フィリピンでは「障がい者は教育を受けても意味がない」と言われ、視覚障がい児の就学率は5%以下とされる。そこで、自らの困難を乗り越えながら、誰よりも人の可能性を信じて、障がい児支援に取り組む全盲のNPO職員がいる。特定非営利活動法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、FTCJ)の石田由香里氏だ。「やってみる前からダメだと決めつけないで」と訴える。(谷 美奈帆=法政大学経営学部4年、中山 裕太=中央大学経済学部3年/山﨑ゼミ)

フィリピンで教育支援活動をする石田さん

FTCJは、1999年に日本で設立され、今年で18年目を迎える。ミッションは2つ。「国内外の貧困や差別から子どもをFree(解放)にすること」と、「子どもには世界を変えられないという考えから子どもをFreeにすること」だ 。FTCJは、「子どもや若者は助けられるだけの存在ではなく、自身が変化を起こす担い手である」という活動理念のもと、国内外で5つの事業を展開している。

■「同じ障がい者を助けたい」

この団体で、フィリピン障がい者支援事業のリーダーを務めるのは石田氏である。石田氏は、1989年生まれの28歳で、国際基督教大学卒業後、イギリスのサセックス大学大学院で教育開発の修士号を取得。フィリピン駐在のNGO職員として勤務した経験を持つ。

石田氏がフィリピン障がい者支援事業に取り組む理由は、大学時代にフィリピンスタディツアーに参加したのがきっかけだった。石田氏はフィリピンの障がい者、特に視覚障がい者の教育の現状を目の当たりにし、強い問題意識を持った。なぜなら、彼女自身が全盲の視覚障がい者だからだ。

強い問題意識を持ち続け活動する石田氏の原動力は、「同じ障がい者を助けたい」という思いと、過去の経験にある。

石田氏は生まれて1年3カ月で全盲になった。2歳から中学生までは和歌山県にある盲学校に通った。先生と一対一の授業を受けていたが、「もっと広い世界を知りたい」と考え、単身で上京し、筑波大学付属視覚特別支援学校に進学した。好奇心とそれに負けない努力で過ごしてきたが、大学受験の際に大きな壁が石田氏に立ちはだかった。

大学に進学したいと考えていた彼女と母親の意見が対立したのだ。「将来の就職先もろくにないのに、目が見えないあんたが大学へ行って何になる 」。そう言われた。

「17年間育ててくれた親が自分の可能性を信じてくれていなかったことを知った」と当時を振り返る。誰よりも自分を信じ、応援してくれる存在だと思っていた親に、衝撃の事実を突きつけられた。大学受験をあきらめても仕方ないところだが、石田氏はあきらめなかった。

猛勉強し、一浪の末、国際基督教大学(ICU)へ入学した。石田氏はもともと努力家だったが、彼女の背中を押したのは参考書などを徹夜で点字に訳して送ってくれる点訳ボランティアと、「努力は必ず報われる」と応援し続けてくれた高校の恩師の存在だった。

受験の経験が自分と同じように障がいや環境に恵まれない人を支援したいという想いにつながったのだった。

■障がい者は存在すら知られていない

フィリピンとの出合いは大学時代のスタディツアーだ。ツアーでは盲学校などに訪問し、現地でディスカッションする機会があった。そこでともに参加していた 健常者の学生たちは通訳を通して意見を伝えていた。

ICUでは英語で学んでいた石田氏は直接英語で意見を述べたところ、現地のNGO職員 から「この国では、まだまだ障がい者は何もできない存在だと思われている。僕は全盲の君が日本でどのように教育を受けてきたのかとても興味がある」と言われた。

そのとき、「フィリピンで何かできることがあるのではと思えた」と、石田さんの心に火が点いた。

改めて、フィリピンの教育の現状を知っているだろうか。一般の子どもたちの就学率は96%に上る一方で、視覚障がいのある子どもたちの就学率は5%以下と言われている。世界保健機関(WHO)の調査によると、世界全体の障がい者率は15%だが、フィリピン国家統計局によると障がい者率は1.57%である。

つまりフィリピンではまだ多くの障がい者が出生届けも出されないまま、その存在すらないものとされているのだ。フィリピンでは、視覚障がいのある子どもは小学校にも行かせてもらえない。一生を家の中で誰とも会わずに過ごしている子どもも少なくないという。

最悪の場合、全盲になったとたんに両親から捨てられる子どももいるという。視覚障がいのある人は良い職に就くことができないため、教育を受けても仕方がないという考え方が社会に基盤となって広がっているためだ。

そのため、学校には視覚障がいを持つ子どもを受け入れる環境が整っておらず、日本には盲学校が70校以上あるが、フィリピンには2校しかない。フィリピンの視覚障がい者は社会に参画することが困難な環境に置かれているのだ。

石田氏は、そんな状況を変革していくためにフィリピン国立盲学校で活動している。同校にある築47年の寮同校の屋根の修繕とスクールバスの買い替えを行うプロジェクトを立ち上げた。

昨年には、クラウドファンディングを成功させ、今年の夏に点字プリンターと画面読み上げソフトJAWSをフィリピン国立盲学校に届けた。寮の修繕のほうも、10月には修繕工事が開始予定だ。石田氏は一歩ずつフィリピンへ希望を届けている。

フィリピン国立盲学校で

視覚障がいがあるとは思えないほどのパワフルさで活躍する石田氏。障がい者に対しても、そうでない人に対しても「障がいがあるからと言って、何事もやる前からできないと決めつけないでほしい」と力を込める。

石田氏が活躍することで、障がいのある人々のみならず、すべての人々にとって新たなロールモデルとなるだろう。

*この記事は日本財団CANPANプロジェクトとオルタナSが開いた「NPO大学第2期」の参加者が作成しました。

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