「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について世界遺産への登録を目指していることで近年話題となっている長崎県の離島、五島列島。そんな五島を観光によって活性化しようと取り組んでいるNPO法人アクロス五島を取材した。地元を愛する有志たちが観光客へ「おもてなし」を届けていた。(武蔵大学松本ゼミ支局=高橋 里奈・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)

NPO法人アクロス五島理事長の山口澄子氏

アクロス五島は、長崎県が開催した、観光の先導役となる人材を育てる「しま自慢観光カレッジ」の卒業生が、せっかく勉強したのだから観光に貢献した団体を作りたいとの思いで設立した団体である。

2007年に「観光集団アクロス五島」として立ち上げられ、2009年にNPO法人となった。会員数は現在35名で、今までは50代以降の島民ばかりで構成されていたが、最近28歳の若い方も入ったそうだ。

アクロス五島の会員さんは、単なる観光客の誘致目的というよりは、自分の家に人をおもてなしする、招き入れるような感覚で活動しているそうで、皆五島が大好きだという。

アクロス五島の主な活動内容にまず島の観光案内、観光ガイドがある。例えば、日本の灯台50選にも選ばれた灯台のある大瀬崎のトレッキングやビーチあそび、鬼岳草スキー、釣りや地元産の無添加大豆で作る昔ながらの手法での潮唐豆腐づくり体験など、島の自然を生かした体験活動を行っている。

おもてなしの一環として清掃ボランティアも行っている。海岸に漂着したごみや教会などを清掃することによって環境意識や島の自然の大切さに気付かされるそうだ。

ある時、修学旅行に来た中学生と海岸の漂着物清掃体験を行った際、集まったごみの量を見た中学生から、「こんなにきれいな海を汚したくはないから自分たちはこんなことをしたくない、ごみを海に捨てたくない」と言われたことが心に残っていると、現在の理事長である山口澄子氏は話す。

五島のPRのために最近では行政も観光に力を入れているそうで、民泊や体験活動の促進をしているそうだ。しかし、アクロス五島の人々は観光ガイドのスキルやガイドの人手不足が問題だと言う。

世界遺産に登録されるとなると当然五島を訪れる観光客は増加するだろう。しかし、その観光客を引率するガイドが足りていなくては意味がないし、観光客に十分に五島のことを知ってもらうことができない。

本来ガイドの育成はアクロス五島だけがやるべき仕事ではなく、バス会社自身がガイドを育てるのが適切だろう。しかし、給与などの問題からガイドが集まらず、アクロス五島の会員が勉強し、ガイドをやらざるを得ない状態なのだ。

アクロス五島の皆さん

離島ということもあり人口の減少は深刻だ。少子化が進む一方で死亡率が出生率の2.5~3倍もあり、学生の9割が高校卒業後、就職や進学のために島を出るそうだ。

少子化によって学校の廃校や併合が行われ、職を失った教員やその家族が島を出ることによってさらに人口が減るという悪循環が起きている。

Iターン就職のために島外から五島に移住する人もいるが、仕事が少なく、せっかく仕事に就いたとしても給与が低いため地元に帰ってしまう人も少なくないそうだ。

しかしその一方で、Iターンで移住し、島民が考えもしないような仕事を自分で作り出す人もいて、驚かされたという。

五島では都会のような生活はできない。しかし、都会の人ごみに紛れた生活ではなく、自然の中で人間らしくのびのびと暮らすことができる。自給自足のような生活もできる。人も温かい。

観光客を呼ぶためにも移住者を増やすためにも、他の離島にはない観光や食、自然など、五島の魅力のPRが必要ではないかと話す。

取材を通して、アクロス五島の方々の五島への愛の大きさを感じた。行政もアクロス五島も観光客を増加させたいという同じ願いがあるが食い違いがある。五島の魅力を島民と行政が一体となってアピールすることが五島の抱える問題の解決につながるのではないだっろうか。

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