福祉の世界では 「社会とのつながり」が重要なテーマの一つです。茨城県にある「ごきげんファーム」では、障がいのある人たちが有機野菜栽培を通して、地域とのつながりを保っています。現在、レストランや養鶏場も運営しており、18歳から73歳まで合計100人以上が働いています。この取り組みを行うのは若干30歳の伊藤文弥さん。活動を始めた経緯などを聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■障がいのある人たちが「ごきげん」に暮らせる場を

「障がいのある人とそうではない人との良い接点を、地道に丁寧に、いろんな場所で作っていきたい」と話すのは、「ごきげんファーム」代表の伊藤さん。

「ごきげんファーム」代表の伊藤文弥さん。ご家族と

「ごきげんファーム」では現在、50品目・120種類の無農薬野菜を、100人を超える障がいのある人たちや就労困難者と一緒に、地域の使われていない畑を借りて育てています。

18歳から73歳までのありとあらゆる障がいのある人たちが、それぞれの力を活かしながら作った有機野菜を地域の方たちに直接配送したり、直売所に卸したりしています。

「ごきげんファーム」の名の通り、障がいのある人たちが元気に明るく、ごきげんに暮らすことが僕らの事業の価値だと伊藤さんは話します。

■「社会課題と自分とは無関係でない」と感じたことが、活動のきっかけ

障がいのある人もない人も、みんなそれぞれに目的や思いを持って働く。時にはぶつかり合うこともあるが、仲良く楽しく、生き生きと働いている

筑波大学に在学中、政治家を目指していたという伊藤さん。ある議員の元でインターンをしていた時、発達障害について調べる機会があったといいます。

「調べていくうちに、自分の身近な人が発達障害であることがわかった。それまでは社会課題と自分とは無関係だと思い込んでいたが、実は当事者の一人だった。そう感じたことが、障がいのある人の問題に携わるようになった大きなきっかけ」と当時を振り返ります。

毎週7〜8種、旬の有機野菜をお客様へ直接配送。近隣の地域にはトラックで直送している

「障がいを持ちたくて生まれてきたわけではないのに、障がいがあることによって本人やその家族が肩身の狭い思いをする。障がいがある人への理解が進むことで、障がいが当たり前のこととして受け入れられ、誰しもが明るく生きられる世の中を作っていきたいと強く思っている」

■農場のほかに、レストランや養鶏場も運営

「ごきげんファーム」は、農業だけにとどまらず、ファームで採れた新鮮野菜が食べられるレストラン「ごきげんキッチン」や、今年に入ってからは、平飼い卵の養鶏場「ごきげんファームかみごう」もオープンさせました。

レストラン「ごきげんキッチン」では、ごきげんファームで採れた新鮮野菜が食べられる。こちらは14時までのランチメニュー。3段重に野菜たっぷりのおかずとメインの料理、スープ、デザートがつく

「『障がいのある人への理解を深めましょう』と声をかけても、人は集まらない。収穫祭をやったり、マルシェを開催したり…。地域の中で僕たちの活動を応援してくれる人が増えるようなイベント、地域の人たちとの関係性を耕してくれるようなイベントを数多く開催している」

「ごきげんファームかみごう」では、鶏にストレスを与えない平飼いの養鶏を行う。おいしい野菜と良質な水を栄養にすくすく育った鶏の卵は、8月頃採卵の予定

「大人から子どもまで、楽しみながら障がいのある人と一緒に過ごすことへのハードルを自然に下げられたら。障がいのある人たちがごきげんに働き、地域の人たちもごきげんになれる場所。そんな場を目指している」

■「接点を持つ」にあたって、農業は優秀なツール

年に数回、地域の方やお世話になっている方たちに感謝を込めて、「流しそうめん大会」「収穫祭」「餅つき大会」など様々なイベントを行う。ファームスタッフ(障がいのあるスタッフ)も運営に参加し、たくさんの方に楽しんでもらう

なぜ農業だったのか?素朴な疑問を伊藤さんに投げかけてみました。

「『接点を持つ』ということに関して、農業はすごく優秀。農業体験をしたい人はたくさんいるし、野菜ほど皆が必要としているものもない。人と人とがつながり合っていく、そして同じ空間を体験し合っていくという意味で、農業はすごく良いツールだと考えている」

「日本は、効率だけを重視した結果、障がいのある人を隔離してきたという歴史がある。その方が効率的だという考えからだったが、障がいのある人を隔離することが、健常者との壁を大きくしてしまった。接点も何もないまま、偏った情報や固定概念で溝が深まってしまった」

「農業は『地域の人たちと一緒にできる』という良さがある。この『一緒にする』ということ、互いを知るということが、すごく大切」

■福祉施設が「地域の困りごと」解決の場に

毎年冬に開催する「餅つき大会」での一コマ。野菜販売で、地域の方たちに野菜を手渡し。イベントは地域の方との会話はもちろん、つながりが生まれる大切な場所だ

従事者が減りつつある農業の中で、福祉事業所の果たす役割は大きいと伊藤さんはいいます。

「ごきげんファームでは野菜を育てるほか、体験農園を運営したり、地元の農家のお手伝いをしたりもしている。背景には農業の担い手不足という課題も一つあるが、もう一つは、季節労働が多いという農業ならではの特徴もある。農業は収穫の時期は人手が必要だが、それ以外の手入れは一人でできてしまう。そうすると常時人を雇用するのは難しい。そんな時に、単発のお手伝いは重宝してもらえる。付き合いが長くなるにつれて、農家の方たちからも責任のある仕事を用意してくださるようになった」

「農業従事者が減り、また労働人口自体も減っていく中で、仕事を求める障がいのある人と地域の農業をつなげ問題を解決していく。『農業×福祉』(農福連携)には、まだまだ大きな可能性があると感じている」

にんじん畑。しぼりたての無添加人参ジュースはごきげんファームの人気商品

農業を支えることは、やがて「地域を支える」というもっと大きな役割をも担っていくと伊藤さん。

「農業の意味は『=食料をつくる』だけでなく、景観だったり水だったり、その土地の生態系だったり、その地域の様々な要素が絡み合ってくる。緑を見て自然と心が癒されるように、農業にはその職業以外の『地域の豊かさ』を感じられるという価値がある。『農業は大事』、それは多くの人たちが認識していることだが、その維持が難しくなっている今、そこに福祉が乗っかった時、担っていくことができる可能性はまだまだたくさんあるのではないか」

■地域で暮らす一人ひとりが変わることで、社会が変わる

地元の農家さんのお仕事を手伝う「農業ヘルパー」の様子。「最初は不安だったと思うが、スタッフのこともよく気にかけてくださり、少しずつ責任のある仕事を任せていただけるようになってきた」と伊藤さん

これまでの活動を振り返り、そしてまた今後について、伊藤さんは次のように語ってくれました。

「僕がこの活動を始めた当初は、社会を変える活動をしている社会起業家に憧れた。でも活動をしながらわかったことは、社会は基本的には変わらないということ。『社会が変わる』ためには『地域が変わる』必要があって、『地域が変わる』ためには『地域で暮らす一人ひとりが変わる』必要がある」

「国が政策を打ち出すと、一瞬社会が変わったような錯覚を覚える。法律によって障害者雇用は増えたが、実際の人々の認識はどうか。『法律で雇わなきゃいけないから雇う』『障がい者は面倒くさい』、そんなマイナスの認識が広がっているように感じる」

「障がいのある人に対する認識をプラスに変えていくというのは、決して楽ではないし、地道な作業。でも、その拠点を増やしていかないことにはその認識は広がっていかない。少しずつ、一人ひとりの認識を変えていきたい」

■「ごきげんファーム」の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

2017年に開設した「ごきげんファーム茎崎」では、米作りを行う。初めての稲刈りも皆で協力して行った

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「ごきげんファーム」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×ごきげんファーム」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円がチャリティーされ、ごきげんファームが運営するレストラン「ごきげんキッチン」で、家族連れや障がいのある人たちが気軽に食事を楽しめる小屋を建てるための資金となります。

「障がいのある人がごきげんに働き、ごきげんに育てた野菜や卵を食べてくださった方や関わってくれた方たちも、ごきげんになってほしい。レストランの小屋の建設は、そのためのプロジェクトのひとつ」(伊藤さん)

「JAMMIN×ごきげんファーム」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込み)。他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなども販売)

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、たくさんの野菜。農作業を通じて、地域の人たちとの間に生まれる関係やそこから生まれる幸せも、大きな収穫のひとつ。幸せの種を植えていこう、そんなメッセージを込めました。

チャリティーアイテムの販売期間は、7月16日~7月22日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページより購入できます。

JAMMINの特集ページでは、「ごきげんファーム」の活動について、伊藤さんのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

農業を通じ、障害のある人もない人も、ともに楽しく暮らせる地域を目指す〜ごきげんファーム(NPO法人つくばアグリチャレンジ)

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!

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