慶応義塾大学公認の学生団体S.A.Lはこのほど、「ファッションの未来」をテーマにしたトークセッションを開いた。当日、ゲストとして登壇したのは、EVERYDENIMの共同代表山脇耀平さんと、シタテルの広報・PRを担当する若尾真実さん。ファッションの未来については、「作り手と買い手の距離が縮まっていく」と予測した。当日の模様をレポートする。

トークショーでは、アパレル業界で働く若手がファッションの未来について語り合った

MC:今回はアパレル業界で活躍するお二方をゲストスピーカーとしてお呼びし、、今後のアパレル業界について話していきたいと思います。お二方の紹介から始めたいと思います。まずは、エブリデニム共同代表の山脇耀平さんです。

山脇さんは、筑波大学在学中の2014年、岡山県のデニムの工場が持つ、高い技術に目をつけ、EVERYDENIM(エブリデニム)という会社を、弟の舜介さんと立ち上げました。その後も、国産デニムの生産にこだわり、生産、販売から広報活動まで幅広く活動をしていらっしゃいます。それでは山脇さんご本人からの紹介です。

エブリデニム共同代表の山脇耀平さん

山脇:エブリデニムは実の兄弟でやっております。兵庫県出身で、僕は92年生まれ、弟が94年生まれです。ちっちゃい頃からすごいジーンズが好きで、特に父親がアメカジど真ん中世代だったことや、お古的なのをずっと譲り受けていたのもあって、すごく小さい頃から馴染みがあったんですね。

それで、いつか生産現場を見たいなと思いながら過ごしていました。弟が岡山に大学進学しまして、そこでよく加工場を見学させてもらえることになりまして、事業を始めました。

初めてデニムの加工場を見学させてもらった時、その技術にすごく驚きました。まず、人が手作りしていることに驚きました。

もちろん生地を作ったり、縫うときはミシンを使うのですけど、基本的には人の手で作っています。クオリティが高く、妥協なく追求していく姿勢に感銘を受け、この人たちのことをもっと多くの人に知ってもらいたいと思いました。

もともと立ち上げの頃から割と一貫しているメッセージがあります。デニムを届ける以上、そのものに愛着を持って使って欲しいという思いがあります。

あと、ファッションなんで、楽しんでほしい。エシカルみたいな考えとか、いろいろありますけど、自分自身としてはとにかくそれを考え過ぎることによって、ネガティブにならないでほしいと思っていて、どんな時も自分を大切に、自分が楽しくやれる方向から商品のあり方を考えていってほしいと思っています。

ありがとうございます。それでは、続いて株式会社シタテルの広報・PRを担当する若尾真実さんです。

大学二年生の時、学生団体S.A.L.の活動の一環として、バングラデッシュの工場と提携して見た目にもこだわったカバンを制作するプロジェクトto2bagを開発しました。その後、PR会社を経て株式会社シタテルに入社し、現在は広報・PR担当として活躍しています。

シタテルの広報・PRを担当する若尾真実さん

若尾:シタテル株式会社の若尾と申します。S.A.L.にいた頃は、バングラデッシュっていう国に突然、飛びこみまして。紹介してもらった工場でバッグを作るっていうことを大学二年生の夏から取り組みました。

まあそのときはフェアトレードとかっていうエシカルとか聞くと堅苦しいとか難しそうとか高尚なことに思いがちなところを少し意識改革したいなって思ったんです。そこで可愛いから買う、とか買ったら実はそれがそういうものだったっていうような気づきの逆転がしたくて。

とにかく可愛くて、でそんなに値段も高くないものを作りたいということで作ったのがto2bagでした。おかげさまで総計3000個ほど販売させてもらってるのですが、S.A.L.の後輩に引き継いでもらって、今も続いています。

■卒業後、新しい衣服の生産プラットフォームを作る会社に

それで私は大学から卒業して、一度PR会社に入ったんですね。そしてそのあとシタテルっていう会社に入りました。シタテルは、簡単に言うと衣服生産プラットフォームを運営している会社です。

新流通システムと言って、つくりたい人、つまりメーカーだとかブランドさんデザイナーさんと、縫製工場をつないで生地や資材も手配して服が作れるということをしています。

わかりやすい例で最近ユニフォームを作ったりしています。例えば、一風堂というラーメン屋さんのユニフォームを手がけているので、ぜひ一風堂に行ったら見てみてください。

――それでは早速トークセッションの方に移らせていただきたいいと思います。最初にお二方にお聞きするテーマは「服はどうやってできているのか」です。山脇さんは布作りから販売まで、デニムの工程のほぼ全てに携わっているとお聞きしました。私たちが普段着ている服は、どのように作られているのですか?

山脇:郊外とかにポツポツ家のような建物があって、そういうところが工場だったりするんですよ。だから、いわゆる工場とかって言われて、想像をするでっかい建物、ではない。10人とか100人の規模でやってるところもあります。

――シタテルやエブリデニムはアパレル業界で新しい取り組みをしていると思いますが、今後のアパレル業界はどうなっていくと思いますか?

山脇:「見える化」が進んでいくと思います。というのはテクノロジー云々を除いても、見える状態が幅を利かせていくのかなと思います。今までは実際に手に取る消費者たちがどこで服が作られているのかを知るのは難しかった。

しかし今は物を手に取る側の私たちがどういうところで作られているのかっていうのをすごい気にするようになっているので、そのムーブメントに合わせてどんどん情報を受け取ることができるようになっていくんじゃないかなって思いますね。

それにちゃんと工場の方も対応していかないといけないなという風に思っています。例えば、実際に現場を見たいという人が来た時に体制を整えるみたいなところは大事なんじゃないかな。

今はね、ずっと忙しく作業していたりとか、ものを作っていたりする場所なので、僕はそういう受け入れ態勢みたいなものも開かれていくといいなと思いますね。

■作っている人と買う人の距離が縮まる

山脇:生産地を明らかにして、それを打ちだしていくことによって、支持されるブランドも増えていくといいですね。

冒頭に、ものに愛着を持って欲しいって言ったんですけど、愛着を持つきっかけがいろいろあるなあと思っています。例えば大量に買うときの思い出が良かったのもあるし、一生懸命お金を貯めて、頑張って買ったものであるとか、大切な人からプレゼントされたものであるとか、いろいろあると思うんです。

そのきっかけの一つがものを作っている現場の人を知ること、そしてその人に感謝できることだと思うので、そういう感情の交換みたいのを僕たちが提供できるようになりたいなあって思いますね。

若尾:今の話を聞いていると、服に限らず、結構ものづくりの起源から考えて、大昔はお母さんとか誰かが作ってくれて家の中で完結していた物じゃないですか。そうやって昔からあるものづくりって、作る人と使う人がすごい密だったところがだんだん離れていって、大量に海外で作ったりとかどこで誰が作っているのかわからないものっていうのが今ほとんどですよね。

でもエブリデニムのような、作り手と買い手の距離がまたどんどん縮められるようになってきました。直接会うっていうのもそうですし、検索したらちゃんと作り手の情報があるんだったら距離的には遠くても、作っているところがわかるっていう「心の距離」が縮まっていく。ファッションビジネスの未来としては、作り手と買い手の距離が再び縮まっていくのかなって思いますね。

■ファッション業界に携わること

――来場者の方から質問があったのですが、エシカル系ブランドを立ち上げたり、そういった業界に携わったりするときに大切なことは何でしょうか?

若尾:勉強じゃないですよね。もう信念じゃないですか?山脇さんも服飾の学校じゃないでしょ?

山脇:はい、その辺の田舎の大学ですね(笑)

山脇:大義を掲げるのではなく、自分がエシカルな方が良いと思うんだったらその方向性で進むべき。自分が誇りを持つことが一番大事なんじゃないですかね。

若尾:ブランドって信念みたいなものですからね。だからその人とかそのチーム自体の理念を持っていればぶれないと思う。私もto2bag立ち上げた時も、フェアトレードと言われるととっつきにくいし高いし買えないしみたいなイメージが嫌だったということが原点にありました。自分がいいと思うもの、自分がやりきってるって思えるんだったら、それをやればいい。ただ伝えるってことはすごく大事だなって思う。仲間をいっぱいつけていく、広げる力も必要ですよね。

■これからのものの選び方とは?

山脇:なんか、父親がアメカジど真ん中世代だったんですよ。で、ちっちゃい頃からジーンズ履いてたっていうのもあって、男の100選みたいな雑誌とかが家に置いてあって、とりあえずそれを揃えようと頑張ってお金貯めて、いろいろ買っていくわけですよね。

そうすると買うことを目的にしているというか、もちろん嬉しいんですけど、そればっかりを繰り返していることにすごい疲れてきて、次はもう何買おうみたいなのが常に頭に浮かんでいて、なかなか満たされていなかったんですよね。

もっとこう一個一個を大事にしようと思ってから、買う理由みたいなのをめっちゃ考えるようになりましたね。品質がいいのに満たされないってどういうことなんやろって。そこから自分なりの理由みたいなのを探すようになって、その一つが、生産ライン的なところもあるのかなあと思っています。

若尾:それぞれ選び方があると思うし、いい悪いとかじゃないと思う。ほしいものを買ったらいいと思うし、好きなものを身につけたらいいと思うんですね。最近だとブランドや服に、自分がちょっと関わってると、買いたくなっちゃうっていうのはあると思っていて。

シタテルでもアパレルブランドでなくても服を作って売る人が増えてて。そうやって自分の身の回りで作られているとか、どういう風に作っているのかを知れる機会があるものってなんか買いたくなっちゃうなーって思います。あと流行のもので自分が来年着なくなるだろうなっていうのはできるだけ買わないようにしていますね。もったいないじゃないですか。

山脇:あとは、いろいろ買いすぎて常にこう先のことばっかり考えてしまって、今、集中できないみたいなものありますよね?(笑)自分のキャパを超えすぎてものを持ちすぎてしまって、常に物とかに刺激されすぎてしまうと、なんか今のものを楽しめないというか。流行がもう次きちゃってるよ!みたいな。自分の中で納得できるものというか、こだわりを持つことが大事ですね。

「LOOK IN」とは:
4月29日に「ものづくりから国際問題を見てみよう」をテーマとしたイベント「LOOK IN」が開催されました。EVERYDENIMさんとコラボした藍染ワークショップや、「ファッション」「宗教」「メディア」をテーマにしたトークショー、パネル展示を行い、和気あいあいとした雰囲気のイベントとなりました。慶應義塾大学公認学生団体S.A.L.のプロジェクトの一つで、日本をテーマにした問題を扱うWABISABI Projectが主催。

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