東京での暮らしに違和感を覚えた秋谷奈美さん(43)は、人口5800人の奈良県下市町で週末農林業塾を開いている。秋谷さんは約20年間、東京や横浜などで働いてきたが、人の多さや流行の移り変わりの激しさによって、身心ともに疲労した。土に触れるライフスタイルで、心と身体のバランスを整える。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
■「うつになりかけた」
秋谷さんは埼玉県さいたま市出身。東京や横浜、埼玉などで働いた。仕事は接客、営業、経営、受付、秘書などステップアップとして、さまざまな職を経験した。英国にも1年半留学し、帰国後は子ども向けに英会話講師やヨガのインストラクターとしても働いた。
しかし、30代にもなると周囲にうつ病が増えてくる。秋谷さん自身も、「うつになりかけた」と告白する。コンクリートとPCとネオン街、さらには、流行に踊らされ、同じ方向に向かう人々の多さに疲れてしまったという。
「状況を変えようと、宗教活動をしてみたり、運動してみたり、食生活を変えてみたり、あらゆる事に挑戦した」(秋谷さん)
その結果、原点に戻ることを決意した。ここでいう原点とは、農業を指す。人は食べていかないと生活していけないので、食の根源にある農業にたどり着いた。それまでは土も虫も苦手だったが、農業セラピストを目指すことに決めた。
そして、40歳のときに地域おこし協力隊として奈良県下市町に移った。同市の人口は5800人ほどで、1300万人が住む東京の2200分の1だ。
自然に囲まれた里山で暮らす住民を目の当たりにし、「今まで都会で何も知らずに暮らしてきた自分を情けなく感じた」というほど衝撃を受けた。
人として当たり前の事を伝えようと、「よしの農林業週末塾」を設立した。週末に農業と林業を社会人に教える学校だ。4月8日に見学会を行う。定員は15人。
大都市東京に違和感を覚える人は少なくない。情報が集まり、流行の発信地ではあるが、過密都市であるがゆえに、満員電車でのストレスや交通渋滞に悩まされる。インフラも老朽化しており、震災へのリスクもある。英紙「エコノミスト」の調査機関によると2017年の世界主要都市の生活費ランキングで東京は4位と物価も高い。
資本主義が加速するたびに新たな犠牲を生み出すシステムに嫌気を感じ、大学卒業後、もしくは第2の社会人生活として、東京を離れる人は増えていくだろう。
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