東日本大震災が起きた3月11日を風化させないために、伊藤忠商事本社横に位置する伊藤忠青山アートスクエアで1日限定の岩手県陸前高田市物産展と復興支援の意味合いを込めた障がい者アート展が行われた。物産展には、陸前高田市役所の若手職員の姿が。東北では追悼式が開かれる日だが、あえて東京に来た。震災から6年が経過し、関心が徐々に薄れていくなかで、若者は何を呼びかけたのか。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
土曜日の昼過ぎ、青山通りには老若男女の姿があった。ブースには、若い陸前高田市役所職員と伊藤忠グループのボランティア社員が立った。行き交う人に、「今日で震災から6年を迎えます。陸前高田の物産展です」と声をかけると、一人二人と足を止める姿が印象的だった。
ブースで販売しているのは、生ワカメやなめこ汁、気仙味噌などの海産物や陸前高田産のトマトなどの野菜、そして、ブランド米の「たかたのゆめ」。購入者には、その場でできたての香ばしさが漂う、たかたのゆめで作ったポン菓子をプレゼントした。
陸前高田市農林水産部農林課の大和田智広・農政係長は、東日本大震災から6年が経過したが、「まだ復興途上」と話す。漁業に関しては、養殖が再開するなど明るい兆しが見えるが、農業に関しては課題が多いという。
海水により、「地力が落ちてしまった。土づくりから始めないといけない」と話す。震災前と比べて収穫量も減った。10アール当たりの米の生産量は平均で450キロほどだったが、400キロほどに減ったという。農業従事者の高齢化が進み、担い手不足の課題も深刻だ。
そんな農業の復興のシンボルとして期待されているのが陸前高田市のブランド米「たかたのゆめ」だ。伊藤忠商事では復興支援として同米の販売やPRを行っている。
販売を担当するのは伊藤忠食糧。米殻本部 米殻二課に務める二見祐樹氏は、「ネット事業で販売量を伸ばしている。たかたのゆめの認知度も出てきた。ストーリーのあるお米は売れるので、今後も期待している」と話した。
「現地でも追悼式等がある3月11日。僕たち若手は、敢えて東京に来た。未来への布石を作るため」そう語るのは、陸前高田市農林水産部農林課 課長補佐兼たかたのゆめ係長の村上聡氏。
「来てよかった。あらためて、『たかたのゆめ』、そして当市の復興プロジェクトが、様々な方々に支えられていることを実感した。感謝の気持ちとともに、この復興をさらに前に進めるぞという意欲が高まった」。
■仮設住宅から見えた、共生社会の重要性
3月11日には、伊藤忠青山アートスクエアのギャラリーでは、障がい者によるアート作品などを展示した「MAZEKOZE ART 3」を開いた。生きづらさを抱えるマイノリティへの啓発を行う一般社団法人Get in touchが企画したもので、同団体の代表の東ちづるさん(女優)は、「作品を見て、表現することは生きることだと感じて」と力を込める。
展示している作品は、言葉によるコミュニケーションが難しいアーティストが制作した。「アートはアート。良い作品は良い。老若男女、障がいの有無、セクシュアリティーを越えて、MAZEKOZEの空間を楽しんでほしい」(東さん)。
同団体が3月11日に合わせて展示会を開いた理由は、東日本大震災がきっかけで団体の活動が始まったから。自閉症やダウン症などは周囲からの理解が進んでいないために、災害時に仮設住宅で集団生活を送ることが困難だった。
有事に備え普段から、彼らのことを理解してほしい、そんな社会をつくろうという願いを込めて、この展示会を企画した。展示会の外では、障がいのある人もない人も、プロのアーティストも素人も、大人も子供も「MAZEKOZE」になって、1枚の長方形の画用紙に絵を描くライブペインティングイベントが開催されていた。
キットパスで自由に落書きをして、各自が気に入った箇所を切り取って、額に入れて購入できるとあって楽しい笑声が聞こえてきた。絵を描くことに夢中になって、知らず知らずに「MAZEKOZE」を誰もが体感できるイベントであり、気軽に参加できるのがいい。この作品の売上金は陸前高田市への寄付とした。
伊藤忠商事のCSR・地球環境室に務める猪俣恵美氏は、「大震災から6年が経過して、無関心な人も少なくない。でも、これが社会。だから、このようなイベントを通して、何回も繰り返し、伝えていくことが大切だと思っている」と話した。
MAZEKOZE ART 3は、4月5日まで。問い合わせ先は、伊藤忠青山アートスクエア(03―5772―2913)。
3月19日(16時~18時)にはファッションショーを、3月27日(18時~20時)には東ちづるさんが司会で、木村泰子氏(大空小学校初代校長)、山下完和氏(やまなみ工房施設長)らが相模原障害者施設殺傷事件について話し合うトークショーを行う。
そして、4月2日の「世界自閉症啓発デー」では、テーマカラーの青にこだわったフェイスペインティングやプロカメラマンに撮影してもらえる「Blue Photo Spot」を準備する。
今年で3年目の参加となる伊藤忠商事は、社会を変えるために、まずは街を変えていくというポリシーのもと、「青山が青になる」キャンペーンを掲げ、近隣企業やレストラン、車のショールームなどで地域を盛り上げる。
伊藤忠商事がCSRの拠点と位置づける、伊藤忠青山アートスクエアのこのような草の根の活動が、2020年東京五輪・パラリンピックに向けた共生社会の実現のための布石となるに違いない。
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