小学生が放課後を過ごすコミュニティである「アフタースクール」を運営する、放課後NPOアフタースクールがこのほど「第3回企業×NPO共創フォーラム」を開催した。City Lab Tokyo(東京・中央)において、企業とNPOが協働することで「子どもたちに何を届けられるのか」というテーマで勉強会を実施。企業とNPOの「共創」で生まれる「コレクティブ・インパクト(集団的影響)」について考えるきっかけとなった。(宮原 大祐)

会場には企業の社会貢献事業の担当者を中心とした約70人が集まった

基調講演では、村井満氏(日本プロサッカーリーグ理事長)が地域との協働における次世代育成のあり方について、「日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)」で実践された共創事例をもとに講演を行った。

■Jリーグの事例から学ぶ共創の価値

Jリーグは「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」を理念の中心に据え、地域に密着して施設開放や交流活動を行ってきた。
「それでも野球人気には勝てなかった。だから視点を変えました。これまではJリーグが持っている施設の開放や選手との交流活動を提供するかわりに、サッカーを好きになってね、よく思ってねという価値交換モデルでやってきた。でもこれからはJリーグを使ってみんなで社会課題を解決しようよという共創モデルの形にしました」と村井氏は語る。

その効果は絶大だった。多様なセクターから300個を超える様々な案が上がり、そこから実際にプロジェクトとして「あたまがよくなるスタジアム」が立ち上がった。これは地域の学生やサポーターが、宿題を持ってやってきた子どもたちの面倒を見てあげるという取り組みだ。Jリーグのスタジアムという場を使って、地域の人々が新たなつながりを得ることができた。

共創モデルへの転換にまつわる秘話を語る村井氏

価値交換モデルでは富の取り合いになってしまい、そのまま続けていては限界を迎えてしまう。そこで見出した新たなモデルは、様々な立場の人たちが共通の課題を前に、同じ方向を向いて手を組むというもの、つまり「共創」だ。Jリーグもプレイヤーの一人となり、各々の強みを活かした共創モデルで課題を解決する。これが村井氏の出した答えである。

■あなたの会社の理念や強み、子どもたちに届けませんか?

ワークショップでは参加者それぞれが、放課後NPOアフタースクールと一緒にどのようなプログラムを共創できるかを考えた。自分が所属する企業の理念や強みと、実際に子どもたちから上がってくる「やってみたい」の声や「好き」の声を踏まえたプログラムを同団体のスタッフと一緒になって議論した。

「アフタースクール」の子どもたちから寄せられた「やってみたい」や「好き」は壁一面を覆い尽くすほどだった

ある班では、つみ木にはないビルの強みとして「中に入れること」を見出し、建設中のビルに潜入してモノの質感や重さを感じるプログラムや、誰もいない建設直後のビルを懐中電灯で探検するプログラムを考案した。

別の班では、「人間の体の中に入りたい」という声や「子どもたちは虫が大好き」というスタッフの助言を活かして、小型カメラで虫の視点を体験するプログラムを考案した。

「うちの企業ならこの強みを活かしてこれをやりたい!」を発表する参加者たち

事例紹介やトークセッションでのインプットを受け、参加者はアウトプットに前向きに取り組み、子どもたちへの教育に向き合っていた。

■子どもの教育は学校や家庭だけにしか担えないのか

フォーラムを主催した放課後NPOアフタースクールは、「日本の未来を担う子どもたちの笑顔を守る」、「子供たちの放課後に社会の力を集めて、新時代を切り開く力を培う」という想いを実現するために、2つの事業を行っている。

常駐のNPOスタッフと、地域の住民や企業から集まった「市民先生」で、子どもたちの見守りや体験プログラムを提供する「アフタースクール」事業、企業の想いや強みを活かした教育プログラムを、学校の授業や放課後の活動として届ける「企業連携プロジェクト」事業だ。これらを日本全国に展開している。

パンフレットと講演をもとに放課後の価値について考える機会となった

新時代を切り開くことができる力をもつ子どもを育てることに関して、企業の力を活用することほど効果的なことはない。実際に学校の先生からは「社会のスピードについていくのはなかなか大変。その点で企業との連携は刺激になる」、「プログラミングをやったことがないから、企業のノウハウを活かせるのは助かる」といった声が上がっている。企業の力は子どもの力を学校教育とは違った観点から伸ばし、社会へ解き放つのである。

■「より広く×より深く」で共創する新たなコミュニティ

トークセッションにおいては、企業とNPOの協働事例の紹介が行われた。すでにIT技術のノウハウを活かしてプログラムを届けているセールスフォース・ドットコム、ソニー、楽天が、放課後NPOアフタースクールとタッグを組み、新たに手がけるのが「放課後STEAMラボ」である。

「STEAM」とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の頭文字を取った教育用語だ。STEAMラボではタブレットなどのデジタルなツールや木工・工作のためのツールなどを用意。子どもたちが遊びながら探究することでこれらの分野を横断的に学び、クリエイティビティや課題解決能力を育むことを目指している。

「コレクティブ・インパクト」を生む新プロジェクト「放課後STEAMラボ」を説明

「科学ってこんなに身近だったんだ」と思ってもらえる機会を「より広く」子どもたちに提供できつつあるいま、放課後STEAMラボによって「より深く」の探求学習を提供することができる。4つの組織が子どもたちのために共創する、この新たなコミュニティの価値は計り知れない。

■多様なステークホルダーとともに企業やNPOができること

企業連携プロジェクト事業の可能性は大きい。企業のステークホルダーは顧客・取引先・株主など多岐にわたるが、NPOも市民・官庁・地方公共団体・教育機関など多様なステークホルダーを持つ。両者が手を組むことによって、一つの問題に対してあらゆるプレイヤーが向き合うことができ、網羅的なアプローチができるようになるのである。

持続的成長のために取り組むべき17の目標

子どもたちの未来のために、行政・教育機関・地域市民・企業・NPOが手を組んで共通の課題の解決を図っていく「コレクティブ・インパクト」を生み出すことが、持続的で効果的な課題解決方法になるのではないだろうか。本フォーラムからどのような共創プロジェクトが生まれていくのか、注目したい。



[showwhatsnew]

【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加