2025年、いわゆる「団塊の世代」と呼ばれる人たちがすべて75歳以上の後期高齢者となり「超高齢少子多死時代」を迎えることになる日本。これに伴い、これまで機能してきた地域コミュニティの高齢化や独居高齢者の孤立、社会保障費の高騰や地域資源の不足など、様々な課題が顕在化するといわれています。たとえ社会資源が限られていたとしても、すべての人が人生の最期まで穏やかに暮らせる「持続可能な社会」の実現のために活動している団体を紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■「超高齢少子多死時代」に備える

すでに超高齢化社会となり、多くの人が亡くなる多死社会を迎える日本(※写真はイメージ)

総人口に占める65歳以上の人口の割合が27%となり、世界に先駆けて超高齢化社会を迎えている日本。今後も高齢者の数は上昇していくと予想されています。

「さらに日本の人口は減少傾向にあり、生産年齢人口の割合が減ることで、これまで日本社会で機能してきた生態系(エコシステム)が崩壊し、機能しなくなる恐れがある」と指摘するのは、一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会事務局長の千田恵子さん。

一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会は、日本がこれから迎える「超高齢少子多死時代」に備え、人生の最終段階を迎えた本人やその家族を援助できる人材を育成することを目的に2015年から全国各地で講座を開催。これまで2,300人(※2018年1月現在)が受講しました。

エンドオブライフ・ケア協会理事の小澤竹俊さん(左)と事務局長の千田恵子さん(右)

エンドオブライフ・ケア協会理事であり、ホスピス医でもある小澤竹俊さんは、超高齢少子多死時代を前に人材の育成に取り組む理由について次のように話します。

「かつては多くの生産年齢人口で少ない高齢者を支える時代だったが、今後はそれが逆転する時代。資源(人・物・金)が不足する中で、従来の問題解決アプローチでは、超高齢少子多死時代に対応することは困難。何を”てこ”にすれば、苦しみを抱えながらも、人生の最期まで穏やかに暮らせる社会を実現することができるか。そのカギは、ホスピス・緩和ケア病棟で培われてきた対人援助にある。『人生の最終段階』という解決困難な苦しみを抱える人に最期まで誠実に関わることができる人たちの育成、『看取り』を支える人材の育成が必要だと考えている」

■苦しみを通じて“支え”に気づく

「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」の様子。講座は主に全国主要6都市で開催。全国から参加者が集まり、真剣に、時に笑いも交えながら講師やお互いから対人援助の基礎を学ぶ

千田さんは、今後の課題を次のように指摘します。

「今後高齢化が進み疾病も多様になり、必ずしも病院ではなく、住み慣れた自宅や施設で最期まで生活する傍ら、医療や介護を必要とする人が増えてくる。
また、自宅や施設で最期を迎えたいという人も増えており、国としても、住み慣れた自宅や施設で最期まで療養できる環境をと推進している。つまりこれからは、生活を支える家族や介護職も、最期に関わる可能性が増えていくということになるが、いざ『人生の最終段階』に直面した時、本人だけでなく、介護にあたる家族や医療・介護の専門職の人たちも不安を抱えることが少なくない」

「間もなく死を迎えようとしている人は『周囲に迷惑をかけたくない』『こんな自分なら早く死んでしまいたい』と誰にもわかってもらえない孤独感や不安を抱えている一方で、家族や医療・介護の専門職も、苦しむ人を前にどう関わって良いのかわからず『力になりたいのに、何もできない』という無力感から、自分を認めることができず、逃げ出したくなり、関わり続けることが困難であると感じている」

救命救急、農村医療を経験した後、ホスピスといういのちが限られた人と関わる道を選んだ小澤さん。「多くの患者さん・家族と関わる中で学んできたことを、子どもからお年寄りまで伝えたい」と話す

ホスピス医としてこれまで多くの患者の看取りに関わってきた小澤さんは、課題解決の糸口を次のように話します。

「身体が言うことを聞かなくなり、これまで当たり前にできていたことができなくなる。その事実に直面する苦しみは、医学や科学がどれだけ発達しても解決することはできない。しかし、苦しみを通じて、健康な時には気づかなかった自らの”支え”に気づくとき、穏やかさを取り戻す可能性がある」

家で過ごせることの喜び、家族が傍にいる安心感、何気ない友人の一言…。「自分の苦しみをわかってくれる人」の存在が、やがて自己肯定感へとつながり、たとえ解決できない苦しみがあったとしても「生きていてよかった」と思える可能性が生まれるのです。

■「看取り」に関わる援助者の育成

講座の一コマ。事例検討では、死を前にした本人が抱える苦しみや支えを様々な視点から見出し、どのようにその支えを強めることができるのか、それは誰ができるのか、グループで議論する

その可能性を切り拓くためには、間もなく死を迎える人の苦しみをまず丁寧に聴くこと。そして、苦しみを通じて気づいた本人の”支え”を、関わるすべての人で応援すること。これが、『看取り』に関わる援助者に求められることだと小澤さんは言います。

小澤さんと千田さんは、この際に必要となるコミュニケーションの手法や考え方を医療職や介護職をはじめとする「看取り」に携わる人たちに伝えるために、全国各地で「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」を開催してきました。

40〜50代のビジネスパーソンを対象に親の介護や最期について学ぶ企業向けワークショップにて、登壇する千田さん(写真中央)。「親の介護と最期を経験した立場でお話することもあり、その過程で自分自身に起きたことを振り返り、意味づけする機会をいただいている」と話す

「現在、日本で1年間に亡くなる人の数は130万人以上。この数は今後増加の一途をたどり、多死時代を迎える。

人生の最終段階にある本人だけでなく、その家族や援助者も苦しみを抱えている。そしてこういった人たちもまた、自分の心の中にある“支え”に気づくことで、たとえすべての問題を解決することができない自分であっても、なお自分を肯定し、逃げずに目の前の課題と向き合うことができる。

『看取り』に限らず、現代社会で苦しみを抱えながら人が生きて行くための方策は、エンドオブライフ・ケアにおける対人援助の枠組みそのもの。解決困難な苦しみを抱えながらも、なお穏やかに、折れない心でしなやかに、強く生きられる社会をつくっていきたい」

今後のビジョンについて、二人はそう語ります。

■困難と向き合い互いに支え合う社会をつくる活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、一般社団法人「エンドオブライフ・ケア協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

1アイテム購入につき700円がエンドオブライフ・ケア協会へとチャリティーされます。集まったチャリティーは「解決困難な苦しみを抱えながらも、なお穏やかに、折れない心でしなやかに、強く生きられる社会」を目指し、より多くの人たちにメッセージを伝える動画制作のための費用になります。

「JAMMIN×エンドオブライフ・ケア協会」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色。他にスウェットやパーカーなどあり)

JAMMINがデザインしたアイテムに描かれているのは、タンポポやスィートピー、サンザシの花で力強く描かれた円。「一人ひとりの命は、大きな円(縁)の中に生かされている」というメッセージを表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、1月29日〜2月4日までの1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、「超高齢少子多死時代」を迎える日本の今後の課題やエンドオブライフ・ケアの活動について、詳しいインタビューを掲載中。ぜひチェックみてくださいね。

超高齢少子多死時代において「持続可能な社会」を目指す〜一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。

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