2016年4月に女性活躍推進法が施行されて以来、企業での「女性が働きやすい環境づくり」が進みつつある。そんな中、男社会と言われてきた建設業界でも、女性の活躍を後押しする動きが見え始めている。「体力的な負担が大きい」「休日の打ち合わせが多い」など、女性の進出を阻みがちな業界の課題をどう乗り越えているのか。(オルタナS関西支局=高野 朋美)
「どんな住まいにするのか。そこには生活者の視点が欠かせません。そう考えると、本来家づくりは女性に向いている仕事だと言えます」――吉武工務店(東大阪市)代表の吉田丈彦さんはそう話す。
しかし、建築や建設の分野で働く女性の数は増えていない。厚生労働省が発表した2014年度の「賃金構造基本統計調査」によると、建設業の女性比率は10.4%。15業種中で最下位だ。
トップの医療・福祉業69.5%と比べると格段に低いことが分かる。女性用のトイレや更衣室が用意されていない、土日に個人宅を訪れ打ち合わせをすることが多い、職人や技術者に男性が多く女性が現場に入りづらい、などが主な理由だ。
しかし、そんな住宅業界にありながら、女性の活躍を促す環境を積極的に整備する企業が登場している。吉武工務店もその一つだ。
昨年11月、事務所を増設して古民家風の女子更衣室と休憩室を設置。今年の4月に入社した初の新卒女性社員が、さっそく利用している。
あえて和の空間に仕上げたのは、空気が優しく、くつろげるから。「女性や若手が入社すると会社の雰囲気が変わる。住まいの設計や施工には女性の感性が必要なので、妊娠・出産しても働き続けられるよう、在宅で仕事ができる仕組みも作りたい」と吉武さんは意気込む。
リノベーション業のシンプルハウス(大阪市)は、5パターンのシフトを用意することで、子育て中の女性でも働きやすい勤務体系を整えている。
例えば、平日なら9時30分から16時30分までを勤務時間とすることで、保育園の送り迎えが楽になる。
さらに、女性がやりがいを感じられる職場環境づくりに注力。営業支援システムやグループウェアなどのシステムを導入し、情報共有やコミュニケーションをスムーズにする工夫も行っている。
「情報共有によって、家づくりの一部分だけでなく、すべての工程への理解を深めることができます。それによってさまざまな気づきが生まれるし、自分のキャリアアップややりがいの実感にもつながります」(代表の山本武司さん)
現在、社員の半数が女性。コーディネーターや設計プランニングなど、お客様と直接やりとりする仕事が中心だという。「お母さんになって子育てした経験があると、言葉に説得力が生まれる」と山本さん。男性と女性の長所を組み合わせた多様性のある住まい提案を、会社の強みにしたい意向だ。
2006年から女性の活躍推進に取り組んできた積水ハウスは、神奈川営業本部の8支店すべてに、女性の現場監督を配置。育児と仕事を両立するケースもあり、女性がキャリアアップしながら働き続けられる体制を整えている。
神奈川営業本部が女性を現場監督に任命し始めたのは2012年。本人や職場の戸惑いを拭い去るため、主任検査員が指導者として張りつき、集中的な教育を行った。
また、全支店の技術幹部らを集めて技術次長研修を実施。すべての支店が納得して女性の現場監督を受け入れるベースを作った。
現場の風土を改革する役割を女性自身に与えることで、向上心やお互いのネットワークを強化。女性の視点を生かすだけでなく、経営的な対応ができる人材育成に成功していると言う。これによって同社は「多様性を受け入れ、お客様のニーズや変化に強い組織ができた」としている。
少子高齢化を背景に、新築住宅の着工数は、最盛期だった1970年代の190万戸をピークに、2016年度には97万戸にまで減少している。家を建てる人口が減る中、住宅購入のキーマンと言われる女性のニーズをいかにとらえ、選ばれる家をつくるのか。
その突破口となるのが、女性が働きがいを実感できる社内環境づくりであることに、先進企業たちは気づき始めている。