英化粧品ブランド「ラッシュ」は1995年の創立時から、倫理的調達「エシカルバイイング」を理念に掲げている。同社の理念の中でよく知られているのが「動物実験反対」だ。日本でも紙袋に「NO!動物実験」のメッセージを印刷するなどし、道行く人たちが何気なく社会的メッセージの書かれた紙袋を持ち歩く様子は目を引く。(オルタナ編集部=小松遥香)

調達責任者のサイモン・コンスタンティン氏

「ラッシュで働くということは社会を変えるということだ」と同社の創立者マーク・コンスタンティン氏は話している。「ビジネスと社会的課題の解決の両立」が理念の同社は、まさにミレニアル世代に支持される企業の代表だ。ラッシュは現在、世界49カ国に展開しており、日本の市場規模は世界第3位。

ラッシュジャパンでは、2011年から東日本大震災の被災地の農業復興支援を行っており、福島県南相馬市の菜種油を使用した石鹸「つながるオモイ」や同県いわき市で栽培されたオーガニックコットンを使った風呂敷「Knot-Wrap(ノットラップ)」を世界中で販売している。

2017年4月末、福島県南相馬市といわき市を訪れるために来日した調達責任者のサイモン・コンスタンティン氏に話を聞いた。

■「学ぶ」姿勢を大切に調達を行う

――ラッシュが調達において一番大切にしていることは何でしょうか。

サイモン:サプライヤーに直接会いに行き、原料がどのように作られているか、どういう環境で働いているのかなどを目で確認することです。そして、サプライヤーの方々と良い関係を築くことですね。

基本的に私たちのサプライチェーンには仲介業者はいません。ですから、調達を担う世界中のバイイングチームの社員には、「サプライヤーに直接会いに行く」ということを心掛けて貰っています。そうすることで、社員も知識を身に付けられますから。

――世界中から原料を調達している企業の中には、児童労働や人権侵害などの課題を抱える会社もあります。ゼロにすることを目指していても、今すぐにはできないというジレンマを抱えている企業もあります。

サイモン:商品をつくる上での「透明性」は常に追求しています。サプライチェーンは「変化するもので、完結しないもの」だと思います。そのため、サプライヤーとの対話を密に行うことが大切だと考えます。

それから、私たちが調達で透明性を重要視していることを理解して貰えるサプライヤーから原料を調達していますし、そういうサプライヤーを探し続けるよう心がけています。

例えば、ラッシュでも最初は、パームオイル由来の石鹸素地を使っていました。しかし、パームオイルの製造過程には森林伐採などさまざまな問題があります。ラッシュでは2008年以降、石鹸素地にはヨーロッパ産のココナッツオイルと菜種油を使っています。ただ、商品の中にはパームオイルを含む界面活性剤を使用しているものがまだあります。現在、それをどうにかして解決できないか取り組んでいます。

また「サプライチェーン」というと鎖のようなイメージがありますよね。でも私たちは、「サプライチェーン」を鎖ではなくクモの巣のようなイメージだと考えています。パートナーシップや人とのつながりで、色んな方向にどんどん広がっていくようなものです。ですから、「お金を払うから作ってくれ」というような一方通行的な考え方でサプライチェーンが成立するとは思っていません。

――世界中にいるラッシュのバイヤーの方々に、どのように考えを伝え、浸透させているのでしょうか。

サイモン:社員に対しても、研修などを通して、対話を重ねることで理解して貰うようにしています。一回で「エシカルバイイングポリシー」を理解して貰おうとするのではなく、少しずつで良いので理念を身に付けて貰えるように機会をつくっています。

――サイモンさんのご両親は、ラッシュの共同創立者であるマーク・コンスタンティン氏とモー・コンスタンティン氏です。サイモンさんのご兄弟も同じくラッシュで働いていらっしゃいますが、ご両親から「エシカルビジネス」についてどういう風に教えて貰ったのでしょうか。

サイモン:両親からは、「学び続ける」ことの大切さを教えて貰いました。とにかく、昔から、両親もそうですが、弟も妹も私も、さまざまなことを話し合い、意見を交わし合う家族でした。ラッシュという会社も同じですね。

早い時期から、両親はビジネスの現場を私たちに見せてくれました。ラッシュのビジネス理念についても、学校で学ぶような机上の勉強ではなく、実務を通して学んできました。

ラッシュが商品に使用している、有機栽培のいわき市産備中茶綿

■挑戦を楽しみ、社会課題から目を背けない

――ラッシュでは今年から、福島の菜種油を使ったボディーソープや有機綿を使用した風呂敷を世界的にも販売し始めました。震災から7年目を迎えた福島、福島の人々の印象はいかがでしたか。

サイモン:「企業として何かする」「ポジティブな行動を起こす」ということが大切だと考えています。

道路脇に放射能汚染された土のうが積み重ねられた景色が続いていたことはとても衝撃的で、複雑な心境になりました。津波で崩壊した学校の廃墟や放射能廃棄土が詰まれている場所などを見ると、改めて深刻な現状だと感じます。

その一方で、福島の大地や自然の圧倒的な美しさに触れることができましたし、福島の人々がガーデニングや農業を楽しみながら自然と共存している姿もとても印象的でした。

ラッシュができることは小さいことかもしれませんが、最初の一歩を踏み出すことが大切だと考えています。

私たちの会社は「挑戦」することを大切にしています。ワクワクするようなビジネスを展開するための挑戦も、また動物実験への反対やダイバーシティ、難民・移民問題などの社会的課題に挑戦することもです。その挑戦を通して色々なことを「学ぶ」ということを企業として楽しんでいます。

同時に、そういう風に企業としてビジネスにおいても社会に対しても何ができるか試されることも前向きに受け止めています。

――最後になりますが、今、ラッシュが調達に関して挑戦していることやこれから挑戦していきたいことは何でしょうか。

サイモン:現在、温暖化による砂漠化を止めるためにガーナ北部で緑化活動を行っています。製品に使用するシアバターを栽培する他に、木や植物を植えるなどしています。現地の農業支援にもなりますし、生物多様性保全の観点からもこうした活動を行っています。

また、難民の問題にも携わっています。そのことで、先週、イタリアのシチリアに行ったばかりです。シチリアには、リビアを経由してやってきた多くの難民が暮らしています。しかし、シチリアは失業率が高く、地元の失業者と外から来た人たちの間に衝突などの問題が生じているんです。さらに仕事もない状況ですから、地元から出て行く人も多いです。

その中で、難民と地元の失業者を雇用し、さらに地元で生産された小麦を使って、パスタを製造している地元企業があります。そうした動きを支援するためにその会社と協働しています。それに、地元の農家で質の高いエッセンシャルオイルをつくっている方がいますので、そこから商品原料を調達しています。

私たちは、パーマカルチャー(永続可能な農業と文化)という観点から、事業を通して、持続性のある社会課題の解決策をとるようにしています。企業として、地球温暖化や難民、放射能などの21世紀を象徴する大きな問題に目を背けることも、見て見ぬふりをすることもありません。これからも、企業としてできることを、社会にとっても自分たちにとってもポジティブな方法で行っていきたいです。

サイモン・コンスタンティン
バイイングチームの責任者。ラッシュの全商品に使われている原材料の買い付けを担当している。従来のSustainability(持続可能性)を越えて、新たな価値を生み出し、自然界に存在する原理や生態系のプロセス、進化に沿った購買計画を構築する「Regenerative Buying(常に改善していく購買)」を行う。またパフューマ―として、自らオリジナルの香りを作ると共に、たくさんのフレッシュハンドメイドコスメティックに使われる香りを生み出すフレグランス部門も担当。

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