはいいまちだ。子育てしたくなる街をみんなでつくろう!」。

ゲストは、NPO法人「ぱぱとままになるまえに」の理事であり、古瀬ワークショップデザイン事務所代表である古瀬正也 氏、ちび商人(あきんど)代表・ラメゾングルマンディーズオーナーシェフの友森隆司 氏と野菜ソムリエの中島裕子氏、しおじり子育てネットの会。

ゲストファシリテーターは、シビックプライド研究会の紫牟田 伸子 氏、NPO法人シブヤ大学学長である左京 泰明 氏。メインファシリテーターは、塩尻市役所企画課代表の山田 崇氏が務めた。

今回のイベントには、総勢40名を超える参加者が集まった。参加者は、平日の午前中ということもあり、主婦や女性がほとんど。6割が塩尻市に住む人、3割が長野県民、1割が県外の人で構成されていた。

まずは参加者でグループごとに「小学校の頃の夢」「出身地」「所属」「氏名」「今週末の予定」を発表し、アイスブレイク。自己紹介をしたあとは、塩尻市が目指す 「子どもが生き生きしているまち・子育てしたくなるまちづくり」 に積極的に取り組んでいるゲスト3名のプレゼンテーションが行われた。

トップバッターは、しおじり子育てネットの会。

しおじり子育てネットの会の3人

しおじり子育てネットの会は、塩尻市に暮らす母親たちのための情報発信サイト「しおじりまぁるい子育てネット」を運営している。サイトには、主に広報しおじりや子どもに関係する施設情報など、塩尻市が発信している公的な情報が掲載されている。

しおじりまぁるい子育てネットのサイト。子どもの生年月日を登録すると、必要な時期に検診情報を届けてくれる機能も。サイトは、子育てサロン「子春日和」で出会った3人組の女性が運営に関わっている

プレゼン後のグループワークでは、「しおじりまぁるい子育てネット」のページ内にある「しおっこネット」のページに掲載してほしい情報、塩尻にあったら良いと思う場所やものについてディスカッションを行った。

ここでは、子どもの福祉施設や子ども食堂といった施設をはじめ、まちで働く人と触れ合える学校、生産者さんと触れ合える食育の場、塩尻の良さを見つけられる体験、地域を超えて異年齢の子どもと遊べるイベントなど、子どもたちが豊かに学ぶことができる場所へのアイディアがたくさん登場し、大いに盛り上がった。

ディスカッションの様子

2組目は、ちび商人(あきんど)代表であり、ラメゾングルマンディーズ オーナーシェフの友森隆司 氏と、野菜ソムリエの中島裕子氏。

友森隆司氏

友森氏は、塩尻の多品目で高品質な野菜に魅了され、市内にフランス料理店「ラメゾングルマンディーズ」をオープンした。現在は、ここのオーナーシェフとして働いている。地元で育った友森シェフ厳選の塩尻野菜を使い、色鮮やかでアーティスティックに盛り付けられた料理が食べられるということで、地元の人や観光客にも大人気のお店になっている。

友森氏は、オーナーシェフの傍ら、ちび商人(あきんど)の代表としても活動している。こちらは、2014年に野菜ソムリエ中島裕子氏とともに発足した団体。2人は、塩尻市の農家さんから出る廃棄野菜が多い現状を受け、廃棄野菜を地域内で流通させる仕組みとして、マルシェの開催やイベント出店を行っている。

農家さんから直接仕入れた野菜をコンテナに入れ、お店の軒先で無人販売していたり、木曽平沢街並み保存会協力のもと「青空市場」を開催している

ちび商人の他にも、友森氏は、子育てをする母親たちに向けて食育レシピを公開したり、月に一回料理教室を開催したり、母親たちへの食育に熱心に取り組んでいる。

「子どもたちだけでなく、お母さんたちにこそ食育が必要なのではないかと感じています」と友森氏。料理教室は、母親たちの世代間交流の場にもなっているそうだ

農林中金総合研究所が発表しているレポートによれば、長野県は全国的にみても、給食に地場産野菜を採用している学校が比較的多い県でもある。

今後は、母親たちが収穫した野菜を、直接学校に届けるルートづくりに取り組んだり、地場産野菜を取り扱う学校を増やしたりして、塩尻市を地場産野菜の採用率ナンバーワンにしていきたいと友森氏は話す。また、子どもを連れたまま仕事ができる場づくりや、雇用創出にも取り組んでいきたいと熱く語った。

3人目は、古瀬正也氏。

古瀬正也氏

古瀬氏は、大学生時代に自転車で日本全国を巡りながら、ワールドカフェ形式のワークショップを多数開催した経験をもっている。古瀬氏は、それらで培った経験を活かした場づくりをしている「NPO法人 ぱぱとままになるまえに」の活動について説明した。

通称「ぱぱまま」は、「ぱぱとままになることが、自然と人生の選択肢として考えられる社会」というビジョンを掲げ、「知る・考える・向き合う」というコンセプトのもと、産前産後のことや、子育てについての情報発信、イベント開催、ツアー開催と三本柱で活動している。

最近では、民間企業や行政、教育機関と一緒にイベントを開催することも
(写真出展:http://crowdmonstar.com/project/_611/)

「ぱぱまま」は、代表である西出博美氏の友人のトークイベントを企画したことから、2011年に活動をスタートした。2014年にはNPO法人となり、今年で6年目となる。

主には、母親たちの出産体験談を聞く会や、女医さんに身体のことを聞く勉強会など、これから母親父親になる人が、勇気をもらえるようなイベントを企画している。またツアーでは、助産院に見学に行くツアーを開催、産み方の選択肢を増やす活動もしている。

「ぱぱまま」のイベントは、塩尻でも平成27年度に5回開催されている。古瀬氏が塩尻でイベントを開催する中で実感したのは、地方の若い人々の集まりが少ないこと。もっともっと若い人々が、日頃の悩みや思いを共有できる場をつくっていきたいと語った。

古瀬氏のプレゼンテーションのあとは、「こんな活動をやってみたい!」「こんなことがあったら塩尻がもっと良くなるんじゃないか?」というアイディアを出し合い、そこからピックアップしたテーマごとにそれぞれグループに分かれ、ディスカッションを行った。

テーマには、「結婚・妊娠・子育ての悩みが気軽に聞けるまちにしたい」「さまざまな人生経験を他の親御さんにシェアする場がほしい」「母親たちの持っている経験や情報をお金にできる仕組みがほしい」「農家さんと給食の場を繋げたい」などが議題に上がり、それぞれたくさんのアイディアが集まった。

子どもが保育園に入るまえに働きたいと思っている母親たちのための、託児つき派遣サービスや、人手不足の企業と働きたい母親をマッチングするサービスなど、働きたい母親を支援するものを求める声もあった。

世田谷区で導入されている、妊娠前の女性をマンツーマンでサポートするフィンランドの「ネウボラ」の仕組みや新潟県のNPO「はっぴぃmamaはうす」のような、気軽に子育ての相談ができる行政窓口のアイディアも出ていた。

まちの課題を自分ごとにし、たくさんのアイディアを出し合った

今回のイベントに参加して感じたことは、子どもたちがいきいき暮らすためにはまず、母親や父親の働く場や、学ぶ場を充実させることが求められているということ。昨今では、大人になるにつれて、幸福度が低くなっているという調査結果もある。

子どもたちは、母親や父親の幸せな姿を見て、健やかに育っていくもの。母親や父親が本質的に幸せに暮らすために必要な仕組みや場所をつくることが、結果として、子どもがいきいきと暮らせるまちにつながるのかもしれない。

課題解決のためのプロジェクトによって生まれたスペースやコミュニティが、まちの素敵な観光資源となっているところもあるが、まちにある課題を、楽しみながら解決できることが最良の道と言える。

塩尻市は子育て世代が多いところ。エネルギーを持つ母親たちが、うまくまちづくりに参加できる仕組みができれば、母親たちも幸せを実現できる上に、まちが活性していくことができるだろう。

今後、塩尻未来会議を通じて、新しいプロジェクトが生まれたり、行政で新しい仕組みが誕生していくことを期待してやまない。次回の「塩尻未来会議」の開催日時などの詳細情報。facebookページはこちら

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