ダイベストメントとは、インベストメント(投資)の反対の意味で、主に地球温暖化の原因になっている石炭・石油・ガスなどの化石燃料関連企業への投資撤退を呼び掛ける運動のこと。個人ができることの一つに銀行口座を環境に配慮した銀行へ変えることがあります。持続可能性を考え銀行口座を変えた人へ話を聞きました。400年以上の歴史を持つ善了寺では、人と人とのつながりを何よりも大切にされています。その考え方は、戦後まもなくの昭和30年ごろ、お寺を舞台にしながら、地域の人たちがつながる場をつくっていく活動をしていたお祖父さんから受け継がれているものだそうです。(棚尾 真理絵)
町内会長も務めていた成田さんのお祖父さんは、地域コミュニティのつながりを強くするために、本堂の中にダンスホールや映写室など、当時としてもとても珍しい、人が集える場所をつくりました。そして現在では、デイサービスやカフェも併設し、たくさんの人がこの場所を利用しています。
成田さんもそういったお祖父さんの意志を継ぎ、戸塚駅付近の開発事業をきっかけに、10年前からまちづくりに携わるようになったと言います。
開発事業が始まった当初、明治学院大学が戸塚に設立されて20年以上過ぎていたにも関わらず、戸塚の地域と大学は、あまり連携ができていなかったのではと感じていたと成田さんは語ります。そして、地域と大学を結び付けたいという強い思いを通じてつながった、明治学院大学の辻信一教授との出会いが、環境やお金の問題について考える大きなきっかけをくれたと話します。
さまざまな人との出会いやつながりを経て「ダイベストメント」にたどり着いたと話す、成田さんのパーソナルストーリーについてお伺いします。
――地球にやさしい銀行に口座をつくろう(ダイベスト)と思ったきっかけは何でしょうか?
聞心堂の建築を行った際、通貨を利用した寄付はお願いしませんでした。その代わりに、「建築の手伝いにきてください」という呼びかけを地域に行いました。建物の土壁は、のべ350人のボランティアとともに、約1か月かけて一緒につくりあげたものです。
お布施というのはお金に限定されるものではなくて、お米やみなさんの労力もそれに含まれていると思います。本来、お寺は多様なものに支えられているはず。現代社会では、仏教の中のお布施という概念がお金に集約されてしまっている。その状況をもう一度考え直さないといけないと思います。
そこで問題なのが、お金の預け先。浄財といいながら、そのお金を預けている先が何に使っているかについて、まったく意識していませんでした。預けたら返ってくるものだというところで、銀行との関係性は終わっていたのです。
そして辻先生との出会いを通じて、環境運動というのは単に地球に良いことをするだけではなく、トータルに命をとらえるという、人類学的な視点を学ばせていただきました。お金の問題については、辻先生やそのご縁でつがなることができた城南信用金庫の吉原毅さんに学ばせていただいて、できるところからやっていこうということで、今回ダイベストメントに踏み切りました。
――今回はどの口座をどの銀行に替えたのですか?その銀行を選んだ理由も併せて教えてください。
今回は持っている口座の一部を城南信用金庫に替えました。メガバンクを使用していたのですが、そこを変えた理由は、吉原さんとの出会いからです。城南信用金庫が原発問題に対して活動されているのはもちろんですが、それだけでなく、銀行と生活との関わりに真摯に向き合って活動されている吉原さんの姿がとても大事だなと思ったからです。これは宗派を超えてできることだと思います。
城南信金さんのように、次の一手を考えながら、10万年後の社会を考えていく視点を持てるか持てないかというのは、とても大事なことだと思っています。現代には、生と死を考えたときに安易に亡くなった人たちを過去の人にしてしまう死生観があると思います。ほとんどの人が、死んでしまったらそれでおしまいだという感性になってしまっているのではないでしょうか。
それでは、過去の人に学ぶといことがなくなってしまうと思っています。今の私たちの1票が、次の10万年後に影響を与えているということを、はっきり認識させてくれたのが原発問題です。投票の1票の重さというのは、今やっていることすべてにおいても言えることです。そうしたとき、銀行というのがどこに向かって物事を考えているかというのを、お寺も仏様の教えを基準にしながら、選んでいくことが必要なのではないかと思います。
――口座を替えてみてどうでしたか? 何か気持ちの面で変わりましたか?
やってよかったと思いました。大きな問題だけれども、個人にもやれることがある、しかも何気なくできることであるというのがとても大事だと思います。口座をつくるのに、どれくらいの時間を要しましたか?城南信用金庫の支店が近くにあったので、1週間くらいで終わりました。
――銀行に伝えたいメッセージはありますか?
ダイベストメントに参加してほしいというのが1つです。また、銀行側がもっと情報を出してほしいというのもあります。技術革新が進めば、人と人がつながることが少なくなっていくと思います。でも、お金もコミュニケーションだと思うので、関わりをどうやって豊かにできるかというのがとても大事なことだなと思います。
御仏とともに「うしろめたさ」を粗末にしないことが大切です。それを感じながら御仏とともに生きるというのが在家仏教の考え方です。そのような考え方だと、すべての預金を城南信用金庫にうつせという極論にはなりません。
こういう考え方に基づいた方向付けが大事。このような方向付けに共感してもらえれば、他の金融機関も変わらざるを得ないと思います。
――これから地球にやさしい銀行を選びたい方に向けて、メッセージをお願いします。
かっこいいことをやっているという感じではなく、暮らしの中でできることなので、あまり難しく考えずに、気軽に1歩踏み出してみることが大事だと思います。
自分も視野を広めていただいたので、このダイベストメントムーブメントに注目していくこと、そして各銀行の動きをそういう視点から見るということを大事にしていきたいですね。
今社会には、当たり前と思い込まされていることがたくさんあると思います。本当は、当たり前ではないということを語りかけるのが仏教でした。自分たちの暮らしのベースとなっている資本主義にしても金融にしても、ちゃんともう1回問い直すということをしていきたいですし、お寺だからこそ、こういったことを勇気を持って発信していける、そういう場でなければいけないのかなと思います。
また今後は、信金などの地域に密着している銀行と話をしていくことも大事にしていきたいです。そして自分のまちづくりの活動にもつなげていきたいと思っています。
プロフィール:
成田智信
1968年生まれ。龍谷大学大学院文学研究科博士課程・真宗学専攻 単位取得満期退学 文学修士 元真宗仏教学院講師
宗教法人善了寺代表役員 宗教法人善了寺通所介護事業所『還る家ともに』代表役員