福岡県の西部に位置する糸島市を訪れた。福岡空港もあり、賑わいを見せる福岡市と隣接しながら、とても自然豊かな地域で山と海に囲まれ、農業も栄えている。この糸島で2018年秋に開催される「糸島国際芸術祭 糸島芸農」の実行委員である松崎宏史さんを取材した。(武蔵大学松本ゼミ支局=下河辺 美優・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)
「糸島芸農」とは糸島市二丈松末(にじょうますえ)地区で行われる芸術祭である。糸島は自然が豊かで農業も栄えており、近年国内外問わず芸術家たちが多く移住してきている。
しかし、彼らの創作活動の発信はまだ限られたものであるため、糸島の魅力を再発見し、これまでの創作活動や農業などの生産活動をアートで繋いで、発信していこうとする取り組みである。このイベントを通して糸島の地域を活性化させることを目的としている。
糸島芸農の特徴としては、町全体が会場となっていることである。一般的な芸術祭やアート系のイベントでは美術館や施設を貸し切って、そこに作品を展示する形式を思い浮かべる。
しかしこの糸島芸農では、町にある広場や森に作品を展示したり、そこにあるものと融合させて作品を制作したりしている。この形式も地域活性化のため、糸島という町を知ってもらいたいという想いからだそうだ。
松崎さんに糸島芸農を企画した経緯を伺った。松崎さんは11年前「Studio Kura」という会社を立ち上げた。そこではArtist in Residence Programといって、米蔵をスタジオとして開放し、海外から来た芸術家が1~2カ月そこに滞在して、作品を作り発表するというプログラムである。
以前、このプログラムに参加したオランダ人の芸術家から田んぼで作品を作りたいという希望があったそうだ。さらにこの米蔵のスタジオを見学する人も増え、糸島の特色でもある農業とアートを組み合わせたら面白いのではないかと感じた松崎さんは2011年冬にイベントを企画し、翌年秋に第1回目を迎えた。
イベントは隔年で行われ、次回は4回目。松崎さんは、アーティストたちが糸島の新たな魅力を引き出してくれているおかげで、だんだんと地元の人にも認知され、これからも神社のお祭りのように続けていくことで、目的でもある地域活性化に繋がっていくのではないかと語った。
さらに、2018年の糸島芸農に向けて他美術関係のイベントでの宣伝やラジオ、雑誌、クラウドファンディングを通してPR活動を行っていきたいと語った。
私は取材をする前、どうして糸島に移住をする芸術家が多いのか疑問に思った。自然豊かな場所や農業が栄えた場所、芸術的な地域は他にも日本にはたくさんある。
松崎さんに尋ねたところ、まず田舎でありながら福岡の中心部に隣接し、アジアにも近いといった立地の問題。また、海や山など一つの場所に留まらず、芸術を感じる場所がたくさんあるからではないかと教えてくださった。
今、住みやすい町、移住したい町として注目を浴びている糸島だが、アートと農業を掛け合わせて、他の田舎とは異なる新たな糸島の魅力を引き出してほしいと感じた。
糸島芸農では町をまるごとアートの材料にしていることもあり、糸島だけでなく、日本の各地域でもう一度町全体を見つめ直すことも大切だと感じた。