シェアリングエコノミーでサステイナブルな地域社会の実現を紐解いていく連載企画の第3弾。今回紹介するのは、人口3890人の長野県川上村。この村では30~40代の農業後継者の男性の約4割が非婚。シェアリングエコノミーで、「お嫁さんに選ばれる地域」になるべく力を入れている。家事や子守、買い物代行などを地域住民に頼めるサービスを開発し、共助の仕組みで結婚環境を向上させる実証実験を昨年末から始めた。その成果はどうなったのか。(シェアリングエコノミー研究家=石山 アンジュ)
世界に先駆け少子高齢化、人口減少が深刻化する日本社会。地域の過疎化が広がり財政難を叫ぶ自治体も増えるなど、既存の地域活性における「公助の仕組み」が限界を迎えている。
そのような中、長野県川上村は地域の非婚率に着目し、結婚環境向上を目的とした地域の助け合いシェアリングエコノミーシステム「MAKETIME!」を開発し実証実験を実施した。
■自治体主導の実証実験
レタスの出荷量が日本一と言われる長野県川上村。人口3890人という小さな村ながら比較的経済的に恵まれた農村地域である。一方、人口流出が年々加速するこの村では農業後継者としての男性の非婚率が上昇、30代~40代の地域の男性(農業後継者)の非婚率は37.5%にまでに昇った。
これらの課題に対し川上村は、「お嫁さんに選ばれる地域」を掲げ、首都圏など村外の女性にとって「嫁ぎたい」と思えるような地域の結婚環境を向上させることに着目した。
「川上村の女性は、とにかく忙しいー。」(西尾副村長)。一方で、地域に暮らす子育て世代の女性を中心に、川上村の農家に嫁ぐ女性は、繁忙期は農作業に従事、家事、子育てを一手に女性が担うケースが多い。さらに旧世代から受け継がれてきた「家のことは女性がやるべき」といった文化的な風習も残る。
川上村は、2016年8月、パートナーエージェント(東京・品川)と連携協定を締結し、2016年12月には、村の女性の自己実現のための時間を創造しようという試みとして、家事や子どもの見守り、買い物代行などのまちの助け合いマッチングシェアリングエコノミーシステム「MAKETIME!」を実証実験として共同開発した。
国内において自治体主導で運営されるシェアリングエコノミーシステムとしては初事例となる。依頼者が依頼したい仕事の内容をリクエストすると、支援者(メイカー)とマッチングされ、支援者は仕事に応じてポイントを獲得し、ビットコインや商品と交換をすることができる。
61日間の実証実験では、約30名の方が利用し、期間中には101件の利用があった。MAKETIME!によって創出された時間を活用して、村の女性が主導するイベントの開催や、学習講座の開催、ワークショップなど様々な活動が生まれた。
実験後のアンケート(複数回答)では「家事・育児に追われるママの時間を創るというコンセプトがよかった」(66%)という評価をもらった。また2月に行われた「KAWAKAMI IDEA FOREST アイデアコンテスト2017」では優勝した村の女性のアイデアが事業化するなどといった事例も生まれている。
■地域課題に沿った普及の在り方の模索を
実証実験期間の後も、本取組みをきっかけに女性による自発的な取り組みが増えるなど良い変化が見えた一方で、アンケートでは「さらなる全戸に向けての趣旨説明が必要」(73%)という課題も残った。
その地域で受け入れられるものに昇華させていくためには、利用者だけでなく、利用者の家族や、地域の理解と支援が必要となりそうだ。ICTの普及率や、その地域が抱える文化背景や風習などにも考慮し、その地域の課題にそったあるべき共助の在り方や普及に向けたプロセスを、自治体・地域一体となり協働して考え設計していく必要がある。
石山アンジュ:シェアガール(シェアリングエコノミー伝道師)
内閣官房シェアリングエコノミー伝道師。一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局担当、クラウドワークス経営企画の傍ら、世界各国のシェアサービスを体験し「シェアガール」の肩書で海外・日本でメディア連載を持ちながら、シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案するシェアリングエコノミー研究家。
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