英国の心理学者ジョン・リーチ氏の研究では、災害時に落ち着いて行動できる割合は10~15%のみで、7割以上が何もできない状態になるとされている。首都直下型地震(南関東で発生するM7程度の地震)が30年以内に70%の確率で起きる(文部科学省地震調査研究推進本部調べ)と予測されているように、災害大国の日本で防災意識を向上させることは急務だ。若者向けに防災の啓発活動を行う一般社団法人防災ガール代表理事の田中美咲氏に話を聞いた。(河橋 成美、松尾 沙織、余承知=慶応義塾大学商学部2年)

防災ガールが日本財団と組んだ防災活動で、海にいると揺れや警報に気付かないため、オレンジフラッグを避難先のビルなどに設置した

田中氏は立命館大学を卒業後IT大手のサイバーエージェントに就職し、ソーシャルゲームの開発に携わった。1年半後には同社を辞め、拠点を東北に移した。いわゆる“OL”だった彼女を動かしたのは、彼女の心に生まれた「ある葛藤」だった。

きっかけは、2011年3月11日に起きた東日本大震災。当時、就職直前の大学4年生だった彼女は、震災後東北の災害ボランティアに参加した。就職後も空いている時間を見つけては東北に足を運び、積極的に活動に参加していた。

働きながら、復興支援で震災現場の状況を目の当たりにしていた彼女は、次第に自分の働き方に違和感を持ち始める。自分が携わるソーシャルゲームでユーザーを楽しませるべきなのか、それとも目の前で助けを求めている人を幸せにするべきなのか。

「ソーシャルゲームのユーザーよりも、震災で困っている人を幸せにしたい」

彼女は葛藤しながらも、被災した人々を助ける道を選び、復興支援の仕事を始める。その中で、これ以上震災や災害で悲しい思いや大変な思いをする人を増やさないためには、どのようにすれば良いのかを考えるようになった。

「人が地球に生まれ、育ち、生きていくと決める限り『防災』は私たちと切っても切り離せない。そのために防災が当たり前の世の中にしたい。これは、人生をかける価値がある」そう思い立ち、「防災」という社会課題を仕事にすることを決意したのである。

今年で「防災ガール」が設立されてから4年が経つ。この間防災ガールでは、“脱ダサい防災”を掲げ、防災のイメージを変えてきた。

個性豊かなメンバーたち、中央が代表の田中さん

「防災」はネガティブなイメージを持たれがちだ。同団体が実施した渋谷にいる若者を対象にした街頭アンケートでは、「防災」へのイメージについて、「楽しくない」「ダサい」「めんどくさい」などの回答が多かった。

厚生労働省の調査でも、実際に防災対策をしている若者は、4人に1人しかおらず、東日本大震災があったにもかかわらず、「防災」が日常とは切り離されている。

ほとんどの人が「いつ起こるかわからないことに時間やお金をかけることに対し、抵抗を感じている」「なにをして良いかわからない」と回答した。

災害大国の日本に生まれた私たちにとって、防災は切っても切れない問題なことは確かだ。常にある課題だからこそ、時代に合わせて変化していかなければいけないと田中氏は考え、今日も「防災」のイメージを変える活動を続けている。

防災ガールでは、「防災が生活の一部になっている」という状態こそが防災のあるべき姿だと考え、メディア発信や商品開発などの啓蒙活動を通して新しい防災の価値提案に取り組み続けている。

たとえば、女性向け防災ブランド「SABOI」を立ち上げ、普段から持ち歩きのできる防災グッズの提案を行った。いつ何が起きてもおかしくない時代だと言われている。だからこそ、防災ガールは「生きることを諦めない人たち」に新しい防災のカタチを届けていきたいと語る。

今後も「防災」という課題が完全に解決することはない。常に変化する時代やこれからのフェーズに合わせて、私たちはこの課題と向き合い続けなければいけない。「防災」が当たり前の世の中をつくるために、これからも彼女は走り続ける。

*この記事は日本財団CANPANプロジェクトとオルタナSが開いた「NPO大学第2期」の参加者が作成しました。

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