かつて「平均寿命が短い」と言われていたダウン症ですが、環境の変化に伴い、現在は寿命が伸びてきていることが明らかになっています。と同時に、30代・40代・50代を迎えたダウン症のある人たちが、「健康」や「老い」とどう関わっていくのか、また、それぞれの暮らすコミュニティとどうつき合っていくのか、医療・福祉・保育・教育・就労などのあらゆる分野で、新たな課題も生まれてきています。実態調査に基づく研究で、「新しいダウン症像」を見出そうという取り組みを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)
■見えていない、成人期以降のダウン症のある人の実態
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しかし近年、ダウン症のある人たちへの治療や手術が積極的に行われるようになり、昔と比べて寿命が長くなってきました。
「報告によると、寿命は60歳ぐらいと言われている」と話すのは、公益財団法人日本ダウン症協会(東京)の理事、また日本ダウン症協会大阪支部長であり、ダウン症研究の第一人者でもある大阪医科大学教授の玉井浩(たまい・ひろし)先生(64)。ダウン症のある娘さんを持つお父さんでもあります。
「寿命は伸びて皆長生きしているのに、それぞれの人たちが一体どんな生活をしているのか、何に困っているのか、そして何に困っていくのか、ダウン症のある人たちの成人期以降の実態や課題が、まだ見えていない」と現状を指摘します。
■ダウン症のある大人たちの「老い」や「健康」にもアプローチ
成人期のダウン症のある人たちのために、今後取り組まなければならない課題の一つは「老い」や「健康」に関する医学的な研究だと玉井先生はいいます。
「ダウン症のある人たちの体力的なピークは30代。40代から老化が始まっていくと言われているが、その中にも比較的老化が早い人と、早くない人がいる。この理由が解明できれば、比較的元気に老後を迎えることができる人が増える」
ダウン症のある人たちの「死因」に関する研究も進めていく必要があると玉井先生は指摘します。
「ダウン症のある人たちは太っている人が多いが、実は高血圧や動脈硬化になる人は少ないという調査結果がある。また、白血病になる人は多いが、固形がんを患う人は少ない。ダウン症のある人たちの死因に関する特徴はいくつかあるが、研究自体が少なく、暗中模索の状態。つまり、「老い」という分野で、ダウン症のことがよくわかっていない、ということがわかってきた。テーマを決めて研究し、成果を生むことができれば、彼らの健康な生活や老いを支える知識へとつなげていくことができる」(玉井先生)
■生き生きと生きていくには「社会との関わり」が重要
ダウン症のある人たちが20代・30代・40代を元気に過ごせるようになった時、次に課題になるのは「社会との関わり」だと玉井先生は指摘します。
「社会とうまく関わっていくために、ダウン症のある人たちは『働く意味』をしっかりと理解する必要がある。それはどういうことか。いろいろな意見があると思うが、個人的には『やりがいを感じ、プライドを持って取り組むこと』だと感じている。そして『社会の一員』として、認められて生きていくことではないか。『働く意味』を伝えるには、働くことだけではなく、『お金の価値』も同時に教えていく必要がある。稼いだお金でほしいものを買ったり好きなことをしたり、いろんな楽しみがあるが、『その楽しみは、働いているからこそなんだ』というところまで、彼らがわかるように伝えていく必要がある」と話します。
■「社会の一員」として働くことが、希望や自信に
働くことで、ダウン症のある人たちが「社会の一員」として存在意義を感じ、生き生きと生きられると同時に、周囲のダウン症のある人たちにも希望を与えると玉井先生はいいます。
ひとつの例をお伺いしました。
全米のダウン症研究の第一人者として知られるブライアン・スコトコ氏のもとで働くチームには、ダウン症のあるスタッフが一員として働いているのだそうです。
スコトコ先生はダウン症研究の権威。全米中から彼のもとにダウン症のある人たちが集まってくる中で、ダウン症のあるスタッフがチームの一員となって働く姿は、彼らにとって「成人したらこういう仕事ができるんだ!」という希望や目標になっているのだそうです。
「私の知り合いにも、食堂でお皿を洗う仕事をしている方がいる。もしかしたら、健常者がやった方が効率は上がるかもしれない。誰でもできる仕事だと思われるかもしれない。けれど、彼女にだってできる。自分にできる仕事を一生懸命やって、社会の一員として生きているということに、彼女は自信とプライドを持っている。実態はまだあまり知られていないが、こういったかたちで社会の一員として、存在意義を持って生きているダウン症のある人たちの事例が、各地にきっとたくさんあるはず」
■「新しいダウン症像」を見出すために
医療や福祉、保育、教育や就労の分野から、成人期のダウン症のある人たちが「何に困っているのか」「何に困っていくのか」、その実態を研究し、またそのためのネットワークを作り「新しいダウン症像」を考えていくために、日本ダウン症協会は2017年に「日本ダウン症会議」を初開催し、その中で「成人期ダウン症研究会」を発足しました。
「日本ダウン症会議」は、ダウン症に関わるすべての人に開かれ、つながりを作り、意見交換をするための場であると同時に、「成人期ダウン症研究会」は、実態が明らかになっていない成人期のダウン症のある人たちの健康や就労、福祉など、様々な分野の専門家が調査研究を進めています。
「様々な専門家が集まってネットワークを作り、また今後研究を重ねて実態を調査していく中で、医療や福祉、就労や教育の面から、ダウン症のある人たちがより自分らしく、楽しく、誇りを持って生きられるような環境を作っていくことができれば」(玉井先生)
■成人期のダウン症のある人たちを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、3月21日の「世界ダウン症の日」を前に、公益財団法人日本ダウン症協会とコラボして1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
1アイテム購入につき700円が日本ダウン症協会へとチャリティーされます。集まったチャリティーは、成人期のダウン症のある人たちの生活をより豊かなものにしていくため、「日本ダウン症会議」と「成人期ダウン症研究会」の活動資金となります。
JAMMINがデザインしたアイテムに描かれているのは、かたちの異なる23の家。それぞれ2つずつ窓が描かれていますが、1つだけ、2つの窓と一つのドアが描かれています。ダウン症の特徴である「21トリソミー(21番染色体が通常より1本多い3本ある状態)」を表現しました。
「ダウン症だからこそ、ダウン症だからこそ、見える世界がある。ドアを開けて、そこからさらなる世界へと飛び出していこう」というメッセージが込められています。
チャリティーアイテムの販売期間は、2月19日〜2月25日までの1週間。JAMMINホームページから購入できます。
ぜひチャリティーに参加し、「世界ダウン症の日」を共に盛り上げてください。
(「世界ダウン症の日」公式ハッシュタグは #WhatIBringToMyCommunity #WDSD18。SNS投稿もお待ちしています!)
JAMMINの特集ページでは、成人期のダウン症のある人たちの課題や社会との関わりについて、玉井先生のより詳しいインタビューを掲載しています。是非こちらもチェックしてくださいね。
・ダウン症のある人が、年を重ねて豊かに生きられる社会を目指して〜公益財団法人日本ダウン症協会
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。
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