地域の人たちの密な関わりが減り、人間関係が希薄になりつつある昨今。高齢者の孤独死や子どもの虐待死など、もしも周囲の人たちが異変に気付いていれば防げたかもしれない事件も問題になっています。互いに見守り、助け合いながら生きていくために、地域の人たちが無理なく集まれる場所があったら──。そんな思いから「図書館」に着目し、民間の図書館の設置・運営を支援する活動をしているNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■新たな「つながり」を生む場所に

一般社団法人「みんなのとしょかん」の代表理事を務める川端秀明(かわばた・ひであき)さん(43)。2011年の東日本大震災の後、被災地に物資を届ける中で、資金も底をつき、「モノを届ける支援」の限界を感じていました。

そんな時、隣近所が知らない人たちばかりの仮設住宅に移り住み、人間関係をうまく築くことができずに孤立する被災者たちを目の当たりにしました。

一般社団法人「みんなのとしょかん」代表理事の川端秀明さん

「被災地に限らず、過疎の地域でも『コミュニティーの維持』が課題になってきていた。自治会や町内会への参加意識が薄れ、これを強制的に続けていくのはなかなか難しい。図書館は、誰でも気軽に、特に目的がなくても遊びに行ける場所。そんな『緩いつながり』の中で、地域の人たちが『一人じゃない』と感じられる場を作りたいと思った」。活動を始めたきっかけについて、そう話します。

震災直後、石巻市横川地区に設置された「みんなのとしょかん」(※現在は他の場所へ移動)。子どもの施設や老人ホームの中にも図書館を設置することで、交流のきっかけを提供している

「みんなのとしょかん」は行政からの支援を受けることなく、これまで被災地の仮設住宅を中心に保育所や老人ホームなど63もの箇所に図書館を設置してきました。

「『モノ』はなくなってしまうけれど、『つながり』はなくならない。本を読んだり借りたりする図書館という枠を超えて、地域の人たちがつながりを広げていく場所になれば」と川端さんは話します。

宮城県亘理(わたり)郡亘理町の「みんなのとしょかん」にて、スヤスヤと眠る赤ちゃん。図書館という枠を超え、地域の人たちがつながり、皆で子どもを見守り、育てるきっかけにも

■地域の人たちが「自分たちのもの」だと感じられるかがカギ

図書館を設置する上で大切にしているのは「持続可能かどうか」だと川端さん。

「『完成=ゴール』ではない。図書館の設置後、実際に運営していくのは地域の人たちだし、図書館をどう活かしていくかも地域の人たち次第。彼らが自分たちの力だけで運営していくことができるようにサポートしている」と話します。

図書館設置にあたってのミーティング風景。最初に目標をしっかりと共有する

「部外者が勝手に設置しても、それは地域の人たちからすると『誰かにしてもらったもの』であって、『自分たちのもの』ではない。それでは、その後の運営も難しくなってしまう。『自分たちのもの』であるからこそ、愛着も湧くし、アイデアも出てきて、新しいコミュニティーが生まれるきっかけになる。地域の人たちを巻き込んでいくことはとても重要」。「民間の図書館」のあり方について、そう語ってくれました。

■「図書館」という枠を超えて人が集まる場所となった事例

宮城県亘理郡山元町(やまもとちょう)にある「みんなのとしょかん」は、川端さんが携わってきた図書館の中で、地域の人たちの利用率が群を抜いて高い図書館です。

宮城県亘理郡山元町にある「みんなのとしょかん」

この図書館は、東日本大震災の後、津波によって流された旧山下駅の跡地に設置されました。オープン当初3,000冊だった蔵書が、今では地域の人たちが本を持ち込み、8,500冊にまで膨れ上がりました。

貸出本の累計は12,000冊を超え、内陸の復興住宅に移った子どもたちも、この図書館を目当てに自転車やバスに乗ってわざわざやってくるのだと言います。

図書館の周りには焼きもの教室やビニールハウスを改装したミニコンサートホールができ、たくさんの人が集まる場となりました。

山元町の「みんなのとしょかん」利用風景。子どもたちや家族がゆっくりと過ごせる場所だ

「あまり知られていないが、東日本大震災の後、山元町は岩手県の陸前高田市に次いで人口流出率が高かった地域。名も知られていない小さな町で起きたここの出来事に、地域の底力を見た気がした」と川端さん。

「小さな町の人口が減少した時、誰も支援はしてくれない。しかし、地域住民が自分たちの力で町を活気づけているというモデルケースに、この山元町がなっている。10年後、20年後、自分たちの住んでいる町も同じようになった時、果たしてこんな風に地域の人たちが力を発揮し、つながれる場所になるだろうか。

図書館の設置は、ただ一つの手段。図書館という役割を超えて、もっと大きなコミュニティーを生み出していくきっかけを、これからも作っていけたら」と話します。

毎年3月11日には、山元町の「みんなのとしょかん」の敷地内で慰霊の竹灯籠が飾られる

■リクエスト本の購入を応援するチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「みんなのとしょかん」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

集まったチャリティーは、紹介した山元町にある「みんなのとしょかん」のリクエスト本購入のための費用になります。

「JAMMIN×みんなのとしょかん」1週間限定のチャリティーデザイン(Tシャツのカラーは全8色。他にVネックTシャツやノースリーブ・パーカーなどあり)

JAMMINがデザインしたTシャツに描かれているのは、屋台のような移動式の図書館と、“Take your time”、「自由にしていってよ」というメッセージ。「すべてのまちに、としょかんを」という「みんなのとしょかん」の思いを表現しました。

Tシャツ1枚につき700円が「みんなのとしょかん」へチャリティーされます。販売期間は、8月28日〜9月3日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、ひとつの図書館が市民の手によってつくり上げられるまでの過程や、図書館の様子について、より詳しいインタビューを掲載中!
あわせてチェックしてみてください。

消えゆく「地域のつながり」を維持し、新たなコミュニティー発信地を創る。「民間の図書館」の挑戦〜一般社団法人みんなのとしょかん

山本 めぐみ(JAMMIN)
京都発チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」専属ライター。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。

【JAMMIN】
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