アブラヤシから生産されるパーム油は、生産効率性が高く、現在世界で最も多く消費されている植物油脂だ。日本では年間約65万トンが消費され、インスタント麺やスナック菓子といった食品、洗剤、化粧品などに幅広く利用されている。だが、パーム油産業は環境破壊や児童労働の温床になっているとして、国際社会やNGOの目は厳しい。(オルタナ副編集長=吉田 広子)
そもそもパーム油のリスクとは何か。パームは果実なので環境負荷が低いイメージがある。だが、実際にはパーム油生産は石炭以上の温室効果ガスを排出する。1トンあたりの温室効果ガス排出量は、石炭の2.4トンより多く約3.9─30トンと推計されている。その理由は大量の炭素を固定する泥炭地は、森林火災発生リスクが高いことに加え、プランテーション拡大のために人為的に野焼きされることがあるからだ。こうした火災は森林減少だけではなく、多量の温室効果ガス排出につながる。
森林減少も深刻だ。インドネシアやマレーシアではパーム農園が急速に拡大し、過去20年間で約360万ヘクタールの森林がパーム農園になった。パームは収穫後、24時間以内の搾油が必要なため、広大な農地開拓に加え、大規模な搾油工場が併設される。
地球・人間環境フォーラム(東京・台東)企画調査部の飯沼佐代子氏は、「一度農園になってしまうと、森林には戻らない」と警鐘を鳴らす。
さらに、パーム農園は土地を巡る地域住民との紛争が絶えず、インドネシアでは、パーム農園開発許可を巡り4千件以上の紛争が起きている。
労働者や子どもの人権問題といったリスクもある。マレーシア・サバ州農園では、インドネシア・フィリピンからの移住労働者が85%を占めているが、斡旋システムで労働者に多額の借金を負わせたり、奴隷的な労働が横行したりしているという現状がある。
移住労働者の子どもは政府の教育や医療サービスが受けられず、農園で働かざるをえなくなる。
こうしたことから、米労働省は、パーム油を強制労働や児童労働への関与が認められる製品に指定している。一方で、日本のパーム油最大の調達先はサバ州で、他人事ではない。