元ひきこもりの現代美術家・渡辺篤氏が8月4日から六本木ヒルズ A/Dギャラリーで個展を開く。個展の名称は、「わたしの傷/あなたの傷」。渡辺氏に個展の見所について寄稿してもらった。

東日本大震災の直前まで私は深刻なひきこもりだった。東京藝術大学を卒業後、将来の不安や、長く患っていた鬱、失恋などを理由に足掛け3年ひきこもった。(寄稿・渡辺 篤=現代美術家)

「プロジェクト『あなたの傷を教えて下さい。』」 ©ATSUSHI WATANABE

のちに現代美術家として再起し、様々な当事者経験を社会問題と関連付けながら作品化してきた。今回、きたる8月4日から六本木ヒルズ A/Dギャラリーで個展を開く。

今日、ひきこもりは日本に150万人以上居るとも言われ社会問題になっている。2014年発表の作品「止まった部屋 動き出した家」では、一畳サイズのコンクリート製造形物の中に1週間自身を密閉してこもり続けたのち、カナヅチを使って脱出した。

「プロジェクト『あなたの傷を教えて下さい。』」 ©ATSUSHI WATANABE

この過酷なパフォーマンスは、山岳修行における「擬死再生(一旦死んで生まれ変わる)」や仏教由来の「内観」にも通じる。「とらわれからの再生」を自身のひきこもり経験を踏まえ表現した。

また、この時の個展開催に向け、インターネットを通じて、ひきこもりの方たちが暮らす部屋の写真を募集し、集まった写真約60枚を展示した。思いがけず、ひきこもり当事者も複数人鑑賞に訪れた。今回この作品は形式を変えて展示する。

母親との共作も制作予定。ひきこもりだったときの私にとって、扉のこちらの傷は、同時に扉の向こうに居る者の傷にもなった。それに気付くことが、私がひきこもりを終えた理由の一つである。家のミニチュアを一旦壊し、当時の互いの視点を元に対話しつつ、修復を試みる。

「止まった部屋 動き出した家」 ©ATSUSHI WATANABE
Photo by Keisuke Inoue / Courtesy of NANJO HOUSE

さらに「プロジェクト『あなたの傷を教えて下さい。』」 (2016年~継続中)では、ウェブサイトを通じて心の傷についての話を匿名で募集している。現在までに約700件、様々な言語で送られてきている。

「止まった部屋 動き出した家」 ©ATSUSHI WATANABE
Photo by Keisuke Inoue / Courtesy of NANJO HOUSE

制作方法は、投稿文を円形コンクリート板に書き、それをあえて一旦ハンマーで割って、陶芸の伝統的な修復技法「金継ぎ」を応用して修復するというもの。

今回の個展「わたしの傷/あなたの傷」では、これら3作品を中心に多数展示予定。
私自身が過去に負った傷は、自分より傷ついた他者の痛みに気付くことや、作品制作での困難と向き合うことで、とらわれから引き剥がされ昇華できたようにも思う。

「7日間の死」 ©ATSUSHI WATANABE

そうした経緯を元に「弱い自分/弱い誰か」が見殺しにされない社会を作るため、相互に寄り添う態度を、アートを通して社会に提案していきたい。

◆渡辺氏に関する過去の記事はこちら

<展覧会概要>_______________________
展覧会タイトル:渡辺篤個展「わたしの傷/あなたの傷」
会期:2017年8月4日(金)ー8月27日(日)
時間:12:00ー20:00(会期中無休)
会場:六本木ヒルズ A/Dギャラリー (106-6103 東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ ウェストウォーク3F)
入場料:無料
お問合せ:03-6406-6875(六本木ヒルズ A/Dギャラリー)
オープニングパーティー:8月5日(土)18:00ー20:00(無料)
六本木ヒルズ A/Dギャラリーウェブサイト http://www.mori.art.museum/jp/shop/index.html
助成:アーツコミッション・ヨコハマ

<略歴>__________________________
渡辺 篤|現代美術家。1978年、神奈川県生まれ。東京藝術大学在学中から自身の体験に基づく、傷やとらわれとの向き合いを根幹とし、かつ、社会批評性強き作品を発表してきた。 表現媒体は、絵画、インスタレーション、映像、パフォーマンスなど。また、テーマはどれも個人的な立場や経験を基とした、新興宗教・経済格差・ホームレス・アニマルライツ・ひきこもりなど多岐にわたる。それらを国内外の社会問題とも接合させて作品化させ続けてきた。大学卒業後に路上生活やひきこもりの経験を経て2013年活動再開。以後精力的に発表を続けている。近年は「ブレイクスルー」(NHK E テレ、2016年)等のテレビ出演や、雑誌・新聞掲載多数。また福祉媒体での執筆や、ひきこもり経験を活かしたスピーチも行う。個展は「止まった部屋 動き出した家」(NANJO HOUSE、東京、2014年)、「ヨセナベ展」(Art Lab AKIBA、東京、2013年)など。グループ展は「黄金町バザール2016ーアジア的生活」(黄金町、神奈川、2016年)、「Who By Art Vol.2」(西武渋谷店美術画廊/西武池袋本店美術画廊、東京、2013年)、「ASIA PANIC」(光州ビエンナーレホール、韓国、2009年)、「チバトリ」(千葉市美術館、千葉、2008年)など。2016年、2017年にはアーツコミッション・ヨコハマによる「創造都市横浜における若手芸術家育成助成 クリエイティブ・チルドレン・フェローシップ」に採択。
渡辺篤ウェブサイト http://www.atsushi-watanabe.jp

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