「商の情(あきないのこころ)を持てば、収益性と社会性を両立した事業が自然と生まれてくる」――。「伊右衛門」のプロデューサーとして知られるサントリー食品インターナショナルの沖中直人・執行役員はそう言い切る。「商の情」はサントリー二代目社長の故・佐治敬三氏が提唱した言葉で、人と自然が共存する仕事の尊さを説いたもの。サステナビリティとマーケティングの融合で悩む担当者にはこの言葉が解決の糸口になりそうだ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

サステナビリティのグローバル規模での潮流について話すトーマス氏(右端)と、沖中氏(右から2番目)、金丸氏(右から3番目)と司会を務めた青木氏

■サステナビリティとマーケティングの融合

沖中氏は3月9日、サステナブル・ブランド国際会議2017東京のセッションに登壇し、この考えを話した。セッションのテーマは、「サステナビリティとマーケティングの融合」。登壇したのは沖中氏に加え、イオンの金丸治子 グループ環境・社会貢献部長と広告プランナーのトーマス・コルスター氏、司会は青木茂樹・駒澤大学経営学部教授が務めた。

サントリーグループでは「サントリー天然水」を筆頭に、環境に配慮した商品を展開してきた。売上の半分以上が非アルコール製品で、飲料部門では売上高世界7位(2015年)だ。

創業時から利益を地域や社会に還元する「利益三分主義」を掲げてきた。沖中氏は、「大木に育てるためには、しっかり幹の根をはらないといけない」と例える。企業理念にサステナビリティの要素が含んでいるため、設計する商品は「当然、持続可能性を追求したものになる」という。

沖中氏は社内外にこの考えを伝える際に、2つの言葉を用いる。一つが1973年に制定した社是。従業員から応募したもので、当時の従業員数は現在の10分の一以下の3700人だったが、8割が提案したという。

沖中氏は社是の冒頭部分にこそ、今のコーポレートメッセージである「水と生きる」につながる考えがあると強調する。そこには、「人間の生命の輝きを目指す」と記されている。「この言葉に、企業の存在意義を見出せる」と断言する。

1973年に制定した社是

■佐治敬三氏の「商の情」

そして2つ目が、二代目社長の故・佐治敬三氏が提唱した「商の情(あきないのこころ)」だ。これは、意訳すると、独りよがりではなく、人や地域、社会などにも配慮した商人のあるべき姿勢を表した言葉だ。

ビジネスの世界では、基本原則としてウィンウインという考え方が浸透しているが、「もし部下がその言葉を使っていたら厳しく咎める」(沖中氏)。「ウィンウィンの反対は、ウィンルーズ。商の情は、勝つか負けるかではない」とその理由は明快だ。

「商の情」について語った佐治氏の言葉

■理念は、「誇り」生み出す

沖中氏は企業理念の価値について、「迷ったときに戻れる場所があることは大きな助けになる」と話す。沖中氏は自らが新製品の開発で行き詰っていたとき、鳥井信治郎氏が日本で初めてウイスキーをつくった山崎蒸溜所を訪れた。

そこには創業者らの銅像があり、それを前にして、「これを最後の開発にします」と決心したという。1923年に水が豊かで、水質にも恵まれた3つの川(宇治川・木津川・桂川)が合流し、ウイスキーづくりに理想的な山崎に蒸溜所の建設を着手し、それから6年後の1929年に「サントリーウイスキー白札」を開発した。

ウイスキーは仕込みから熟成までに数年かかり、その期間の売上は立たない。ハイリスクな商品だ。こういった自然の中で商品づくりを諦めないで取り掛かる価値観は脈々と受け継がれているという。

企業理念に共感し、新たなビジネスパートナーが出てくることもあるそうだ。さらに、理念の浸透は、「誇りにつながる」と強調する。「理念は、社員に仕事の意味を本質から理解させることができる。理解していれば、辛いときにふんばれる」と原体験に触れながら語句を強めた。

■イオン、持続可能な調達と認証商品の販売

13カ国で2万476店舗を運営するイオンでは、 「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」という基本理念に基づき、2011年にイオン サステナビリティ基本方針を定めた。4つの重点課題(「低炭素社会の実現」、「生物多様性の保全」、「資源の有効利用」、「社会的課題への対応」)に取り組んでいる。

事業に欠かせない自然の恵みを守る責任があるとの認識で、2010年に制定した「イオン 生物多様性方針」、さらに具体的な商品の調達に踏み込んだ「持続可能な調達原則」に基づき、水産物ではMSC、ASCなどの認証マークが付いた商品を販売、森林資源ではFSC認証付きの商品の販売やFSC認証国産木材を使った店舗をミ二ストップで150店舗以上建設している。店舗や商品を通して、お客さまとともに持続可能な社会を目指している。

金丸氏は、「活動の効果を売上として表すことは難しいが、様々な視点で企業価値を上げていると認識している」と話す。「取り組みに共感していただいたことで、店舗に足を運んでいただけるお客さまもいらっしゃる。そういった意味では、結果的な収益につながっていると考えている。」

だが、一方で社内外への浸透が課題だ。「認証付き商品を取り扱っていることをどれだけの人が知っているだろうか。店舗に並ぶ商品の中で、まだまだ取り扱い数は多くなく、周知・浸透させるのに苦労している。売り方の工夫として、未来につなぐお魚、フィッシュバトンという売り場づくりを展開している。」と明かした。

社会に良い影響を与える広告を企画しているトーマス氏は『Goodvertising(グッドヴァタイジング)』の著者でもある。サステナビリティを巡るグローバルでの変化について、「消費者は本質的に生活に違いを生み出してくれるものを求めている。製品のクオリティだけではなく、会社の価値を見て購入する傾向にある。そして、その価値にはパーパス(存在意義)を持つことが不可欠」とした。

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